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Children's Bookshop(イギリス)

  今回は、英国の老舗児童書専門店「Children's Bookshop」の現在の店主、サンチータ・バス・デ・サカーさんにお話を伺いました。

 お店は2024年に50周年を迎えるそうですね。
 ええ、ここは英国一古い児童書専門店なんです。オープンしたのは1974年、私が生まれるより前です。創業当初から、何代か店主が変わっていますが、その全員が、子どもの本とこのお店を深く愛する女性でした。

 創業時の店主の信念は、「子どもにはもっともいい本を提供すべき」ということで、その言葉は、今でも店の基本方針として引き継いでいます。彼女は90年代に次の店主にお店を引き継いで引退し、残念ながらもう亡くなりましたが、来店して懐かしそうに彼女の思い出話をされる方は、今でも多くいらっしゃいます。

 私自身は16歳のころから日曜などにここでバイトをするようになり、その後もコンタクトを持ち続けていました。大学時代は出版界に入りたかったのですが、うまくいかず、落ち込むことも多くて…。そんなとき児童書に救われ、このお店とも出会い直しました。22歳からフルタイムでここで働くようになり、27歳になったころ、当時の店主がお店を売りに出す、と聞き、思い切って「わたしが買います!」と、手を挙げたんです。このお店が大好きだったから、お店のことをよく知らない人の手に渡って、変わってしまう可能性があるくらいなら…と。

次々にお勧めの本を教えてくれた、店主のサンチータさん

 お店には定休日がないようですが、何人くらいで働いていらっしゃるんですか?
 フルタイムで働いているのが、私も含めて6人。それぞれ分野別に担当を持っています。中には、もと先生だった人や、現役の作家の人もいるんですよ。わたしよりずっと長くお店にいる人には、過去のことで質問があったときや、古いお客さんが見えたときに、よく助けてもらっています。子どもとしてこの店に通っていた人が、大人になって自分の子どもを連れてきてくれる、ということもよくあるので…。ほかにパートタイムの人も、何人か働いてくれています。

 お店に置く本の基準は?
 子どもの本は、子どもの心の栄養になるものです。だから、まずはクオリティの高いもの、ということは外せません。基本的には、大部数をねらった安手の造りのものは置きません。でも、子どもが「この本おもしろそう」と思ってくれなければ、手をのばしてはくれませんから、ふだんなら置かないような本、反応を知りたい本を実験的に置いてみることもあります。

 児童書の市場は、新しく出版された本と何十年も読み継がれてきた本が共存しているのがいいところ、おもしろいところだと思いますが、そのせいで、ともすれば保守的になりすぎることもあると思うのです。古くて良い本を大事に守ると同時に、新しく出てきたおもしろい本にも心を開いておきたいと、心がけています。

 色々なイベントもされているんですね。
 ええ、週に2、3回はイベントをしているんじゃないかしら? 私自身が、子どもたちと会って話し合うのが大好きなんです。この店で働いていなかったら、小・中学校の先生になっていたかも。きのうも近くの学校を、作家の方といっしょに訪ねて、「ガールズ・フェステバル」と題して、7~12歳の女の子たちとわいわい話し合ってきました。

 店内にはイベントができる大きなスペースはないので、そんなふうに学校などを訪ねる形が多いですね。北ロンドンを中心に、行ける範囲なら気軽に出かけていきます。出版社が学校でイベントをするときには、やはり、イベントでの売上を気にされるようですが、うちのお店が企画するイベントでは、まず、本の楽しさを子どもたちに知ってもらうことを目的にしています。一人一人、好みも環境もちがう子どもたちが、それぞれ自分に合う、大好きになれる本に出会ってくれたら、最高だと思います。

 作家と一緒のイベントも、お店で企画されているのですか?
 そういうときもありますが、「この作家とイベントをしてくれませんか」と、出版社から頼まれることの方が多いですね。最近、とくに小学生向けの本を書いている作家は、子どもたち相手にイベントができなくてはだめ! という風潮が強くなっていて、みなさんかなり芸達者なんですよ。

床にまで本が並べられた店内

 日本の本や、日本人のお客さんについて、印象に残っていることはありますか?
 最近、ヨシタケシンスケの絵本が何冊も翻訳出版されて、人気です。英国には独特のユーモア感覚があると言われますが、この人のユーモアは英国人のツボにもはまったみたい。あと、「ムーミン」のイベントをしたときに、今までお店には来たことのない日本人の家族が、かなり遠くから来てくれて、一冊一冊の本やグッズに、親子ともきゃあきゃあ言って、たくさん買ってくださいました。ムーミンは日本で大人気だと聞いていましたが、実例をこの目で見られたのが印象的でした!

 店内には、あらゆるスペースにおもしろそうな本がぎっしり! 機会があればぜひ訪ねてみてください。
 

お店の情報
Children's Bookshop
 
29 Fortis Green Road, Muswell Hill,
London N10, 3HP, U.K.
TEL:+44 20 8444 5500
月〜土:9:15〜17:45
日:11:00〜16:00
最寄駅:
ロンドン地下鉄Northern線Highgate駅から徒歩15分
The Children's Bookshop London


(徳間書店児童書編集部「子どもの本だより」2024年5月/6月号より)

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