フランス発衝撃エンタメ『異常(アノマリー)』の何が良かったか
2024年年末、衝撃的な小説に出会った。
出会いはそう、ある冬の晴れた日に、二子玉川の蔦屋書店にふらっと「なにかいい小説ないかな~」と立ち寄ったとき。
店頭の棚に「おすすめ」と積み上げられている本のなかで
この真っ赤な背景に「異常」と大きく書かれた異常な表紙が目に飛び込んできたのである。
フランス小説?衝撃エンタメ?あらすじ検索禁止?
なにこれ、ぜったいおもろい!!!
迷わず手に取り購入した。
ここからの内容は、まだこの本を読んでいない方には、閲覧しないでほしい。ネタバレを含みます。
読んだら是非戻ってきて、私の感想と見比べてみてほしいです。
この小説のなんといっても一番の醍醐味は、前半の「これから先何が起こるかわからない不穏な空気感」である。
読書メーターの感想には、「前半を我慢して読み進めると後半から面白くなってくる」といったような意見が多かったが、私は逆だった。むしろ、後半からトーンダウンしていったようにも見受けられた。
これには翻訳の加藤かおりさんの技術が一役買っているように私は思う。
文末を「~だ。」よりも「~している。~する。」で終わらせることを多用することにより、場面がよりリアルな疾走感を持ち、読者がまるでリアルタイムでその情景を観ている気持ちになるのだ。
さらに、内容も、各登場人物の話の最後には、警察が訪れたり、何か裏に不穏な事件がある可能性を示唆したり(例えば、ソフィアの性的虐待を匂わすシーン)、いったいこの物語の裏では何が起こっているのだろう?とハラハラして読み進めることができる。
なので、私は終始何か不穏な映画をみている気分になりながらこの小説を読むことができた。まさにエンタメ小説!あっぱれ。
中盤で、ようやくこの「不穏なもの」の正体が明かされる。それは、自分のダブル(重複者)が現れるということ。
ダブルの現れ方、描き方も見事だ。
・飛行機の異常気象の切れ目から発生
→映画バックトゥザフューチャーを思い起こさせる
・ダブってる人々に、ジューンとマーチという名前をつける ※登場人物の1人にエイプリルという名前の女性が出てくるのも粋である
・中国は何かを隠している、、
このダブルが現れるというのは前半から読み取れることはできない仕組みになっている。
1点、分かりにくい点としては、宗教観が要所で入ってくるところだ。ただここはさっと読み飛ばしても問題ない。
ヨーロッパの神学的観念も相まってよりこの物語が神秘的に思えてくるのは、技巧のなす技である。
私たちの日常も、知らない間に、異常なことが起こっている可能性は、ゼロではない。
ぜひ映画化してほしい小説!
2024年末、とても楽しめた。