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ウンコから命が!/『ウンコロジー入門』/文:編集部 小島 範子

 「ウンコロジー」という言葉を聞いたことはありますか?自然という大きな循環の中で、科学的な目で「ウンコ」を研究しよう、ウンコを地球全体の環境保全に役立てようというエコロジーのこと。『ウンコロジー入門』の著者は、1974年から、「ノグソ」の実践を始めました。つまり、毎日トイレを使わず、野山で、地面に穴を掘って、そこにウンコをして、土をかけて埋めているのです(そのために山を借りています!)。本書は、なぜ著者がこのような「活動」を始めたのか、ウンコが環境問題を解決する手段になるとはどういうことかを、わかりやすく語ったものです。

 20歳のころから自然保護運動を始めた著者は、23歳のときに、し尿処理場建設反対という住民運動をニュースで知ったことにより、自身のトイレやウンコについて真剣に考え始めました。

 同じころ、自然保護運動の一環で自然を撮影するなか、キノコの魅力に出会い、以後キノコ専門の写真家の道を歩んでいました。そうするうちに、枯れ木や落ち葉という植物の死体、動物の死体やウンコはキノコ(菌類)が腐らせて分解し土に還し、その養分で植物が生き続け、その植物を食べて動物が生き、菌類も生き続けてきたことを知ります。

 本書の冒頭に、この循環のわかりやすいイラストがあります。元素記号を使い、二酸化炭素や酸素、窒素の循環について解説していますが、まだ元素記号を学ぶ前の子どもにも理解しやすいものになっています。

 江戸時代には、江戸の町のウンコは、肥料として農家に買い取られていました。では、現在、水洗トイレから流れていったウンコはどこへ行って、どのように処理されるか知っていますか?(すべての市町村ではありませんが、大雑把にまとめると)下水処理場で水分と固形物の汚泥に分けられ、固形物は燃料を使って焼却され、その灰はセメント等の原料などに使われます。ウンコが自然に還り、あらたな命に生まれ変わるという地球全体での命の循環から、わたしたち人間ははずれてしまっている、ということです。

 本書では、ノグソに虫や動物が群がり、菌類や栄養を求めて草木の根がウンコに伸びるようすなどをカラー写真(!)で紹介しています。また、日を追ってウンコが変化、分解されていく過程の匂いと形状の変化などをグラフにしてわかりやすく解説しています。未来の地球のために、このような活動を子どもたちが知る、というのは、とても大切なことだと思います。この本と出合った子どもが、将来、人間のウンコが燃やされずに、自然の循環の中に取り入れられるしくみを発明するかもしれません。

 探検家・関野吉晴が監督したドキュメンタリー映画「うんこと死体の復権」では、著者の活動や、ウンコが菌類に分解されていく様を映像で見ることができます。同じ著者の『葉っぱのぐそをはじめよう』(山と渓谷社)では、お尻をふくのに向いた葉(紙は分解されないので、葉を使っていますが、そのために栽培もしています)を写真付きで詳しく紹介しています。興味のある方はぜひこちらも読んでみてください。

文:編集部 小島 範子

『ウンコロジー入門』
伊沢正名
2019年
偕成社 刊

(徳間書店児童書編集部「子どもの本だより」2024年11月/12月号より)

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