理論は現場で使えないのか?
「理論なんて現場じゃ役に立たねぇんだよ」と言うおっさんが、ときどきいる(なぜか声が大きいことが多い)。一方でトヨタなどが使う5ゲン主義(現地・現物・現実、原理・原則)によれば、改善は原理原則に基づけ、ということになっている。このギャップは何だろうか。
そもそも理論というのは、多くの現象に共通する性質を抽象したものだ。これは科学的な理論であろうと経営の理論であろうと同じである。それゆえ個々の現象特有の要素は排除されている。つまり理論というのは、ワカメを塩漬けにして水分を抜いた「ふえるワカメちゃん」のようなものだ。
「ふえるワカメちゃん」をそのまま食する人はいないだろう。料理に使う際には水で戻して使用する。同様に、理論を現場で使おうと思えば、その現場特有の要素を付加する必要がある。その意味では「理論は(そのままでは)現場で使えない」というのは正しい。
では、なぜ、そんな面倒なことをしてまで理論を使わなければならないのか。それは「打率」の問題である。いたずらに試行錯誤する場合と、理論に基づく場合とでは、解決する可能性は後者の方がはるかに大きい。つまり後者の打率の方が格段にいい。
結論として「理論は正しく使えば現場で役立つ」。問題は「正しく使う」ということ、つまり、どのように現場特有の要素を付加していくか、という点だ。これには絶妙な手腕が必要なことが多い。「ふえるワカメちゃん」だって、水に浸す時間が短かすぎたり長すぎたりすれば、いい状態には戻らない。絶妙なタイミングが必要なのだ。この絶妙な手腕はトレーニングによって培われる。
研修などで学習するのは、理論であることが多い。一方で、その理論を「どのように現場で活用するのか」についてはトレーニングされないことが多い。この点を意識しないと、どんなに理論を学習しても、現場で使える智恵にはならないのだ。