初日の出に、願う3
~幼馴染みのボクらの話 シリーズ 外伝~
思えば、ここで離れたのがいけなかったのだ。
どうして、手を繋いでおかなかったのだろうか?
「うぇ……幸弥ぁ」
幸弥とはぐれて、もう既に三十分。
相変わらずの人の波はますます増えていくばかり。
飲まれそうなくらいに人がいるのに、都はひとり取り残され、たった独りぼっちになってしまった気がしていた。
夜独特の、どこか落ち着かない雰囲気が持つ寂しさに当てられているのだろうと思いはするが、心細さは容赦なく襲ってくる。
携帯も一切通じなかった。きっと年が明けたせいだろう。
こういう緊急時用に、対策を練っておかなければいけなかった、と自分たちのしくじりに歯噛みした。
流れる人と音と熱気。それらは都を蚊帳の外にして過ぎて行く。
大丈夫。子供じゃないんだし、どうにか出来る。最終的に社務所に行けば緊急のアナウンスとかもあるだろう。
大丈夫。
大丈夫。
目を強く瞑ってそう思う。まるで言い聞かせるように。
それなのに、思えば思うほど、どうしようもない不安と寂しさが押し寄せる。
「幸弥ぁ。どこ行っちゃったのぉ……。寂しいよぉ。恐いよぉ。一人ぽっちは嫌だよぉぉぉ……」
都の瞳から堪えきれずに涙が流れた。
そうしたらもう限界で止まらなかった。拭うこともせずにぼたぼたと大粒の涙を流す都に、流れ行く人々は何事かと視線を投げる。
それにも何だか傷付いて、恥ずかしくて更に涙が湧いてくる。
「ふぇぇ」
もういっその事、声を上げて泣き喚いてしまおうかと思った。滲んで見えない視界が、シャッターとなって自分を隠してくれている気がしたから。
幸弥ぁ! と叫ぼうと口を開いた、その時だった。
「都!!」
自分を呼ぶ声に弾かれるように顔を上げると、そこには捜し求めた人の姿。
「ゆき……」
その姿を確認すると都は更に涙を流して顔を歪ませて駆け出すと、思い切り幸弥に抱きついた。
「幸弥! 幸弥!! 恐かったよぉ、幸弥ぁ!!」
「おいおい、恐かったはねえだろう?お前、いくつだよ? しかも顔ぐしゃぐしゃで泣いてるし……。子供かよ?」
抱き留めて驚きと呆れた声でそう言うと、幸弥は都の顔を覗き込む。
「だって、何か不安になっちゃったんだもん! ケータイは通じないし、人がいっぱいいてもなんか一人な感じがして、夜の雰囲気に負けて、実は今まであったこと自体が全部夢かもしれないとかぁぁぁ」
火がついたように泣く都の頭を撫でながら困ったように見ていた幸弥は都を安心させるように抱きしめる。
「あーまあ、正月だし回線パンクしてたからなケータイ。俺のもメール返って来てな。必死に走り回っては見たんだけどこの人込みじゃどうにも時間かかって。ごめん。恐い思いさせて」
そういって心底安堵のため息をひとつ。
「良かった。見つかって。ホントは俺もちょっと怖かった」
優しく言って体を離し、まだ泣きすがる都の顔を覗き込む。
「泣き虫……」
そう言って、悪戯っぽく微笑む。
「化粧が落ちて、パンダみてぇ……」
「ひっどぉい。大体幸弥がいけないんじゃない? ひとりでずんずん行っちゃって。こっちは着慣れないもの着てるんだから、気。使ってよ?」
微笑みながらも、すねたように言う都。
「わり。時間に気をとられ過ぎた」
「ほら、言った通りじゃない。もお」
「……すみません」
「よりにもよって、置いてきぼりなんて……。で? 『ここじゃなきゃ駄目な強力なお願い事』ってなあに? もう時間ないんだから、教えて?」
チラッと首をかしげて聞くと、幸弥は観念したように目を閉じる。
「分かった。来て……」
脱力した声で言い、都の手を引いて歩き出す。
「ゆ、幸弥?」
さりげなく手を繋がれ、都は瞬間的に体中の体温を上げた。
「今度ははぐれないように……」
手を引いたまま歩く幸弥を見つめれば、彼の首筋がほんのり赤い事に気が付く。
その事がくすぐったくて、都は微笑んだ。