
徳地の重源さん、奈良の重源さん(第4回 茶粥の思い出)

ふるさとへの軌跡 徳地の重源さん、奈良の重源さん 〜奈良からの便り〜文筆家 倉橋みどりさんによる寄稿記事です。
東大寺再建を成し遂げた俊乗房重源上人の足取りを奈良と徳地の二つの地から紐解きます。

奈良の名物のひとつに茶粥がある。まだ奈良で暮らすようになる前、観光で訪れたお店に食べた奈良の茶粥は薄緑色だった。緑茶の苦味が勝った味にがっかりし、「おばあちゃんの茶粥のほうがおいしかったな」と思った。仁保から宮野に嫁いだ祖母は、私と弟が泊まりに行くたびに茶粥を作ってくれた。それは茶色く香ばしく、熱々でも冷めてもおいしかった。
そのあと、東大寺二月堂修二会(お水取り)の行中、僧侶たちが食べるのと同じ茶粥をいただく機会に恵まれた。ベテランの童子さん(僧侶のアシスタントを務める男性)が作るできたての茶粥は、茶色くて、祖母の茶粥と同じ香り。おいしい!番茶をちゃんぶくろ茶袋に入れ、米といっしょに水に浸しておけば、あとは強火で十数分煮立たせるだけ。意外に簡単なので、朝ごはんは毎朝茶粥というお宅もあるとか。例の緑色の茶粥は、どうも観光客向けだったらしい。
前回に書いた「東大寺・鎌倉再建を率いた重源上人の足跡をたずねて」ツアーでは、二日目に石風呂へ行き、地元のみなさんに茶粥をふるまっていただいた。もちろん祖母の味と同じ、茶色い茶粥だ。山口に茶粥を伝えたのは重源さんでは?といつからか思うようになった。修二会は奈良時代に始められ、一度も途絶えずに続けられてきた不退の行法だが、おそらく茶粥的なものが食べられるようになったのは、茶が伝来した鎌倉時代に入ってからだろう。石風呂が働く人々の心身を癒したように、茶粥もきっと多くの人に親しまれ、そして現代まで受け継がれてきたのだろう。