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木に触れ、森と街の関係を考えるきっかけをつくる〜森デリバリー〜

東京・檜原村から”森のかけら”をお届けし、木育・木工・アウトドア体験の出張ワークショップを行う「森デリバリー」

東京チェンソーズでは創業まもない頃から、都心部の公園などで開かれるイベントに出展、丸太切り体験を行うなど、のちの「森デリバリー」に通じる活動を実施してきました。

そんな活動がいつしか「森デリバリー」という事業となり、専用の車両も用意、ワークショップや同時に販売する商品も整え、どんどん進化を遂げます。

東京チェンソーズにとって「森デリバリー」は、どんな意味を持つものなのか、紐解いてみました。

”森のかけら”でワークショップを開催


濃いベージュのボディにまんまるヘッドライト、そして何より目を引く、荷台に乗った三角屋根の木製の小屋…

林業のイメージから程遠い(?)この軽トラック、名前を「森デリバリー号」と言います。

森デリバリー号。荷台の小屋に”森のかけら”を詰め込んで檜原村から街へ!

ワークショップに出向く際は、たいていこの森デリバリー号に乗って行くのですが、信号待ちの時など、歩行者にジロジロ見られてちょっと恥ずかしかったり…

でも、それだけ目立つということなんでしょう!

”森のかけら”とは…

森デリバリーのワークショップで使う木材を、私たちは“森のかけら”と呼んでいます。

木材は通常、規格が決まった丸太の形で流通します。

ですので、枝や葉、根株、曲がった幹など、丸太にならない部分は伐採後、森に捨てられ、利用されないのが普通です。

林業の業界ではそれを未利用材といいます。

しかし、その未利用材、よく見ると…

どれも木が生きていた時を思い起こさせる、伸び伸びした、個性豊かな形状。均一的な板や角材とは一味違う、流線型の面白い姿をしています。

普通は捨てられてしまう部分ですが、これも森の一部。”森のかけら”です!

ヒノキの枝で作った”鬼叩き棒”。曲がりや木目の表情が面白い

(鬼叩き棒は檜原村に伝わる伝統的な節分行事のアイテム)

林業の新たな可能性を引き出すことにも

森のかけらを活かすことは、木を無駄にしないことにもつながります。

かつて、家庭の燃料に薪を使っていた頃は、枝も曲がった幹も利用できたので、森は捨てられるものがなく美しかったといいます。

今、再び薪を使うことはないでしょうが、こうして未利用材を新たな形で使うことで、わずかかもしれないですが、森の美化に貢献できるのかもしれません。

また、木を新たな形で使うということは、言い換えると、木に、そして森に新たな価値を与えるということ。

森のかけらを活かし、森の価値を上げることは、林業の新たな可能性を引き出すことにもつながると私たちは考えています。


「森デリバリー」を始めたわけ。伝えたいこと


ところで、森デリバリーはそもそもどんな想いで始まったのでしょうか?

東京チェンソーズ代表で、森デリバリー立ち上げに直接関わってきた青木亮輔に、始めたきっかけ、そして、そこに込めたメッセージを聞きました。

檜原村の東京チェンソーズ社有林で

森デリバリーは「リアルなコミュニケーションの場」

東京チェンソーズは創業当初から、自分たちで伐り出した木で製品を作り、それを販売することを目標にしていました。
(仕事は、山から木を伐り出すまでという林業会社が結構多いです)

しかし、日々の現場作業に追われ、それは手付かずのまま…

その一方で、“顔の見える林業”を標榜し、積極的にメディアに出たりSNSを活用してきたことで、我々の存在を知ってくれる人は徐々に増加。

その関係からイベントへ誘われるようになり、何度か出展します。

そこで主催者や来場者と話すことで、青木はあることを確信します。

「こうやって一般の人と直接コミュニケーションを取ることがすごい大事だなと思いました。特に今後、製品を作って売っていくことを考えたら尚更です」。

イベント出展を一般の人たちとのリアルなコミュニケーションの場と捉え、のちの森デリバリーへとつながっていきます。

暮らしから木が離れてしまった今だからこそ、木の良さを伝えたい

イベント出展、森デリバリーで伝えたかった想いは?

「暮らしの中で木を加工することがなくなり、木について知らない人が増えました。知らない、わからないものに対して、人はネガティブな感情になりがち。まずはそれを払拭しようと思いました」。

例えば、加工に刃物を使うので危ない、棘が刺さる、カビるなど…

普段の生活から木が離れてしまったことから、木にマイナスなイメージを持つ人が多くなっているといいます。

ヤスリをかけることで木は滑らかな手触りに

「木は自分で簡単に加工やメンテナンスができるんです。それが木の良いところのひとつ。」と青木。

「自分で加工すれば、作ったものに愛着が湧くし、達成感にもつながる」。

確かに木はヤスリをかけるだけで、初めのざらつきが嘘のように消え、滑らかな手触りとなります。これにはワークショップの参加者も驚き、ヤスリがけにハマってしまう人も(笑)

他にも、手触りがいい、匂いがいい、ぬくもりを感じられる、などなど、木製品ならではの良さはいろいろ。ワークショップや対面販売の中で、そういったことを直接会話し、伝えられる場が森デリバリーです。

木の良さを知ったら、そこから森と街のつながりまで考える

「木の良さを知ったら次は森に興味を持って、森に来てくれたらいいですね。

僕たちが管理する西多摩エリアの森は秋川〜多摩川を通じて東京の街とつながっていますから、そこまで想いを馳せてくれたら嬉しいです」。

モリパークアウトドアヴィレッジとタッグを組んだこの3年


森デリバリーでこれまで最も多く出向いた先が、東京・昭島市にある「モリパークアウトドアヴィレッジ」(MOV)です。

2015年にオープンしたMOVは、モンベルやコールマン、ノースフェイス、スノーピークといった有名アウトドアブランドや飲食店からなる複合商業施設。

檜原、御岳、奥多摩といった自然豊かな東京・西多摩地域の玄関口といえるJR青梅線・昭島駅のそばに位置し、ショッピング始め、各種イベント・ワークショップでアウトドアの魅力を体感・体験できる場所となっています。

モリパークアウトドアヴィレッジで田中和宏さん(右)と

ワークショップを通じて、自然との触れ合いを共に作る

MOVで東京チェンソーズのワークショップを担当する田中和宏さんによると、2020年の夏、西多摩地域の観光事業者などが集まる場で青木と出会ったことがきっかけだといいます。

その集まりで青木は、当時サービスを始めたばかりの“山男のガチャ”について話しました。その中で伐採した木を無駄にしないよう1本まるごと活かし、加工から販売までを一貫して行なっていることを説明。

その話がとても印象的だったそうで、

「この人は山が好きなんだ、木が好きなんだということがヒシヒシと伝わりました。青木さんとなら自然との触れ合いを普段の生活の中で感じてもらいたいというMOVの目指すものを一緒に作り上げていけるのではと感じ、声をかけました」。

そこから森デリバリーはMOVを舞台に本格的な稼働を始めます。

スタート翌年の2021年度には年間50回、2022年度には90回の開催を数えます(1日に複数ワークショップがあった場合は実数をカウント)。

今年度は少し数を減らしていますが、この10月で丸3周年を迎えるまでに。

「チェンソーズに任せて良かった」(田中さん)

この3年弱、田中さんから見たチェンソーズの印象は、

「青木さんも、他のスタッフの方もその場の雰囲気を楽しみながら、参加者に親切丁寧に接していて、任せて良かったと思っています。また、反省点についても一緒に考え、次回への課題と捉えてくれるところが心強いです」。

参加者も満足されている方が多いとのことで、「親切に教えてもらえた」「気になっていたことが解決できた」「(ぶんぶんごまなど)懐かしいおもちゃが作れた」等の声をいただいているそうです。

昨年好評のキャンプ講座シリーズ第2弾開催中

MOVではこの秋以降、昨年好評だったキャンプ講座の続編シリーズ「家族で楽しむキャンプ講座」を開催。

毎回テーマを設定して、家族で安全にキャンプが楽しめるようにするという内容ですので、ご興味のある方はMOVのホームページをチェックしてみてください!

”森のかけら”を活かした商品の販売も


森デリバリーで描く未来図

青木を引き継いで、現在、森デリバリーを担当するのが販売事業部の高橋和馬。その高橋が目指していることが、「東京にいるすべての子どもたちに、木に触れ、森を考えるきっかけを提供すること」です。

そしてその実現のためにも、これからは幼稚園・保育園での森デリバリーをもっと開催したいのだそう。

今、目指すことは幼稚園・保育園での森デリバリー開催

なぜ、幼稚園・保育園なのかというと、

「ある幼稚園の先生から聞いたんですが、ワークショップや丸太切りを行うと、まず子どもたちが木に興味を持って、先生たちに質問したり、いろいろと話しかけてくるんだそうです」(高橋)。

すると、先生は子どもたちの質問に答えられるよう勉強を始めるといいます。それまで興味がなかった、あるいは知らなかった木について、まず子どもたちが関心を抱き、それが大人に伝わっていく。

「まず、子どもたちが変わって、次いで大人が変わる。だからまずは子どもたちに興味を持ってもらいたいんです」。

子どもから大人へと、木に興味を持つ層を広げた先に描くのは…

「森デリバリーをきっかけに、木について、森について多くの人が考え、関わるようになってほしいと思っています」。

ワークショップに参加し、自分の身近なところで木に触れたことをきっかけに、木はもちろん、森にまで関心を広げた人とつながり、そこで得たものを最終的に森に帰したいのだという。

ウッドデザイン賞受賞

森へ関心を持つきっかけ、つまりは”森の入り口”を届けるといえる森デリバリー。実は昨年(2022年)、ウッドデザイン賞を受賞しました。

ウッドデザイン賞は林野庁の木材利用促進事業のひとつで、木で暮らしと社会を豊かにするモノ・コトを表彰し、国内外に発信するための顕彰制度です。
森デリバリーは同賞ソーシャルデザイン部門コミュニケーション分野で優秀賞(林野庁長官賞)を受賞しました。

受賞に当たっては、以下の評価をいただきました。

「未利用材を使った都市での出前ワークショップを提供するユニークで意義ある取り組みで、森と街をつなぐ活動であると同時に、異なる表情を持つ多様な木を余すことなく使い、普段木に親しむことの少ない人にも時間や自然に想いを巡らせてほしいというメッセージが伝わってくる良質なプログラムである」。


MOVで3年間継続して森デリバリーを開催し、いろいろなお客様から生の声をいただくことで、森デリバリーは少しずつ進化し、提供する価値も向上させていくことができました。そのことがウッドデザイン賞受賞につながったのかと思います。

これからも、森デリバリーが舞台を広げ、森と街、森と人の暮らしの関係を考えるきっかけの場にしてゆければと思っています。
次はあなたの街にもやってくるかも!?

https://tokyo-chainsaws.jp/events/morideliver/

森デリバリーInstagram  >> https://www.instagram.com/morideli_tokyochainsaws/
森デリバリーについて >> 


森デリバリーのワークショップで使う”森のかけら”が気になったなら、こちらの記事はいかがでしょう?

”森のかけら”の一段上を行く(?)、”森のヘンテコ素材”のお話です。