元々米国SaaSの中で最高の成長率を誇っていたZoomはコロナの追い風で更に怪物に。嘗てのアイドルSlackや和製業務効率化の雄サイボウズ・チャットワークも同様に成長加速している?【分析:日米高成長企業の評価・統治・給料】
皆様こんにちは、本日は業務効率化セクターSaaSの高成長企業Zoom Video Communications(以下ZM)・Slack(以下WORK)を見ていきたいと思います。適宜、同セクターのサイボウズ(以下CZ)、チャットワーク(以下CW)で比較したいと思います。
概要
WORKのIPO以降の価格リターンは↓です。
(ZMは青、WORKはピンク、CZは濃黄、CWは黄)
出典:Yahoo Finance
注:CWはIPO時(2019/9)のZM価格が起点。CZは有配なのでTSRではもう少し上昇します
基本的にコロナの追い風を受ける業務効率化アプリを提供する各社ですが、ZMとCZは素晴らしいパフォーマンスをあげる一方、WORK・CWのチャット勢は冴えない展開となっています。
現在の時価総額は、ZMが日本の時価総額7位の中外製薬と同等の約8.1兆円、WORKが同82位オリックスと同等の約1.7兆円、CZは約0.17兆円、CWは約0.06兆円です。
現在の市場評価
ZMの財務推移は↓です。
高成長企業が揃う米国SaaS銘柄の中でもトップクラスの成長率をマークしつつ、SaaS銘柄らしくFCFはずっとプラスを維持しています。
ZMの成長戦略は↓です。
①大企業への浸透
②海外企業の取り込み
③電話との統合
④会議室の常設端末
昨年度通期決算の売上高成長率は88%でしたが、前四半期の売上高成長率はコロナの影響で驚異の169%!
FCF成長率は1541%!となっています。
WORKの財務推移は↓です。
高成長企業が揃う米国SaaS銘柄の中でもまずまずの成長率をマークしていますが、FCFはマイナスとなっています。
昨年度通期決算の売上高成長率は57%でしたが、前四半期の売上高成長率は50%とZMと比較するとコロナの影響による増収は限定的です。
但しFCFは前四半期においてプラスに転じました。
CZの財務推移は↓です。
売上高成長率は概ね20%程度、SaaSらしくFCFはプラスを維持しています。
CZの商品はグループウェアで多用な機能を一つにまとめて主にSaaSで提供しています。
2007-2012においてほぼ売上高は横ばいでしたが、SaaS展開により再び成長軌道にのりました。
株価を見る限りCZはコロナの追い風を受けているかと思いきや、1H2020の売上高成長率はほぼ例年通りの+17%です。
CWの財務推移は↓です。
売上高成長率・粗利率ともに上昇傾向にあり、またFCFもプラスに転じております。
2Q2020の売上高成長率は39%とFY2019の39%から変わらず、それほどコロナの追い風を受けている状況ではありません。
CWは他国比で低い日本のビジネスチャット利用率が伸びしろとなります。
CWはこの記事のWORK(↓の図だと恐らくA社)及びマイクロソフト(恐らくB社)と直接競合します。
WORKとマイクロソフトのサービスローンチ後もID数は伸び続けています。
ZMのビデオ会議との連携、三井住友銀行との提携による成長を目指しています。
以上を踏まえてバリュエーションを見てみると、
(当マガジンは安定性ではなく成長率に焦点を当てて、日本メディアでは珍しく黒字赤字で一喜一憂せず、成長企業を応援するスタンスにしています。使用するマルチプルがEV/売上高(TTM)と売上高成長率(TTM YoY)の関係であることの理由は↓ご参照)
2020/7/31現在の米国SaaS企業124社の成長率とバリュエーションの関係は、
EV/売上高=2.0 + 46.1 x 売上高成長率
です。
本記事の会社をプロットすると↓になります。
(CWはIPO間もなく1H2018の実績がわからないため、TTM売上高成長率ではなく1H2020と1H2019の成長率)
ZMは米国SaaS企業124社の中でトップの売上高成長率を誇り、またコロナの追い風により成長率は再加速(直近四半期の成長率は+169%=1.69)しているので、バリュエーションも最大!となっています。
ZMの株価パフォーマンスが良いのは売上高成長率の再加速でありますが、CZは株価が上がった現在でもバリュエーションが回帰ライン上なので、元々あまり期待されていなさ過ぎたのが、成長率対比で平均的な水準まで修正されたと考えることができます。
WORKとCWの株価パフォーマンスが冴えないのは、IPO時のバリュエーションが成長率対比で高過ぎ or 標準であり、またコロナの追い風がそれほどではなかったことが原因ではないかと思います。特にCWはまだ大分回帰ラインより上に位置しています。
また売上高成長率ほどはEV/売上高の説明力は高くないですが、Efficiency(売上高成長率 + FCF率)で回帰させると、
EV/売上高=1.4 + 31.7 x Efficiency
になり同様にプロットすると↓になります。
ZMは売上高成長率のみならずFCF率も優れているので、ここでも飛び抜けた存在になっています。
ここで一点注意が必要なのは、ZMのEV/売上高は大きく変動しており(↓ご参照)、また現在はかなり加熱を示していることです。
出典:Seeking Alpha
反対にWORKはIPO時の過剰なバリュエーションの修正が進んできております。
年間売上高サイズごとの売上高成長率
売上高が大きくなってくると当然売上高成長率は下がってきます。
↓は米国SaaS120銘柄の過去5年程度の売上高区分に応じた平均売上高成長率です。
ZMはTTM売上高成長率に関して、売上高が$100-1,000Mの場合のカテゴリーの平均・中央値よりは高い実績(111%)をあげています。
WORKも同カテゴリーの平均・中央値以上の実績(53%)となっています。
CZも同カテゴリーですが、平均・中央値以下の実績(18%)となっています。ちなみにZMがCZの売上高の時の成長率は118%でした。WORKがCZの売上高の時の成長率は110%でした。
CWは売上高が$0-100Mの場合のカテゴリーの平均・中央値以下の実績(39%)をあげています。ちなみにZMがCWの売上高の時の成長率は148%でした。
統治・給料
ZMの取締役はCEOと↓の社外取締役です。社外取締役は全て他社・軍隊の重役経験者です。社外取締役報酬は他の米国企業との比較では低めです。
経営陣の総報酬は↓です。CEOの報酬は約0.3億円です。
WORKの取締役はCEOと↓の社外取締役です。社外取締役は全て他社の重役経験者です。
経営陣の総報酬は↓です。CEOの報酬は約4.4億円です。
その他
サイボウズ社長の青野氏が、かつて「ブラック企業」と呼ばれていた状態からの軌道修正についての本を書いています。
社長が育休を3回取得、副業は原則OK、働きがいのある会社ランキング1位(2017年、女性部門)。
離職率28%の「ブラック企業」から変化を遂げ、ユニークな働き方で注目を集めている企業・サイボウズ。
その「実験」の過程で見えてきたのが、会社という「モンスター」の存在だ。
「私たちが楽しく働けないのは、会社の仕組みのせいなのではないか。会社がモンスターのように私たちを支配してしまっているからではないか」
何度でも噛み締めたいバフェット箴言
「金を持っていれば、ある程度、周りの環境を面白おかしく変えることができる。しかし、いくら金を持っていても、愛情や健康を買うことはできない」 “Money, to some extent, sometimes lets you be in more interesting environments. But it can't change how many people love you or how healthy you are”
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