ぎっくり腰の根因は腸骨筋にあり(ギックラー必読の巻)
毎年、季節の変わり目と年末は、ぎっくり腰患者が増加する。ぎっくり腰が増加する原因は、急激な気候の変化、過労や過食、精神的ストレスの増加、冷え、運動過不足などが影響していると推察される。
最近はギックリ腰専門を謳う鍼灸整骨院や整体院、カイロプラクティック院なども増えてきた。しかし、実際のところ、長年ぎっくり腰に悩まされ、メディアで著名なクリニックや専門外来、大学病院リハビリ科、ゴッドハンドがいると噂の鍼灸院や整体院へしばらく通院したものの、一向に完治する気配が見えず、ぎっくり腰とは一生付き合ってゆくものなどだと諦めている患者が多い。
数年前から、私の師匠が開発した北京堂式が広く浅く普及した影響で、ぎっくり腰と言えば大腰筋というイメージが一部のギックラーの間で定着してきており、巷では「大腰筋をもみほぐします!」などと嘯く整体師も増加している。しかし、解剖学を多少なりとも心得ていれば、胸椎下部から骨盤腔内を通過し、大腿骨骨頭小転子へ付着する大腰筋をもみほぐすように触知することは物理的に不可能であるから、左様な謳い文句は医学的な知識不足や思い込みなどによる虚言または妄言である可能性が高い。
他の病態についても同様に言えることであるが、世の常として、藁にも縋る思いのジプシー患者を喰いものにしようと、詐欺的行為で患者を集める輩はギックリ界隈にも多数存在する。それゆえ、患者が無知であると、悪徳業者に容易に搾取され、ぎっくり腰が一向に改善しないばかりか、貴重な時間と治療費が無駄に浪費され、結果的に気苦労で交感神経優位となり、夜も痛みで眠れず、ぎっくり腰が慢性化して、腰椎周囲の筋肉が萎縮し、腰椎椎間板症や腰椎椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、腰椎すべり症、腰椎分離症など、本格的な腰部疾患へ移行するリスクが高まる。
しかしながら、現代の患者が頼りにする主な情報源はネットであって、多くの患者がぎっくり腰を治すべく、より良い治療法を求めて、ネットサーフィンを続けるわけだが、ウェブ上の口コミはヤラセばかりで、実際に、検索上位に表示されるサイトも業者によるSEO対策でGoogleのアルゴリズムに迎合した虚像ばかりであり、ぎっくり腰患者が腕の良い治療家に出逢える確率は極めて低い。また、ひと世代前に主な情報源であったテレビも、ネット同様にヤラセばかりで、メディアに頻繁に登場する自称業界人やプロフェッショナルも、実際には役立たずの臨床家や研究者であることが少なくない。考えてみれば簡単なことである。例えば、鍼灸に関して言えば、毎日多くの患者の治療に追われているような真の臨床家は、ツイッターを日に何度も更新したり、メディアに頻繁に出演したり、You Tubeで次々に動画をアップロードするヒマなどあるはずがない。つまり、世間で言う有名は、実際の臨床レベルを保証するものではなく、むしろ、世間的に有名であればあるほど、自ずと治療家としての胡散臭さを露呈させている可能性が高い。
それゆえ、1人でも多くの悩める患者が救われるよう、このブログでは、業界の真実を的確に露わにし、患者の知識武装を促し、悪徳業者や悪徳鍼灸師を自主的に避けられるよう、実践的内容を細かく記している。
おそらく、これまで、ギックリ腰の原因を明確に特定し、ある程度の効果を出すことができたのは、北京堂鍼灸創始者で、大腰筋刺鍼開発者の浅野周先生だけであろうと思う。実際、現代において、ぎっくり腰で最も効果があり、評判が良かった唯一の手技は、北京堂鍼灸の大腰筋刺鍼くらいで、多くの患者や鍼灸師仲間にヒアリングした限りでは、ぎっくり腰に即効性があった治療法は、北京堂以外で聞いたことがなかった。私も13年前に浅野周先生の内弟子となり、鍼灸院を独立開業して10年間ほどは、ベーシックな北京堂式でぎっくり腰患者を治療していた。しかし、大腰筋へ的確に刺鍼しているにも関わらず、術後、帰宅途中や帰宅後に再びぎっくり腰になったり、一時期良くなったが根治せずギックリ腰を繰り返すと訴える患者が少なからず存在し、ぎっくり腰における刺鍼法の問題点や、ぎっくり腰を根治させる方法を模索していた。
そもそも、「ぎっくり」の正体に関しては、未だに医学的解明がなされておらず、病院でも完治させる方法が存在しない。病院ではせいぜいブロック注射を打つか、鎮痛剤を投与して安静を促すのが関の山である。もちろん、魔女の一突きと呼ばれる如き激痛が腰に走ったら、急性膵炎や尿管結石、腰椎圧迫骨折などによる副次的急性腰痛である可能性もあり、先ずは病院を受診し、各種画像検査などによる医師の診断が必要である。その後、単なるぎっくり腰であるとの医師の診断が下されたら、長鍼を使いこなせる腕のよい鍼灸師に治療してもらうのが無難である。
「ぎっくり」の正体に関しては諸説入り乱れているが、当院では今のところ、「ぎっくり」の正体は軟部組織同士(筋膜や骨膜、神経、血管など)の広範囲にわたる、癒着による一時的可動域制限である、という結論に達している。一般的に、軟部組織は疲労や運動の過不足、外傷などによって局所的炎症や虚血、鬱血などが起こり、のちに炎症が長引いたり、炎症過度になると、組織同士が癒着し、果てには瘢痕化、骨化に至るとされる。
実際、筋疲労や肉離れによって、腓腹筋内側に度重なる炎症をおこしたり、外側広筋上部や三角筋中部へのウイルス注射で急激な炎症を起こしたりすると、炎症が治まったあとに局所的硬結(シコリ)が形成されることがある。ぎっくり腰によって硬結が形成されることは稀で、第三腰椎横突起症候群のように、大腰筋上部と横突起摩擦部に硬結が生じることはあるが、これがぎっくり腰の原因となったケースはあまりない。つまり、激しいぎっくり腰は主に大腰筋下部や腸骨筋の炎症、癒着によるものと考えられる。もちろん、北京堂の理論のとおり、大腰筋刺鍼のみでぎっくり腰が解除されるケースも多いが、私が診てきた限りでは、大腰筋刺鍼だけでは一過性に改善しても、術後1年以内の再発率が極めて高く、毎年、同じ患者がぎっくり腰の治療を求めて列をなす、という悪循環に至る可能性が高い。
前述したとおり、当院の理論においては、様々な「ぎっくり」や「引きつり」などの原因は、主に軟部組織損傷、局所的癒着であると考えているため、いわゆる「寝違え」、「肉離れ」、「筋(すじ)を違(たが)えたような感じ」も、すべて「ぎっくり」と同じカテゴリーに分類される。したがって、このような病態への基本的な刺鍼法はすべて同じで、当然ながら病態の根因が同じであるため、刺鍼法が同じであれば、施術後の結果も同様となる。
当院で「ぎっくり」、「ひきつり」、「寝違え」、「肉離れ」、「筋(すじ)を違(たが)えたような感じ」がある部位へ刺鍼した場合、通常は術後すぐ、または12~36時間程度で症状が消失または明らかな軽減を見せる。それゆえ、様々な治療院をジプシーしてきた患者は、実際に当院で施術を受けると、その著しい効果にみな驚く。しかも、薬剤のような副作用がなく、術後すぐに劇的変化が現れるケースがほとんどであるため、「魔法のようです!」とか、「鍼ってこんなに効果があるんですね!」などと叫ぶ患者が珍しくない。
ちなみに、当院での術後3ー5週間程度は、細胞レベルでの変化が継続すると推察され、施術の効果が遅効性に現れることもあるため、術後に著しい効果が見られなくても、1か月近く経過したのち、パッと症状が消失するケースもある。また、術後は多少のダウンタイムがあり、特に腓腹筋へ刺鍼した場合、2-3日歩きにくさが続いたのち、症状が消失するケースが多い。基本的には患部の状態が悪いほど、ダウンタイムが強く、長く続くことが多いが、初期は鍼治療を1週間に1回程度のペースで継続すれば、回復は徐々に早まってゆくのが一般的である。刺鍼によってある程度、患部の炎症が治まり、癒着が改善されてくれば、しばらく鍼治療をせずとも、良い状態を保てるようになる。
鍼灸師の間では、腸骨筋への刺鍼が最も難しいと言われており、実際、多くの患者が証言するには、得気があるように的確かつ素早く刺鍼できる鍼師は極めて少ないらしい。そもそも、北京堂鍼灸で指導を受けた鍼灸師以外、腸骨筋へ刺鍼しようと思い立つ鍼灸師が皆無に等しい。ちなみに、腸骨筋刺鍼は刺入部位や刺鍼角度、刺鍼深度を誤ると、腸へ刺さり、腹膜炎などを起こす可能性があるため、専門知識や臨床経験が少ないにも関わらず、プロフェッショナルを装っているような似非鍼師の腸骨筋刺鍼は避けるのが賢明である。
ぎっくり腰のような症状は数種あり、腸骨筋周囲の癒着が主因であるタイプの場合は、先ずは仰向けで腸骨筋へ刺鍼し、次に多裂筋と大腰筋へ適切に刺鍼する必要がある。大腰筋は太さ0.24-0.25程度の毫鍼で20-30分ほど留鍼すると良い(長さは脂肪層と筋層の厚みを考慮し、60-100mm程度までとする。深刺し過ぎると臓器を損傷する可能性がある)。多裂筋単独での癒着による腰痛は、主に多裂筋下部に多くみられるが、この場合は鈍痛が主体であり、ぎっくり腰のような激しい痛みが出ることはあまりない。腰方形筋と大殿筋上部付近の癒着による痛みは、腸骨稜を境にして上殿皮神経周囲に感じられることが多く、側屈や捻転で痛みが増悪したり、重症は身体が側方へ曲がったようになることがあるが、この場合もぎっくり腰のような激痛がでることは稀である。胸椎下部付近、僧帽筋と広背筋下部周囲(両筋の起始腱膜が重なる範囲)においては、稀にぎっくり的疼痛(ぎっくり背中)がみられることがあるが、この場合も激痛となるケースは少なく、ぎっくり腰のような極端な可動域制限は起こりにくい。大腰筋と腸骨筋は下部で寄り添うように走行していることや、腸骨筋が腸骨に占める表面積が大きいことなどにより、小腰筋と大腰筋、腸骨筋、腸骨周囲での癒着が広範囲で起こると、胸椎下部から大腿上部までの範囲で激しい可動域障害が起こりやすい(安静にしていると癒着の範囲が減少し、完治はせずとも寛解すると考えられる。つまり、癒着の範囲がある程度保持されている限り、ぎっくり腰は完治しない)。特に、大腰筋下部と腸骨筋は、腹部深層で筋腹が腸骨にへばりつくように走行しており、直接触れることができないため、温熱療法や指圧、マッサージなどによって外部から変化を与えることは不可能に等しく、現状では、当院のような長鍼を用いた鍼治療以外では、確実な物理的変化を与えることは難しいと思われる。
腸骨筋刺鍼は他部位への刺鍼に比べ、刺鍼時の疼痛(響き)が極めて強い。また、仰臥位での鼠径部付近への刺鍼となり、本能的恐怖感を覚えるためか、刺鍼を拒む患者が少なくない。だが、一度腸骨筋刺鍼を体験し、その劇的効果を実感すると、患者は覚悟を決めて、自ら打って欲しいと申し出るようになることが多い。ぎっくり腰を頻繁に起こす患者ほど、刺鍼時の疼痛(響き)が強いが、極端に腸骨筋が硬くなっている場合は神経の伝導が鈍っていると考えられ、刺鍼時の痛みをあまり感じないケースもある。この場合、数回の施術後に神経の伝導が回復し、徐々に痛みを感じてくるようになることが多い。一般的に、長年、毎年ぎっくり腰が頻発している重度なギックラーにおいては、数回の施術だけでもぎっくり腰が出る頻度が低下するが、生活環境が改善されない場合は、定期的な腸骨筋刺鍼が必要になる。患者によって通院頻度は異なるが、1-6か月に1回刺鍼すれば、ぎっくり腰が起こらず快適に過ごせる、というパターンが多い。当院ではこれまで多くのぎっくり腰患者を診てきたが、腸骨筋刺鍼を数回施した患者からは、「もう何年もぎっくり腰を起こさず快適に過ごせています。先生には本当に感謝しています」と報告されることが多い。日本では一般的に、鍼治療には即効性がないとされるが、これは真実ではない。医師が施術する鍼灸の本場中国においては、刺鍼技術は日進月歩であり、現状でも、適切に刺鍼すれば、難治とされた疼痛や長年の体の悩みも、瞬時に消し去ることが可能である。