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この息苦しさなら、悪くない。

 キミと出かけた帰り道。
 今はきれいな夕暮れで、俺は思わず立ち止まる。
 ホントは隣を歩きたいけど、照れてしまってかなわない。
 まともに顔を見られないので、ほんの少しだけ前を行く。
 毎回毎回情けないけど、どうしたって恥ずかしいんだ。

 それからね……
 俺が振り返った時の少し慌てたその顔が、実は好きだったりするんだよ。

 今日は、いろんなキミの表情を見た。

 笑って、焦って、ちょっとむくれて、はにかんで。

 そんな表情が、目の端に入る度に俺は緊張しまくりで。
あんまりドキドキするもんだから、映画の内容なんてさっぱり入ってこなかったんだよ?
 恥ずかしすぎて、顔見れなくて、画面をずっと見ていたけれども。

 後で感想求められたらどうしようかと思ってたから、その話題にならなくて正直ほっとしています。

 ちらりちらりと後方確認。
 気取られないようにしてしまうのは、君に気持ちを隠したかった時の名残り。
もうそんな必要はないのに、染みついてしまった情けなさ。

 とにかくそっと窺うと、キミの眉根は寄っていた。
 俺の斜め後ろから来る、不満気な視線に動揺が走る。

 一瞬なんでと焦ったが、はたと気づいて立ち止まる。
 思い出したのはキミの夢。 
『夕暮れの中、好きな人と手を繋ぎたい』
 それはいつかの教室で、友と話した理想の話。
 そんな会話に耳をそばだて、胸に刻んだはずだったのに。 

 ああそうか、恥ずかしがってちゃダメなんだ。

 ほんの少し、いや精一杯の勇気を出して手を伸ばす。

 そっと感じた柔らかさ、そして伝わる温もりで、一気に息が苦しくなった。

 恥ずかしさに耐えて隣を見れば、並んだキミのその顔がびっくりするほど赤いから思わず心配になったけど。
 それはきっと、俺も同じだ。

 知らなかったな、幸せがこんなにも息が苦しいんだって事。

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