To Call 3
~幼馴染みのボクらの話 シリーズ 9~
じっと、大介は花穂を見つめる。
真摯な瞳を受け、彷徨わせた視線は、何と言うべきか迷っている証。
その行動に答えを見たが、花穂からきちんとした答えを聞くまでは大介は何も言わない。
「あ、の」
真っ赤になって必死に絞り出す、花穂の声は震えていた。
「………………ごめん!!」
そういって耳から携帯を離すと、そのまま切った。
「ごめんあの、好きとか言われてもなんか、どうしていいかわっかんない!!」
顔を赤くして頭を押さえ、困ったように大介を窺い見る花穂の視線を受け止めると、やれやれと溜息を吐いて携帯を切る。
「まあそうなるだろうな……。でも」
大介は花穂に歩み寄ると悠然とした笑みを浮かべる。
「だ、大介」
近寄ってくる大介に、花穂はまごつく。
「やっと、言えた」
そんな花穂を抱きしめ、耳元で囁き、そして抱きしめる手に力を込めた。
花穂が緊張に身を固くする。
「ごめん」
強張って裏返った声を出す花穂の体を、名残惜しそうにゆっくりと離した大介に、おずおずと花穂が訪ねた。
「えっと、……いつから?」
「小二」
「ええ!?」
その答えに驚愕して思わず花穂は後退る。
「あーあ。ばれちったなー! ほんとはもうちっと黙っとく予定だったのに、とんだ大番狂わせだぜ。もっと大物になってからお前をもらいに行こうと思ってたのによー」
「ってあんた、結婚する気!?」
「ったりめーだろーが! 男は女に惚れたら一生守っていくって覚悟決めるもんだってじいちゃんも言ってたし、俺もそう思う! だから、中途半端な事しかできない時期には告白したくなかった!」
ちぇーと頭の後ろで手を組みながらきっぱりと言い放つ大介に、花穂は困惑し通しだ。
そんな花穂を見て、大介は意地悪くにやりと口の端を上げる。
「まあ安心しろ。お前の好みは熟知してっから? すぐに俺がいなきゃいられないようしてやるぜ?」
「ちょっ!?、何真顔で何てこと言ってんのよ!?」
「お前単純だからよ、ツボッたかツボらないかなんてすぐに分かるんだぜ? 現にお前、さっき俺にときめいたろ?」
赤面しながら一歩下がる花穂に、面白そうな目線を投げて嬉しそうに笑い、動揺する花穂は図星を突かれてたじろいだ。
「なっ、なっ、何言ってんのあんた!!」
その態度に満足そうに笑みを深めて、大介はつぶやいた。
「俺の春も、そう遠くはねえな」
その顔は見るからにからかいの色を含んでいたが、今にも口笛を吹き出しそうなくらい浮かれているのが如実に表れていて、花穂は恥ずかしさと悔しさを思い切り込めて睨みつける。
「ばっかじゃないの!?」
叫ぶ花穂の視線を大介は余裕の体で受け止めて、両者が見つめ合う事しばし。
「あ! 急がないとバスの時間!」
「やべっ、急ごうぜ!」
気付いたように花穂がはっとして、揃って急いで走り出す。
「んもう! 大介が立ち止まるから!」
「馬鹿野郎! こんな大事な話。歩き出来るか!!」
「馬鹿で悪かったわねえ! ほらもっとスピード上げないと間に合わないわよ!!」
「おめえの歩幅に合わせてやってんじゃねーか! ほれ急げ花穂!」
「悪かったわね、歩幅狭くて! 何よ、むっかつく!!」
「へへーん、悔しかったら足のリーチ延ばすこったな!」
「うっさい、馬鹿!!」
静かな路地に小気味の良い憎まれ口が元気よく響いて抜け、やがて元の静寂が辺りを包みこんでいた。