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矢玉 四郎『しゃっくり百万べん』

この連載では、1980年代に話題になり、今は書店で手に入りにくくなっている作品を紹介していきます。

 2024年の7月、80歳で亡くなった矢玉四郎やだましろう。未来の日記に書いたことが現実になり、空からブタが降ってくるという荒唐無稽な絵童話『はれときどきぶた』を始め、ユーモラスで奇想天外なお話をたくさん残しました。この作品も最初から意表を突く展開で、最後まではらはらドキドキしながら楽しめる傑作です。

 晴夫は、しゃっくりがとまらない。お隣のおばあさんが、お稲荷さんに行ってお願いしてくるといいと言うので、そうしたがとまらない。一晩寝ても治らないので学校も休むことにする。お母さんは、何も食べずに寝ているようにと言って出かけるが、晴夫はお腹が空いてたまらない。

 そこで、何か買いに行こうと家を抜け出し、お稲荷さんの前で見つけた自動販売機でキツネどんぶりを買う。見たこともないどんぶりだなと思いながら、家に帰ってお湯を注ぐと、どんぶりから真っ白い湯気が噴き出し、「ケーン!」と一声鳴いてキツネが飛び出してきて、「どうじゃ、びっくりしたか?」と言う。晴夫はびっくりしたが、しゃっくりはとまらない。

 キツネは「しゃっくりが百万べんでると、死ぬぞよ!」と言って、なんとか晴夫を驚かせてしゃっくりをとめようとする。いろんな宝物を収めてある宝物殿から、びっくり箱を持ってこさせるために、キツネは箸を両手に持って呪文を唱え、どんぶりをUFOのように宙を飛ばす。

 どんぶりが持って帰って来たびっくり箱を開けると、ネズミや、死んだ毛虫、カエルのミイラ、鶏の脚、トカゲのしっぽと、次々に飛び出してくるが、晴夫は驚かない。

 びっくり箱でダメならドッキリソースだ、とキツネは言い、また呪文を唱えてどんぶりを飛ばす。

 そのとき玄関のチャイムが鳴って、同じクラスの水野圭子が晴夫の様子を見に来る。そこにドッキリソースの瓶を載せたどんぶりが飛び込んできて、圭子の頭をかすめ、台所に向かう。台所のあたり一面に青い煙が漂い、キツネが伸びていた。飛んできたどんぶりがキツネの頭に当たって、どんぶりからドッキリソースの瓶が飛び出し、中身がこぼれていた。圭子が、倒れているキツネの頭を冷やそうと冷蔵庫を開けると、頭にプロペラのついた奇妙な鳥が飛び出し、一声鳴くと卵を産んで窓から飛び出て行った。物語の後半は、ドッキリソースのせいで、家の中がお化け屋敷のようになって次々と奇妙奇天烈な現象が起こり、エキサイティングで楽しい。

 マンガ家を目指し、出版社にマンガ原稿の持ち込みをしたこともある作者が、物語に合わせて挿絵も描き、吹き出しをうまく使って、文章と絵を見事に一体化させていて、効果的な作品。

 前後の見返しに「ドッキリ・うらないゲーム」と「ドッキリすごろく!!!」を配し、本文ページの右側の欄外に、おまじないや諺や都市伝説や豆知識まで詰め込むなど、この作者ならではの読者サービスも心憎いばかりです。


『しゃっくり百万べん』
矢玉 四郎 作
初版 1988年
偕成社 刊

文:野上 暁(のがみ あきら)
1943年生まれ。児童文学研究家。東京純心大学現代文化学部こども文化学科客員教授。日本ペンクラブ常務理事。著書に『子ども文化の現代史〜遊び・メディア・サブカルチャーの奔流』(大月書店)、『小学館の学年誌と児童書』(論創社)などがある。

(徳間書店児童書編集部「子どもの本だより」2024年11月/12月号より)

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