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「医師の開業が難しくなる? 日本の新対策とこれからの医療の選択肢」


こんにちは、

2024年8月30日、厚生労働省が医師の偏在是正に向けた総合対策の骨子案を公表しました。このニュースは、日本の医療制度が抱える深刻な問題を改めて浮き彫りにするものであり、多くの医師や医療関係者、さらには一般市民にも大きな関心を呼び起こしています。特に、医師が多い地域での新規開業を抑制し、過疎地や医師不足地域への医療提供を促すための法令改正が検討されている点に注目が集まっています。これは日本の医療制度が直面する大きな課題に対する一つのアプローチですが、果たしてこれで十分なのでしょうか?

この問題に対する私の見解を述べる前に、まずは日本の医療制度が抱える問題の背景について詳しく考えてみましょう。

病院の乱立と救急医療の混乱――日本の医療制度の構造的問題

私が以前知っていた救急センター長が、「日本は病院が勝手に増えてしまい、その結果、救急隊が傷病者の受け入れ交渉に苦労している」と話していたことを思い出します。この言葉は、日本の医療制度が抱える構造的な問題を象徴する一例であり、病院の乱立と地域医療の不均衡が救急医療の現場でどのような混乱を引き起こしているかを物語っています。

日本では、病院が自由に開業できるため、特定の地域に病院が集中してしまい、その結果、医療資源が偏在するという現象が起きています。特に都市部では、病院が密集している一方で、地方や過疎地では医療機関が不足しており、適切な医療サービスを受けられない人々が増えています。これは、救急医療の現場においても深刻な問題を引き起こしています。救急隊は、近隣の病院に患者を搬送しようとしても、ベッドが空いていない、専門医が不在といった理由で受け入れを拒否されるケースが多発しています。これにより、傷病者の治療が遅れるリスクが高まり、最悪の場合、命に関わる事態に至ることもあるのです。

このような背景から、厚生労働省が医師の偏在是正に向けた総合対策を講じることになったわけですが、果たしてこの対策がどれほどの効果を持つのでしょうか?

厚生労働省の対策とその限界――法改正だけで解決できるのか?

今回、厚生労働省が発表した医師の偏在是正策は、この問題に対する一つの解決策を提示しています。医師が多い地域での新規開業を抑制し、地方の医療機関への財政支援を強化するというものです。この方針は、確かに医師不足の地域に医療リソースを再分配するための一歩と言えますが、果たしてこれで十分なのでしょうか?

まず注目すべきは、この方針が「開業抑制」に焦点を当てている点です。現在、日本では医師が多い地域、特に都市部での新規開業を抑制するため、必要な法令改正が検討されています。これにより、特定の地域に医師が集中することを防ぎ、医療リソースの偏在を是正することが目的とされています。

しかし、この政策にはいくつかの問題点が指摘されています。まず第一に、開業抑制が医師の自由な職業選択を制限する可能性がある点です。医師は、自分のキャリアをどう築くかを自由に選ぶ権利がありますが、開業抑制政策が強化されることで、特定の地域での開業が難しくなる可能性があります。これにより、医師たちが望むキャリアを築くことができず、結果として医療サービスの質が低下するリスクも考えられます。

また、開業抑制が進むことで、医師たちが勤務医としてのキャリアを選ぶことが増える可能性がありますが、これは一概に良いこととは言えません。勤務医としてのキャリアは、安定した給与と労働条件が保証される一方で、過重労働や職場のストレスが問題となるケースも多いです。特に、日本の病院勤務では、長時間労働が常態化しているため、医師たちのメンタルヘルスや生活の質に悪影響を与える可能性があります。

開業医と勤務医の選択――日本の医師にとってのメリットとデメリット

医師としてのキャリアを考える際、開業医と勤務医という選択肢があります。開業医は、自分のペースで診療を行い、経営面でも自由度が高い反面、経営リスクや資金調達、医療ミスに対する法的責任といった問題も伴います。一方、勤務医は、安定した給与と労働条件が保証されているものの、勤務時間が長く、特に病院勤務では過重労働が問題となるケースが多いです。

このような状況下で、医師たちはどのような選択をすべきなのでしょうか?

まず、開業医を目指す場合、今後の日本においては、地方や医師不足地域での開業が求められることが予想されます。都市部での新規開業が難しくなる中で、地方での開業は地域医療に貢献するという社会的意義がある反面、患者数が少なく経営が厳しいという現実もあります。しかし、地方自治体や政府からの財政支援やインセンティブが強化されることで、地方での開業がより魅力的な選択肢となる可能性もあります。

一方、勤務医としてのキャリアを選ぶ場合、都市部の大病院での勤務が一般的ですが、過重労働や職場のストレスが問題となることが多いため、労働環境の改善が必要です。特に、勤務時間の短縮やワークライフバランスの確保が求められます。また、専門医としてのキャリアを積むためには、大病院での経験が重要となるため、勤務医としてのキャリアには一定のメリットがあります。

世界の医療制度と日本との比較――他国の取り組みから学ぶこと

この問題は、日本特有のものではありません。世界各国でも、医師の地域偏在や医療リソースの不均衡は共通の課題となっています。日本と同様に、都市部に医師が集中し、地方や過疎地では医師不足が深刻な国は多く存在します。では、他国ではどのようにこの問題に取り組んでいるのでしょうか?

アメリカの取り組み

アメリカでは、医師不足が特に深刻な農村部や過疎地に対して、医学生に対する奨学金や返済支援プログラムを提供し、特定の地域での勤務を条件とする制度を導入しています。これにより、若い医師たちが地方での勤務を選択するよう促し、地域医療の充実を図っています【American Medical Association, 2022】。

また、アメリカでは開業医の数が減少しており、勤務医としてのキャリアを選ぶ医師が増えています。これは、開業医としての経営リスクが増大していることや、勤務医としての安定した給与や福利厚生が魅力的に映るためです。しかし、これが進むと、医療の個別化や地域医療の充実が難しくなるという課題も浮上しています。

イギリスの取り組み

イギリスでは、国民保健サービス(NHS)が全国の医療を管理しており、医師の配置や勤務先が政府によって割り当てられる仕組みがあります。このシステムにより、医師の地域偏在は比較的少なくなっていますが、政府の強い介入が必要であり、医師たちの自由な選択を制限するというデメリットも存在します【NHS England, 2021】。

イギリスのNHSは、医師たちに対して地域医療への貢献を強く求めており、特に過疎地や医師不足地域への派遣が行われています。これにより、全国で均等な医療サービスが提供されるよう努めていますが、医師たちの負担も大きく、制度の持続可能性についての議論が続いています。

フランスの取り組み

フランスでは、都市部への医師の集中を防ぐために、医師免許の取得後、一定期間地方での勤務を義務付ける制度が導入されています。これにより、地方での医療サービスが向上し、医師不足の解消に寄与しています。しかし、医師たちにとっては、都市部でのキャリアを積む機会が減少するリスクがあり、賛否が分かれています【French Ministry of Health, 2020】。

日本の医療制度の未来――開業医と勤務医のバランスをどう保つか

今後、日本の医療制度がどのように進化するかは、医師の開業と勤務のバランスが鍵となります。厚生労働省の対策が進む中で、都市部での新規開業が難しくなる可能性が高く、医師たちは勤務医としてのキャリアを模索することが求められるでしょう。しかし、それが医師たちの自由な選択を制限し、結果的に医療サービスの質を低下させるリスクもあります。

一方で、地方の医療機関が充実することで、地域医療の質が向上し、国民全体にとってより公平な医療サービスが提供される可能性もあります。これは、日本の医療制度が真に全国民の健康を守るための進化を遂げるための重要なステップと言えるでしょう。

結論:医師の開業抑制と勤務医への転換がもたらす未来とは?

厚生労働省の方針は、医師の地域偏在を是正するための重要な試みです。しかし、それが日本の医療制度全体にどのような影響を及ぼすのか、今後の動向を注視する必要があります。開業医と勤務医のバランスをどのように保ち、地域医療の質を向上させるかが、日本の医療制度の未来を決定づける要素となるでしょう。

開業を希望する医師にとっては、今後の選択肢が制限される可能性がありますが、地域医療への貢献という新たなキャリアの道も見えてきています。医師としてのキャリアをどのように描くか、そして日本の医療制度がどのように進化していくか、その行方を見守りたいと思います。

参考文献

  1. American Medical Association (2022).American Medical Association, “Addressing Physician Workforce Distribution: Policy and Practice,” AMA Journal of Ethics.
    • アメリカにおける医師の地域偏在とその是正に向けた取り組みについて。
    2. NHS England (2021).
    NHS England, “Workforce Strategy: NHS People Plan 2020/21,” NHS Publications.
    • イギリスの国民保健サービス(NHS)における医師の配置と人材戦略について。
    3. French Ministry of Health (2020).
    French Ministry of Health, “The Medical Profession in France: A Territorial Overview,” French Government Publications.
    • フランスにおける医師の配置と地方勤務義務に関する政策。
    4. 厚生労働省 (2024).
    厚生労働省, “医師偏在是正に向けた総合対策の骨子案,” 厚生労働省公式ウェブサイト.
    • 日本における医師偏在是正に向けた対策案の詳細。

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