初日の出に、願う4
~幼馴染みのボクらの話 シリーズ外伝~
「ここ」
そう言って足を止めた場所は神社の休憩所。
「ここで待ってて。込んでっからさ」
幸弥はそう言って、一人どこかへと向かう。目でその姿を追えば、幸弥は何かを買っているようだ。
「ほら」
戻ってきた幸弥が都の眼前に手を差し出して開く。
「わぁ、可愛い」
目の前にぶら下げられたそれはピンクの四角い布だった。
「お守り?」
目の前の物を認識すると、瞬いて小さくつぶやいた。
そうして幸弥を見上げ「ご利益は何?」と問いかける。
すると問い掛け先の人物は目線を合わせず、顔を赤くしてそっぽを向いていた。
「幸弥?」
都は訝しげに声をかけると、幸弥の目線の先に回り込む。
「ねえ、コレ、何のお守り?」
「……」
「ゆき?」
照れたように手を口に沿え、一向に目をあわせようとはしない。
「交通安全」
「……じゃ、なんで照れてるの?」
「……俺とお揃いだから?」
明らかに何かをはぐらかしているその様子に、優子は眉根を寄せて目を眇める。
「……帰る。教えてくれないなら帰る!! 馬鹿!!」
背を向けてズカズカと歩き出すのを幸弥は慌てて止める。
「ちょっ、待てよ!!」
泣き虫だが滅多に怒らない都が一旦へそを曲げると、しばらく機嫌が直らないのを失念していた幸弥は焦って謝罪の言葉を口にする。
「ごめんごめん俺が悪かった!!」
大声で呼び止めるが、都の歩調は緩まない。
幸弥は小さく舌打ちすると、小走りに駆け寄った。
「悪かったって! なあ!?」
肩を掴み、振り返らせると案の定、都は目に涙を溜めていた。
それを見て肩を下げると、顔を赤くしながら小さく言った。
「ここの神社は。縁結びで超有名なの……」
「ふぇ?」
予想外の言葉に思わず都の足が止まる。
「ここで参拝するとぉ。永遠にぃ。どんな事があっても、離れねんだって!!」
ぶっきらぼうにそう言うと、肩をパンと叩いて離れ、顔を真っ赤に染めて続ける。
「……最近、ずっと忙しくて会えなかったし? 都がオレから離れていきそうで不安だったし? なにしろ?これから先。ずっと一緒にいてぇしよ!!」
「……」
「強力な神様にお願いして、安心したかったっつーか……」
「……ゆき」
「何だよ?」
呆然と見つめる都を気まずそうに見る幸弥。
次の瞬間、都の顔に一気に満面の笑顔が咲く。
「馬鹿!!」
そう叫び、思い切り幸弥の胸に飛び込む。
「馬鹿ね!! そんなものに頼らなくても、あたしはずっと側にいるわ!!」
弾けるように言い、背中に回した腕に力を込めた。
帰り道、しっかりと手を握りながら二人は夜道を歩いていた。
「結局、時間無くて参拝できなかったね?」
「しょうがねえじゃん。今からまたあの長っがーい行列に並ぶわけにはいかねえし」
残念そうに言う都に、幸弥は明るく答える。
「やけに嬉しそうじゃない? 参拝したがってたのは幸弥なのに……」
「ん? そうか?」
どこかとぼけた口調で笑う幸弥に、つられたように都も笑う。
「そうよ。ん、ま、いっか。あっ!」
「えっ?」
都の声に惹かれて見た、幸弥の目線の先には眩しい朝日。
「はつひので……だぁ」
嬉しさに声を漏らす。
そんな都を横目で見ると、フッと口元を上げて幸弥が言った。
「神社では願えなかったから、はつひのでに……願う?」
「願うって、何を?」
悪戯っぽく微笑んで顔を覗き込む都。
「決まってる」
そう言って得意な顔で顔を近づけると、お互いに口を開く。
「ずっと、一緒にいられますように……」
二人の先で、朝日はこれまでになく輝いて見えた。
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