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木育に取り組んだ保育園で、子どもたちが変わり、周りの大人も変わっていった
「木育」という言葉を聞いたことありますか?
初めて聞いたという方もいれば、聞いたことはあるが詳しくは知らないという方も多いかもしれません。
この記事では5年前から木育に取り組んだ保育園について紹介します。
木育を取り入れた経緯や、取り入れたことで起きた変化などについてお話を伺いました。
木育が気になる方、ご参考にしていただければと思います!
「木育」は2004年に北海道で生まれた教育理念で「子どもをはじめとするすべての人が『木とふれあい、木に学び、木と生きる』取組」で、「子どもの頃から木を身近に使っていくことを通じて、人と、木と森との関わりを主体的に考えられる豊かな心を育むこと」と定義されています。
また、2006年に閣議決定された「森林・林業基本計画」においては木育の促進が明記されました。
丸太切りイベント開催
みのり保育園(府中市)の園庭では毎年春、木育イベント「丸太切り」が行なわれています。運営元が同じ、田中保育所、きなり保育園との合同イベントで、直径20cmほどのヒノキの丸太を大きなノコギリを2人1組で「よいしょ、よいしょ」と順番に切ります。
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自分の腕より太い丸太を切るのはちょっと大変そうですが、ノコギリを引く子どもたちはみんな楽しそう。あちこちで歓声が上がっています。
また、切るたびにヒノキの爽やかな香りが広がるので、園庭はまるで森のようです。
頑張って切った木はこの後、鍋敷きや花台などとして園内で使われます。長いままで残った丸太は、そのまま園庭に置いて、子どもたちの少しワイルドな遊びの道具に。
東京チェンソーズの木育事業”森デリバリー”では、この丸太切りのように子どもたちに木に触れる体験を提供しています。
2019年、ウッドスタート宣言。木育を取り入れる
みのり保育園は、地元の府中市で保育園を3ヶ所運営する株式会社パザパの東京都認証保育所です(パザパの保育園は他に、田中保育所、きなり保育園で、いずれも徒歩圏内)。
一番古い田中保育所は1976年に運営を開始。2007年に建て替えを行ない、東京都認証保育所に移行しました。
その後、入園希望者が増えたことなどから、2013年に東京農工大学の敷地にみのり保育園を、2019年にきなり保育園を開設しました。
木育を取り入れたのは2019年、きなり保育園開園の年です。この年、パザパはウッドスタート宣言をしました。
ウッドスタートとは、木材、特に地域材を活用した子育て、子育ち環境の整備をし、子どもをはじめとする全ての人たちが、木のぬくもりを感じながら、楽しく豊かに暮らしを送ることができるようにしていく取り組みです。
ウッドスタートには自治体版、企業版、幼保育園版の3つのプランがあり、パザパが宣言したのは幼保育園版のウッドスタートです。
ウッドスタート宣言園とは、木々や緑と疎遠になりがちな子育ての営みにあって、森の恵みを取り入れ、教員や保育者たちが子どもと自然の架け橋となり、持続可能な健康と環境を志向する―その実践の努力を惜しまない園のことです。
子どもたちには新たな活動が、職員には新たな学びが必要に感じていた
どのような事情からウッドスタート宣言したのか。パザパ代表の田中公さん、みのり保育園園長(当時)の落合佳子さんにお話を伺いました(落合さんは2024年4月からパザパ取締役、田中保育所・みのり保育園・きなり保育園の保育・食育部長)。
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落合:きっかけは偶然なんです。きなり保育園を建てたのが小嶋工務店だったこともあって、そのツアーで檜原村を訪れチェンソーズを知って、ウッドスタートという流れです。
小嶋工務店は府中市のお隣・小金井市にある工務店。林業、製材所などと組んで東京の木で東京に家を建てる「TOKYO WOOD」の取り組みを行なっていて、東京チェンソーズともその関係でつながりがありました。
―ウッドスタート以前は木育を意識していなかったのでしょうか?
落合:それほど意識はしていませんでしたね。ちょうど東京都が木育を熱心に進めていた時期でもあったので、言葉自体は聞いたことがあるというくらいです。
ただ、私は元から自然保育を進めたいという想いがあって、外での遊びや季節ごとの自然との触れ合いを大切にしていたので、木も面白いなという気持ちはありました。
―ウッドスタート宣言するころ、園はどんな感じだったんですか?
落合:以前は3歳児になると認可保育園に移るなどで、卒園までいる子どもが少なかったんですが、それが逆にすごく増えてきた時期でした。
それまでの1歳、2歳が中心のときとは違って、3歳、4歳、5歳になるとお友達と協力して、あるいは地域のいろいろな人と関わるなど、豊かな経験が必要になってくるんです。年長の子が増えた中での保育活動をどうするか、そういった課題を感じ始めていた頃です。
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子どもたちの年齢構成が変わったと同時に、職員も年長を見ていく中でどんな保育をやるのかを学ぶ必要もあったそうです。
―そういうときに木育に出会ったんですね。
落合:そうです。森に行って、林業をやっている人たちから直接、森や林業の話を聞くことができました。
ーどんなふうに感じましたか?
落合:木が育つことは命につながることで、木育を保育に取り込むことは生きる力を培うことに通じるのではと感じました。
―園にとって木育はどのような存在でしょうか?
落合:保育の質を上げるもので、一生関われるテーマだと思います。
また、木育はさまざまな人とつながることができることも魅力ですね。
おもちゃ美術館の先生に木育の講義をしてもらったこともありましたし、職員の研修で檜原村へ行って、森や木の話を聞いて学ぶこともできました。
ウッドスタート宣言をきっかけに本格的に木育に取り組んだパザパでは、木育を子どもたちの新たな活動に取り入れたことをはじめ、職員の学びにも活かしているそうです。
子どもが変わり、職員も変わった
ー木育の体験は何歳から行なってますか?
落合:丸太切りは年長さんからですが、木の樹皮を剥いたり、触ったりするのは小さい子もやってます。
ー1歳、2歳から毎年木に触れている子どもたちはどんな様子なんでしょう?
落合:とにかく木で遊びますね。丸太を並べるとか、重ねてお家にしたり、橋みたいにしたりとか。
木を重ねた上を歩いたりもするんですが、そうするとぐらぐらして危ないんです。
そうすると子どもたちは角度を直したりと工夫するんですね。遊び方が決まったおもちゃで遊ぶより断然いいと思いますよ。
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―木育を取り入れてから、園の中で何か変化は起きましたか?
落合:子どもたちが木が好きになりましたね。それに合わせて職員も木が好きになっています。園の備品を選ぶ時も木製になりました。
―職員の意識にも影響を与えているんでしょうか?
落合:自分達は木育に取り組んでいる。それを子どもたちに伝えるんだという感覚になってきています。
田中:ここ2〜3年、木育をやりたいと言って新しく入ってくる保育士が増えてますよ。
保護者も木育を高評価。入園させる動機にもなっている
木育は保育を仕事にしたい人にとっても魅力的であることに加え、保護者からの評判もいいそうです。地域の公園で行なうイベント「パザパひろば」では、保護者も子どもと一緒に木に親しんでいます。
落合:すごく喜んでくれています。丸太切りや森への遠足など、家庭ではなかなかそこまでできないから園でやらせてもらってありがたいという意見をいただいています。
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こうした開かれた場所でイベントを行なうことは多くの人に知ってもらう良い機会となっていて、木育はパザパの特徴として子どもを入園させる理由のひとつになっています。
保護者の評価については、みのり保育園はじめパザパの3つの園のホームページで、第三者機関の評価アンケートを確認することができます。
木は生命や歴史を大事にする気持ちを育てる
パザパでは卒園記念に毎年、木のスプーンを贈っていて、これも保護者から好評だと聞きます。
自分の使う道具にやすりをかける、オイルを塗るなど、メンテナンスして大事に使うことが喜ばれているのだといいます。
ー木はどういうところがいいのでしょう?
落合:木のものは壊れたら直して使えるのがいいですね。特に子どもたちにとって、ものは直して使うんだと知ることは、生きる上での大事な学びになるのかなと思います。
田中:木の成長するスパンが非常に長いのがいいですね。歴史、生きた証である年輪が素晴らしいです。
落合:環境が辛いときは詰まってるとか、年を重ねると育ちがゆっくりになるとか、生き物として人と一緒。
そういう話を聞いて、人の命や歴史を大事にしてくれる子どもになってくれたらと思います。
ずっと変わらないものを使うより、自然に壊れたり古くなったりするものと付き合っていくことを知るのも木育なんだとお二人は話します。
効率の良さが求められる世の中にあって、そうじゃないところにある豊かさに気づかせるもの。それを学ばせるのも木育なのだそうです。
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パザパで毎年行なっている「なかよしプレイデイ」。運動会のようなイベントだそうですが、参加した子どもたち全員に配られる木のメダルが人気を集めています。
落合:このメダルは樹種が書かれていますが、それを覚えることが目的ではなく、木にはちゃんと名前がある、特徴があるということを知るものなんです。
子どもたちの個性が違うのと同じように、みんな違っていろいろあることを知ってくれればと思っています。
ー今後はどのような方向を考えていますか?
落合:ヤギやウズラとの触れ合いや飼育を通じて、動物と植物、動物と人のつながりや、共に育つ環境をつくれたらと思っています。
自然保育という大きな括りの中で、木育はもちろん、食育にも取り組んでいきたいですね。
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インタビューを通して一番印象的だったことーーー
パザパの子どもたちは毎年秋、遠足で檜原村にある東京チェンソーズの森を訪れています。
そこにはかつて、木育を取り入れた最初の年の年長さんが植えたスギの木が植えられています。
この木々は植えてから30年間の時間をかけて、下草刈りなどの手入れをして育てていくと約束した木々です。
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パザパの子どもたちは、自分たちで植えた木ではない、”先輩”が植えた木を訪れ、その成長を代々見守っています。
そしてその遠足では、30年経ったら自分たちは、世の中はどうなっているのか、子どもたちみんなで考えるのだといいます。
30年後、例えば今、樹齢が70年生の森は100年の森になっています。
そのとき皆さんはどうなっているのか、どうなっていたいのか、少し立ち止まって考えてみてはいかがでしょう?