経営も投資もスポーツも基本が大事!:絶対に忘れない[財務指標]の覚え方【書評:歴史と投資の交差点】
皆様こんにちは、本日は公認会計士、米系投資銀行ゴールドマン・サックスのバンカー、東証一部上場ベンチャー企業のCFOを歴任した財務のプロフェッショナル・森暁彦氏の新作の書評をしたいと思います。
本書を一言で表せば「本当に本当に重要なコア指標にフォーカス・無駄を廃しつつ、実務に裏打ちされたこぼれ話も楽しい時短学習本」になると思います。
タイトルにもある財務指標には以下のようなものがあります。
①損益計算書(以下IS)で完結する指標(粗利率・営業利益率等。マージンという言葉を使ったりもします)
②貸借対照表(以下BS)で完結する指標(流動比率・負債比率・自己資本比率等)
③ISとキャッシュフロー計算書(以下CS)を行き交う指標(営業CFマージン・FCFマージン等)
④BS・IS・CSを行き交う指標(RoE・RoIC・(純)有利子負債/EBITDA等)
⑤時価BS・IS・CSを行き交う指標(PER・EV/EBITDA・EV/売上高等)
事業経営もっと言えば資本主義体制における生活というのは煎じ詰めると、最初に投下した金額がどのような金額となって返ってくるか(リターン)を考えるのが基本で、後はプロセスの中間要素となります。
企業内部にいると①②③の中間要素ばかりへと視野狭窄になりがちですが、本書は最初と最後を関連付ける④⑤を重点的に解説していて、基本の大切さ・従業員であっても経営の視点が大事だと思い知らせてくれます。
それはまるで現代の古典教養スラムダンク安西先生の「下手糞の上級者への道のりは己が下手さを知りて一歩目」やゴリの「ダンクができようが何だろうが基本を知らん奴は試合になったら何もできやしねーんだ!!」を彷彿させます。
森氏も枝葉を落としたシンプルな本質説明ができるようになるまでには、血のにじむような「シュート2万本」を経験してきたに違いありません(笑)
本書の秀逸な点は各財務指標の本質を説明するとともに、実際のマーケットに即したケースが用意されていて記憶の定着に一役買っている点です。
①ファストフード/固定通信/エアライン/電力会社/オフィス・商業施設開発/ガス会社/モバイル通信/半導体製造装置/石油メジャー/半導体の各ネットD/Eレシオ(レバレッジは事業リスク・ボラティリティとの見合いで考えましょう)
②米マクドナルド等のCFが安定している企業は「債務超過」にしてもOKなこと(米国市場は日本市場のように債務超過が上場廃止基準ではない。数年前の東芝のスッタモンダが忍ばれます(笑))
③総合商社のPER(5-7倍)・PBR(0.4-1.1倍。伊藤忠以外は期待資本コストを満たしていない...)
④銀行のPBR/ROE回帰分析(PER・PBR・ROEはキリスト教で言ったら三位一体です(笑)。ROE15%弱が銀行に期待される資本コスト...)
⑤ZOZOの中期経営計画と実際の業績との乖離(急成長企業の未来予想は本当に難しい...)
⑥シーメンスとGEの株価推移(過去23年でかたや3倍かたや半分)
⑦自身のNOVA債権投資失敗のお話(人生成功ばかりじゃつまりません(笑)。現代日本の純資産キング柳井氏ですらも人生「1勝9敗」と言っています)
⑧シャープの棚卸資産の推移(発生主義会計マジックその1)
⑨RIZAPの資産合計の推移(発生主義会計マジックその2)
⑩銀行はかつて損失処理の先送りという「膿」を抱えていた(発生主義会計マジックその3。君はかつての大手21行体制なるものを知ってるかい?)
⑪会社レッドフラグ12か条!
上記の一つ一つが財務指標の本質理解をより強固なものにすること請け合いだと思います。
一点WACCの説明が天下り式で、財務指標の本質理解には必要ないものの、かなり学術に寄っていたとしても相棒の杉下右京のように「細かい所が気になってしまうのが私の悪い癖でして」な方(笑)は、↓拙記事を「9. CS思考に則った投資CF支出の場合、どの程度のリターンを目安とし、財務CFの自己株買い&配当との配分をどう考えるか?」で検索ください(とても長文ですので)。債券スプレッドや株式リターン/資本コスト/リスクプレミアムの説明をしています。
以上まとめると、本書を読めば「王道」の財務指標・コーポレート・ファイナンス理解が、RoT(Return on Time)=時間当たり成果マックスで得られると思います。
最後に「王道」の「補完」のお話をしますと、米国では2つの①ほとんど「会計利益」をあげていない、②なんなら「売上高」もほとんどない・あってもほとんど成長しないセクターの企業が上場しています。一つはSaaSあるいはクラウドサービス企業(以下SaaS)で、一つはバイオテクノロジー企業(以下バイオ)です。
より極端な方を取り上げると、①も②も満たすバイオ・セクターは米国市場全体から見ればニッチですが、されどセクター時価総額合計は約90兆円で日本最大の企業トヨタ自動車約4つ分です。銘柄数は547で米国市場合計(NYSE/NASDAQ/AMEX)4959社の約11%です。547銘柄中、当期純利益を計上しているのは36銘柄・約7%で、約93%!は赤字企業です。
ちなみに米国で成長株が集まるNASDAQ市場において現在、当期純利益を計上しているのは約44%(=1,184/2,692)で、約56%は当期純損失となっています。
安定企業が集まるNYSE市場においては、当期純利益を計上しているのは約67%(=1,387/2,064)で、約33%は当期純損失となっています。
現在バイオ・セクターで最大の時価総額企業はVertex(新型コロナ治療薬として期待されるレムデシビル開発のGileadやAmgenの方が大きくまたバイオ・セクターに分類されることもあります)で、1989年創業/1991年IPOの32歳です。時価総額は日本の時価総額8位KDDIより少し大きい約8兆円です。
上場時の売上高はほぼ0で、1992-1999年までの売上高は約4-40億円、2000-2010年までの売上高は約100-200億円の間をでこぼこ動きました。当期純「損失」は1991-2010年までずっとうなぎのぼりで2010年には約800億円となりました。
2011年以降ある程度開発は成功し売上高は突然1000億円代に跳ね上がったものの、当期純損失体質は変わらず数百億円の赤字でした。
当期純利益・営業CF黒字が定着したのは上場後27!年目の2017年からです。当然それまでFCFの赤字を毎年のように公募増資等で調達することにより賄っていました。
1991-2019年の当期純損失・利益の合計は約2000億円の損失です。
こんなVertexではありますがIPO後のTSRは↓で、ベンチマークのS&P500に圧勝しています。(出典:Seeking Alpha)
Vertexが例外というわけではなく、例えばバイオ・セクターETFのSPDR Biotech ETF(よくある時価総額ウェイトではなく基準を満たした銘柄を均等買いするタイプ)のTSRは↓で、S&P500を上回っています。(出典:Seeking Alpha)
米国バイオ企業がこれだけ長期間資金を集められるのは、米国の医療市場が他国比かなりの自由競争でなりたっていること等があり日本で再現は難しいかもしれませんが(日本にも長期間赤字を継続しているバイオ企業が数十は上場しています)、他のセクターの高成長会社はもしかしたらもっと高成長が出来る所、黒字でなければならないという規範に縛られすぎている内に成長の賞味期限を迎えて、うだつの上がらない「中年」になってしまっていることもあるかもしれません。
↓拙記事のとおり日本は極小株式のパフォーマンスは「現在」世界一ですが、中小型・大型となるにつれて米国に見劣りする水準になってしまっています。
もちろんこの原因には金銭解雇がしづらい・中央銀行がデフレターゲットをしていた等、柔軟・積極的な経営を阻む要因も大きいとは思いますが。
そこで米国高成長株を対象とし(概ね売上高成長率上位500社の内、読者需要がありそうな会社)適宜そのピア日本企業も組み込むnoteを作りたいと思います。考えてみると日本のマスメディアの業績記事は大半が赤字にフォーカスし、売上高成長率にはほとんど目もくれないという状況ですので、一つくらい成長率に注力するメディアがあっても良いのではないか、日本の成長企業はもっとアクセル全開しても良いのではないかと勇気づけることができるようなnoteにしたいと思います。
第1号は米国SaaSの草分けとも言えるsalesforceと日本のSansanを取り上げたいと思います。
何度でも噛み締めたいバフェット箴言
「会計はビジネスの言語だ」 “Accounting is the language of business”
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長文をお読みいただきありがとうございました!
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英語・財務・投資の勉強の一石三鳥を狙いたい方は↓もご参照ください。CS重視・ISほどほど・PERで見ると万年割高経営のはしりであるアマゾンの1995-2015年の財務も収録されています。