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うたふるよる 第七夜 銀浪さん

録音を前後編に分けてお送りいたしました。

前編

後編

打ち合わせメモを公開します。
万が一不適切な表現や箇所がありましたらいつでもご連絡ください。


常盤みどりが選んだ銀浪さんの短歌

銀浪を渡る小舟の月 遅延
誰か夜空にバナナを投げて

(2022年7月7日RIUMさん画像詠より)

 不思議でコミカルな一首だなと感じました。存じ上げなかったのですが銀浪とは天の川の別称なのですね。天の川を渡る船としての月が遅延してしまっている、織姫と彦星が逢えなくなってしまうのでしょうか。それを助けるために地上からバナナを月の代わりに投げてくれと訴える主体。自身がバナナを差し出さず誰かに「投げてくれ」と訴えている様子はまるで「この比喩をわかって欲しい」と思っているようで主体のことも微笑ましく感じました。純粋な恋路って助けたくなりませんか?たとえ手元にバナナくらいしかなくても。

哀しさをあらわす青色の量が
宇宙でいちばん多いこの星

(2022年7月8日RIUMさん初句「青色の」より)

 青色は知性や落ち着き悲しみの象徴とされるケースが多いのではないでしょうか。そういった意味でこの一首全体の雰囲気も青色に感じられます。激烈さは感じません、穏やかに読むことができます。青色から海、転じて水、涙を想像しました。「哀しさ」を理解する知的生命体はもしかすると地球に生きる人間だけなのかもしれません。そう考えると生命の存在しない他の星と異なり、地球も孤独で悲しい存在に思えてきます。

新しい夢のせ白い半月の
舟はブランクスカイを旅する

(2022年11月16日RIUMさん初句「新しい」より)

 画像を一緒に掲載してくださっていますが、その画像を拝見しなくても情景が沸く美しい一首だなぁと感じます。銀浪さんの短歌は空を海、月を船に例える作品が多いように感じました。この一首は夜ではなく日中を想像します。ブランクスカイは雲一つない青空、雲を海に浮かぶ障害物としそれが一つとして存在しない海に新しい夢を乗せた船が走ろうとしていると読みました。素敵な情景だと感じます。

春までに咲いても咲かなくてもいいよ
君の好きな場所で色で開いて

(2023年3月6日RIUMさん初句「春までに」より)

 2句3句で句跨り、4句結句で句跨り、3句結句が字余りの一首と読みました。技法として良いか悪いか私にはわかりません。分かりませんが心で感じる「好きだな」という気持ちを優先したいです。語りかけるように優しいこの一首が好きです、自分で創れないことを知っているから。春で無くても良い、いつでもいい、どこでも良い、咲きたければ咲けば良い、見守っているから。と読みました。温かい、優しい歌が私は好きです。

 前回のうたふるよるでもお話しをしましたが私は「おかれた場所で咲きなさい」という言葉が苦手です。誤解の無いように述べたいのですが、国内の有名な著書や英訳版に用いられたBloom where God has planted youについても存じ上げています。その著書や詩の内容がどうというわけではなくて、あの本が流行し乱用された際に感じた「そうあるべき」という風潮が苦手なんだろうと思います。溢れた誤読が、先行した未読が他者に我慢を強いているようで。本の内容について「苦手」と言いたいわけではありません。

毒を吐き誰も寄せ付けないことを選んだ紅い孤独な心臓

(2023年8月29日#プラネ短歌「うみへび座」)

 一番最初に選びました。うみへび座のうみへびはギリシャ神話のヒドラがモチーフだそうです。疎いのでそこには言及できないのですが、蛇ってどうしても嘘つきで悪態をつくようなイメージがありませんか。創世記でもエデンの園で禁断の実をイヴに食べるようにそそのかすのは蛇だし。私だけでしょうか。毒を吐き散らかして誰も近寄らないでこないでとしていればそりゃ誰も寄ってきません、耳も無いから人のアドバイスも聞けないのかもしれない、でも心臓は真紅で美しいのですよね。どうしても他人事に思えなくて紹介したいなと思いました。私の腹は黒いのですが。

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みさきゆうが選んだ銀浪さんの短歌

いきなさい。やわらかな蹄が星の草原を
振り向かず駆けぬける

(2023.11.28 プラネ短歌 『こうま座』)

 一番最初に選びました。美しい情景が浮かびます。まだこうまだから、蹄は柔らかいのでしょうか。汚れていないやわらかな蹄で、「星の草原」を駆けぬけてゆく。美しいな表現ですよね。駆け抜ける時に起こる風も感じることができました。初句「いきなさい。」がとても好きです。なんとなくエルフのイメージが浮かびました。こうまだけなのか、それとも誰か乗っているのか。「振り向かず駈けぬける」から、新しい道に進む若者や決心をした人に向けての言葉のようにも思えます。

叶わないそのほうがきっと正しくて
世界が平和でいられるのなら

(2023.6.29 RIUMさん『夢』)

 『夢』がお題の歌なんですが、主体の夢はどんなものなのでしょうか。主体はその夢が正しくないと平和を乱すと考えているようです。世界は普段接している規模なのかなと想像しました。家庭や学校、仕事先、パートナーとの関係など人間関係に影響してしまうのでしょうか。自分以外の周囲を慮り、諦めようとしていのか。叶わなくていいではなく、もう「叶わない」と決定されたことなのかもしれません。そう考えることで自分を気持ちを収めようとしているのかも。いろいろ考えさせてくれるお歌でした。好きです。

 事の大きさはそれぞれとして、夢を諦めた経験をお持ちの方は多いと思います。夢とまではいかなくても やりたいこと でも。諦めなくていいよ!なんてことは無責任に思えて言えないのですが、その夢は消してしまうのではなくてほんの小さな灯火としてでも持ち続けていて欲しいと、主体にも伝えたいと思いました。

金曜の夜の渋谷の雑踏で口笛と草笛で話した

2023.6.24 RIUMさん『無茶』

 『無茶』というお題から詠まれたお歌です。金曜の夜に渋谷に行ったことはなく、その混み具合は想像なのですが、周波数も違いそうだし、なんとなく話せそうな気がして、そのぎりぎりのラインが好き!と思いました。口笛と口笛、草笛と草笛では無いんですよね。多言語同士。笛の使い手たちはきっと耳で聞き取る以外のものでのコミュニケーション能力も持っているのではないでしょうか。何を話したんだろう。なんてことない日常の会話を秘密めいたやり取りするのもなんだかときめきませんか?

哀しさをあらわす青色の量が
宇宙でいちばん多いこの星

(2022.7.8RIUMさん初句『青色の』)

 ガガーリンの言葉「地球は青かった」(意訳のようです)にあるように「この星」は地球のことだと読みました。(他にも月面着陸のお歌を詠まれていましたね‪‪☺︎‬)海の青さは、空とは違い、深くなればなるほど暗く冷たく透き通らなくなります。地球上の生物の中でも人間は深く思考します。哀しみをよく知っています。心の痛みから涙を流します。「宇宙でいちばん多い」と言い切っているのがその通りだと思います。「青色」に「哀しさ」を感じられる人間が住むこの星の美しさを、宇宙から見た地球を、浮かばせてくれるのも好きです。

この先に誰も知らない朝があり
とてもていねいにしたくをするひと

(2023.3.3RIUMさん初句「この先に」)

 このお歌、私の読み方は違う気がするんです。でも好きなんです。みどりさんはどんな風に読まれるのか聞いてみたいと思いました。「誰も知らない朝」をどう読むかだと思うんですが。私は死に向かうイメージが浮かびました。死を知ってる人は誰も生きていません。朝は目覚めて一日が始まる時間なのに、この「ひと」は今日死ぬ事が決まっているのかなと思ったんです。自ら命を絶つのか、負けるであろう戦いが待っているのか、それとも刑に処されるのか。その先に向けて「とてもていねいにしたくをするひと」なんじゃないかと思いました。平仮名で書かれていることで、やわらかな朝の光の中、ひとつひとつゆっくりと、ていねいに支度する気持ちや音も立てない静けさや覚悟が感じられると思いました。

明るく読むならどうでしょうか。まだ誰も達成したことのない挑戦をするのでしょうか。もう少し考えます。


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