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To Call 1

~幼馴染のボクらの話 シリーズ 7~

「ったく。しっかり目覚ましで起きてよね!!」
「しゃーねーだろ? 俺ってば低血圧なんだから」
悪びれる様子もなく言ってのける大介に、花穂の目が吊り上がる。
「理由にならない!! 全くあんたって昔からそうなんだから!!」
今は夕方。学校が終わり二人して帰路についている。
相変わらず起きが悪い大介のせいで、今日も遅刻寸前だった。
叩き起こす仕事から解任されたいもんだわ。と花穂はつくづく思って目を眇める。
「あ」
「あ? どうした?」
花穂が突然声を上げて歩みを止め、大介もつられて立ち止まる。
「そういえば! あんたって好きな人とかいないの?」
「うえっ!? なっ、何だよ急に?」
突然顔を覗き込まれて、大介が動揺する。
何の脈略もない突然の爆弾投下に、混乱して目が泳いでしまう。
そんな大介の様子を気にも留めずに、花穂は地面に視線を落とす。
「いや……好きな人がいれば、その人のために寝ぼすけが改善されるんじゃないのかなぁーと」
「なんでっ!?」
「なんで、って……。なんとなく。ほれ、その人によく見られたいがためのおしゃれを決めるために早起きするとか?」
目をむく大介に気付きもせずに、顎に人差し指を当てて上目使いで考えながら、そう言って笑った。
「あのなぁ……」
 可愛い仕草でそんなこと言うなよコノヤロー! と大介は心の隅で毒づいて、そのとんちんかんな花穂の答えにがっくりと首を折る。
「ねぇ、いないの?」
興味ありげに言い続ける花穂に呆れながらも、諦めたように額を押さえながら大介は渋々答えた。
「……いるよ」
虚を突かれたように、花穂は一瞬動きを静止させて。
「ええええ!? 誰? あたしの知ってる人だったりする?」
満面の笑みを浮かべ、嬉々として質問する花穂の目は爛々としている。
それを横目で見て、ちくりと胸を痛めながら大介は溜息を吐く。
気付いてない。分かってはいるが、少しは可能性を感じたりしないのか。
「……」
「ねぇ、誰よぉ?」
「……マジに知りたいの?」
目を輝かせる花穂とは反対に、大介は冷めた目をして一言返した。
「ねねっ? 誰なのよ? ん。まあいいや。誰でもいいけどその人には言ったの? 言わないと他の人に攫われちゃうかもしれないんだよ? とにかく言わなきゃだめだからね! あっ! そうだ。電話しなさいよ!!」
ぱんと手を打つと、花穂は我ながら妙案と上機嫌になる。
今や、完全に野次馬根性が炸裂していた。
というより、物心つく前から一緒だった幼なじみがようやく色気づいた事が単純に嬉しかったのかも知れない。
「はぁ!? なんでだよ!?」
意表を突かれ、素っ頓狂な声を上げてから、大介は逃げるように腰を引かせる。
「でもよぉ。急すぎる気もするし……」
何とか逃げようと真っ当な理由をつけてみるが、すっかり興奮した花穂は聞く耳を持たない。
「意気地がないわね、だらしない! こういうのは勢いが肝心だし、話が出た時がタイミングなんだから!」
急な興奮で気が大きくなったのか、珍しく物事を強引に進めようと動いている。
たまに、極たまにこうなっては周囲を困らせ、冷静に戻って落ち込むのは自分なのにといつも被害に遭う大介が懸念したが、こうなってしまっては絶対に花穂が引き下がらないのも知っている。
大介は仕方ないと天を仰ぐと、しぶしぶ携帯を取りダイヤルする。
そしてプップップと音が立ち始めると、その場に立ち止まった。

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