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上大崎発読書案内

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記事一覧

ウンコから命が!/『ウンコロジー入門』/文:編集部 小島 範子

 「ウンコロジー」という言葉を聞いたことはありますか?自然という大きな循環の中で、科学的な目で「ウンコ」を研究しよう、ウンコを地球全体の環境保全に役立てようというエコロジーのこと。『ウンコロジー入門』の著者は、1974年から、「ノグソ」の実践を始めました。つまり、毎日トイレを使わず、野山で、地面に穴を掘って、そこにウンコをして、土をかけて埋めているのです(そのために山を借りています!)。本書は、なぜ著者がこのような「活動」を始めたのか、ウンコが環境問題を解決する手段になるとは

子どもの持つ力への信頼/『ぼくらのジャングル街』/文:編集部 上村 令

 今年の夏、イギリスのケンブリッジに数日滞在した際、偶然座った公園のベンチに、以下のような銘板がついていました(イギリスでは、亡くなった人の記念としてベンチを寄付する習慣があります)。「児童文学の作家・批評家として愛されたジョン・ロウ・タウンゼンドの思い出に」  それを見て、もう30年以上前に、ここケンブリッジでタウンゼンドに一度だけ会ったことを思い出しました。当時新しい児童文学シリーズの準備をしていて、タウンゼンド作品も1冊出版予定でした。出版の権利を問合せた時、出版社が

心のこわばりをほぐすには…/『わたしの名前はオクトーバー』/文:編集部 田代 翠

 『わたしの名前はオクトーバー』は、森で育った少女が、疎遠だった母と急に街で暮らすことになった日々の葛藤と成長を描いた物語です。  主人公のオクトーバーは、電気もガスもないロンドンの森の中で、父とふたりで暮らしています。畑で野菜を育てて主な食糧を得ていますが、完全に外界とのつながりを断っているわけではなく、自分たちで作れないものは、別途入手。たとえば乳製品は、近所(車でしばらくかかる)の酪農家に野菜と交換してもらい、服は年に一度ほど村に買い物へ。学校には行かず、勉強は父親の

命をもらって生きる/『北のはてのイービク』文:編集部 上村令

 イービクはグリーンランドで暮らすエスキモーの男の子。年齢ははっきり書かれていませんが、「初めてお父さんに海へ狩りに連れていってもらえる」と喜んでいるところをみると、たぶん11、2歳くらいでしょう。ところが、その初めての狩りで、お父さんはセイウチに襲われ、牙で体を貫かれて死んでしまいます。お父さんの小舟は壊され、イービクの小舟も流されてしまいます。家族は夏の間、ほかに人がいない島に住んでいたため、残されたお母さんとおじいさん、イービクと三人の幼い弟妹は、たちまち飢えに直面する

物語が根ざした場所/『島暮らしの記録』/文:編集部 上村 令

 この原稿を書いているのは8月9日、作者の誕生日にちなんで「ムーミンの日」とされている日です。ムーミンのキャラクターには、グッズやアニメを通して親しみがある方が多いと思いますが、作者であるスウェーデン系のフィンランド人、トーベ・ヤンソンについては、案外知られていないのではないでしょうか。  トーベは1914年に生まれ、45年からムーミンの物語やコミックスを発表していました。『島暮らしの記録』は、50歳になる64年に、クルーヴハルという孤島に小さな家を建て始め、92年に、島で

初めての学校は不安がいっぱい!/『がっこうのてんこちゃん はじめてばかりでどうしよう!の巻』/文:編集部 田代翠

 『がっこうのてんこちゃん はじめてばかりでどうしよう!の巻』は、漫画家の細川貂々による小学校低学年向けの読み物です。これまでにも細川がさし絵を担当した児童書は多数ありますが、本書はお話も自分で書いた初めての作品です。  てんこちゃんは「初めてのこと」がとても苦手。小学一年生になり、ドキドキしながら登校した最初の日、ひとりずつ名前とすきなことを言って自己紹介をしよう、と担任の先生が言います。  わたしのすきなことってなんだろう? と、てんこちゃんが考えこんでいるあいだに、ク

できるってどういうこと?/『体はゆく』/文:上村 令

 小学3、4年生のころ、スポーツが得意な男子と、同じSFのシリーズにはまり、本を貸し借りするなどして急に仲よくなったことがあります。どういう話の流れだったのか、あるときその子がわたしに、「なあ、おまえ、どうして逆上がりができないの?」と尋ねました。全然意地悪ではなく、心底不思議がっている口調だったので、わたしも真剣に考えました…どうしてかな? するとその子は、「オレ逆に、もうできなかった時の感じが思い出せない」と言いました。その後SF好きの二人は、「もし脳みそだけ入れ替われた

かめが語る戦争/『ひろしまの満月』/文:編集部小島範子

 物語は、ある池の庭にいるかめのモノローグ、「わたしは、かめです。」で始まります。かめは、だれも住んでいない家の古い池に何年も何年も前からずっとひとりで暮らしていました。  けれどもある日、その家に引っ越してきた家族の、小さな女の子の声で、かめの記憶がよみがえります。  月を見上げると、満月。かめの思い出ドアのかぎがあきます。かめには、心がばりばりとやぶれてしまいそうな思い出があるのです。  引っ越してきたのがどんな子か見てみよう、と思ったかめは、池を出て、女の子と出会

女の子だと……?/『囚われのアマル』/文:編集部 小島範子

 舞台は現代のパキスタン。主人公のアマルは、小さな村に住む12歳の少女。本が好きで、学校で先生のお手伝いをする時間が楽しみ。家では三人の妹たちの世話をする日々ですが、さらにもうひとり妹が生まれます。父親は、生まれたのがまたしても女の子だと知ると、喜ぶ様子もありません。母親は産後体調がすぐれず、赤ん坊の世話はアマルがしなければならず、学校へも行けなくなってしまいます。  そんなある日、市場に買い物に行ったアマルは、店にあった最後の一個のザクロを買い求めた直後に、車にぶつけられ

被災地を歩いて見つけた美

 今年で東日本大震災から10年。当時はまだ赤子だった子どもたちが10歳になると考えると、月日が経つのは早いと感じます。  2月刊絵本『はるのひ』の作者、小池アミイゴさんは震災後、自分が被災地に唯一貢献できるのは被災地で見つけた美しい風景を描いてその美しさを共有していくことだ、と感じてから、何度も被災地を訪れて海辺の風景などを描き、「東日本」という個展を定期的に開催されてきました。その活動がきっかけになり、依頼を受けたのが、絵本『とうだい』です。  岬にたつ生まれたての灯台

子ども時代の終わりに/『ちいさな国で』/文:編集部 上村令

 アフリカの「ちいさな国」、ブルンジ共和国で、フランス人の父と、ルワンダからの難民である母との間に生まれた少年ギャビーは、欧米人や裕福な黒人が暮らす通りで、仲のいい何人かの友だちと、林に小屋を作ったり、近所に実っている果物を取ったりと、楽しい毎日を送っています。近所じゅうの大人や子どもが集まり、夜中過ぎまで音楽で盛り上がったギャビーの11歳の誕生日。新品の自転車を、盗まれてしまい、使用人たちと探しまわったこと。そして、盗品とは知らずにそれを買った貧しい一家から、無理に取り戻し