「絵本で見せるレビューショウ⁉」/高畠 那生
ではじまるこの絵本で、文章はタイトルだけ。ほかは全てオノマトペという異色作です。
文を書いた渡辺朋は、第10回絵本テキスト大賞を受賞し、「登場人物の連鎖する驚きの感情を擬音だけで描写した実験作。うまくいくと画期的な絵本になりそう」と選評されました。絵は、自分の強い希望で高畠那生に決まったと、2024年の日本絵本賞授賞式で渡辺は語っています。高畠に渡された原稿は、場面ごとのオノマトペとわずかなト書きだけだったといいますが、高畠はこの「実験作」を見事に自分の世界にしました。
1978年岐阜県生まれの高畠那生、父は絵本作家の高畠純です。「ミーテ」や「読書好日」のインタビューによると、小さい頃から特に絵が好きなわけでも得意なわけでもなかったと言いますが、いつも絵本に囲まれた環境であったことは確か。高校は、父の勧めで美術科のある学校に進み、さらに東京造形大学美術学科絵画専攻で学びました。卒業後の就職についてはほとんど考えることなく、取りあえず絵本作家をめざして(?)、勉強したり、さまざまなコンペに応募したりしていましたが、「絵本をつくるにあたって決めたのは、父と似たような絵はやめようということ」だったといいます。
『かえるのおでかけ』(フレーベル館)では、雨の日に嬉々として出かけ、ぐしょぐしょのハンバーガーにご満悦の優雅な都市生活者のカエル、『チーター大セール』(絵本館)では、お客さんに求められ自分のヒョウ柄の黒い点々を売るヒョウ、と、シュールな主人公が、人々が暮らす欧風の街角を舞台に、想像を超える行動を展開する、高畠のナンセンス絵本の世界は独創的です。マットなのにビビッドな色使いが魅力的です。
この絵本の舞台は、小洒落たレストラン。家族4人そろってお食事ののっけから、女の子は白いドレスに真っ赤なケチャップをこぼして「ががががーん」。その顔たるや顔面蒼白ならぬ、顔面蒼碧(?)、唇まで緑色。お父さんもお母さんも「げげげげーん!」。他のお客も巻き込んで、「ばばばばーん!」「ででででーん!」と衝撃と動揺が広がり、お客は卒倒、ウェイターはのけぞり、頭を抱えるお母さん。そんな中で、ひとり無邪気に大喜びの赤ちゃんが愉快です。
高畠は、ミュージカルをイメージして、ひとつの舞台で場面を展開することを試みます。衝撃と動揺の伝播に従って、徐々に視点を後退させて場面を広げ、変化させました。
何故かギターを抱いたロックスターが「ぎぎぎぎーん!」と宙釣りで登場するに至っては、もう何が何だか…。動物もコーラス嬢も、スーツ姿の集団や汽車も車も相撲取りもサンタも、勿論、「じゃじゃじゃじゃーん!」の元祖、ベートーベンも登場、総出演の「レビューショウ」を見事に絵本で実現しました。
さて、大混乱の終焉は? それは、ぜひ、絵本で。
『おきにいりのしろいドレスをきてレストランにいきました』
渡辺 朋 文
高畠 那生 絵
初版 2023年
童心社 刊
文:竹迫 祐子(たけさこ ゆうこ)
いわさきちひろ記念事業団理事。同学芸員。これまでに、学芸員として数多くの館内外の展覧会企画を担当。絵本画家いわさきちひろの紹介・普及、絵本文化の育成支援の活動を担う。著書に、『ちひろの昭和』『初山滋:永遠のモダニスト』(ともに河出書房新社)、『ちひろを訪ねる旅』(新日本出版社)などがある。
(徳間書店児童書編集部「子どもの本だより」2024年9月/10月号より)