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ミニマム7週法_向精神薬を慎重に減薬して回復する方法

ドクターインタビュー 
増田さやか医師 (クリニック花草 愛知県岡崎市)

ここ数年、精神科に通う当事者の間では減薬が一種のブームのようになっています。
ネット上に、向精神薬を服薬している人がそのリスクを訴えたり、あるいは減薬した患者さんの体験談や向精神薬のリスクを解説する書籍なども増えています。
また2018年の診療報酬改定による多剤処方抑制政策により、「減薬のサポート」を“ウリ”にするクリニックも増加しているようです。
患者会をサポートしていると「主治医に薬の調整を相談したら向精神薬を一気に断薬された」「自分で急減薬したことにより、離脱症状症状が治らない」、「減薬したいが方法がわからない。助けてくれる医師を教えてほしい」という患者さんからの悲鳴のような連絡も後を絶ちません。
今回は向精神薬の減薬について、8年前から実践をスタートし多くの患者さんを支援している精神科医の増田さやか医師(愛知県岡崎市)にクリニックで行ない成果を上げている減薬の具体的な方法「ミニマム7週法」について取材しました。

減薬を専門に行うクリニックに相談が集中


Q. 2022年4月に開院した花草クリニックですが、花草は、はなそうと読み「話そう」の意味もかけているのですね。クリニックにはどのような患者さんがどんな相談を訴えて来院されますか?

増田 2つのタイプの患者さんがいらっしゃいますね。多くの患者さんはこれまで別の病院で私が診ていた患者さんです。もう一つは減薬断薬をしたいという人が初診でいらっしゃる場合です。
Q. やはり薬のことで全国的に困っている方達がすごくたくさんいるわけですね。
増田 そうですね。全国からですね。九州、大阪や東京からもたくさんいらっしゃいますね。
Q. 減薬したいが医師が見つからず困っている患者さんから、私たちの患者会にもたくさんの問い合わせがあります。全国からの患者さんにはオンライン診療を取り入れるのですか。増田  はい。オンライン診療は、「ビデオトーク」というNTTのオンライン通話サービスで行なっています。
Q. オンライン診療の場合は自費になるのですか?
増田
 いいえ。オンライン診療は保険診療ができます。しかし患者さんと一回初診ではじっくりお話をお聞きしたいので、実際に会うことに価値を感じるんですね。一回ご本人と会ってみるとだいぶわかることもありますね。特に事前に家族相談を受けていて、実際にご本人と会うと全然イメージが違うってことは結構ありますね。
Q. ところでクリニックの名称にもなっている「話そう」なのですが、初診以降の通院精神療法は診療報酬も少ないですよね。一般的には最初の段階で薬が決まったら、あとは薬をコントロールするというのが精神医療の普通のスタイルかなと思いますが、患者さんとの対話を大切にするということで、実際にはかなり長くお話を聞く感じですか?
増田
  実際にすべての方の診察時間を30〜40分取れているかというとそうではないです。でも初診だと40分くらい、再診で20分くらいは話せます。とはいえ、もっと短い診察しか受けたことのない人ばっかりなので、患者さんの満足度はそれほど低くはない様子です。「色々話ができてよかった」とアンケートに書いてくださる方もいますね。

Q. コミュニケーションの満足度は、時間もある程度必要ですが、話の質の問題だと思うのですけれども、診察室ではどんなことを大切にしていますか?

増田 大切にしているのは、「病気の話から始めない」というところですね。病院で働いていると、「いつからどんな症状がありますか」と尋ねるのがスタートなのです。しかし、私は、今誰と住んでいるか、家族状況や兄弟のこと、「今まで大きい病気したことありますか?」「女性なら生理はちゃんときていますか?」「朝御飯は何を食べますか?」といったことを、一通り聞きます。病気の質問から始めないようにする対話の仕方だと、例えば「父親が怖い人だった」か「子どもの頃は体が弱かった」「学校で倒れることもあった」といったような話が出てきます。

約8年の減薬支援を経て確信する信頼感の大切さ

Q. 減薬の支援をスタートしたのは、勤務していた精神科病院でほとんどの受け持ち患者さんの薬を少しずつ減らしたというところから始まったということですが、何年ごろから取り組みを始め他のですか?

 増田 あれは平成26年ぐらいだったと思います。だから8年ぐらい続けています。
Q. この7〜8年で減薬や向精神に関しての意識で何か変化してきたことはありますか?
増田
 そうですね。減薬のサポートする側も、当事者もやっぱり広く学んだほうが絶対得だと思うのですね。例えばデパスを減薬したいとすると、デパスの離脱の人のブログなどその薬の経験ばっかり集める人が多いですね。そしてたまたまデパスでうまくいかなかった話などを読むと「デパスは恐ろしい薬だ」っていうイメージがもうしっかり入っちゃって、その一回入ったイメージはなかなか抜けないのです。「全然大丈夫です」というつもりもないけれど、「大丈夫」という安心感を持ってもらい「回復を信じて行こうね」と患者さんには話します。
Q.  安心感や信頼感が大事なのですね。
増田 「やろうと思った人は必ずやれるよ!」みたいな毎回自分のパワーを送る感じって言ったらいいんですかね。それがすごく大事だなって。だから今はやっぱり自分がタフでないといけないなと感じています。減薬の支援を始めた最初の頃は「減断薬するご本人がタフであればいい」って思っていたのです。だから「体ができてる人とかは楽に減・断薬やれる」って思っていました。できる人は皆自分でやっていくっていうようなイメージでした。でも減薬はこちらにもパワーがいるんです。それは「離脱症状が怖い」というような意味だけじゃなくて、途中ですごくぶれちゃったりしそうになった時に、「そっと後ろで支えていきつつ、押し上げていく」というようなことがすごく大事。それが「離脱症状を左右している」と言っても過言じゃないぐらいに感じています。
Q. なるほどサポートする側の大丈夫感みたいなのがすごく大事っていうことですね。
増田
 はい。科学的な問題と言ったらいいのか薬物動態的なこと、半減期ですとか、血中濃度とかそういうところも大切ですが、むしろ私はそこよりも本人の安心感のほうが全然重要であると思ってるんです。
Q. 「安全という感覚の大切さ」を以前から言ってらっしゃると思いますが、ますますそう考えるようになったということでしょうか。
増田
 はい。前はそう言いながらも、ものすごく感情的になる人とかを前にした場合、「先生が言う通りにやってきたのに全然良くならない」とか「早すぎたんじゃないでしょうか」みたいなことを言われると、実はちょっとむきになったりしてたんですよね。個人差があったり色々事情があったりするわけだけど。でも今はそうやってどんなにぶれる人でも「励まし続ければ必ず光が見えてやれるようになる」っていう自分の中でもちょっと自信が出てきたのです。
気功をやる人みたいに人に、「気を当てている感じ」なんです。自分自身、消耗はするけれど、体調が良くなる患者さんが増えることで充実感みたいなのものがありますね。

向精神薬を多剤服薬している時の減薬方法の選択


Q 多くの患者さんが精神科で薬の調整を医師にお願いすると一気断薬をされたり、かなり早いスピードの減薬をして体調が悪化すると離脱症状ではなく再発と判断されたりすると話します。医師の感覚と患者さんの実感、実態にはかなりズレがある気がします。
増田
 精神科医の中には、抗うつ薬や抗精神病薬には依存や離脱症状はないと思っている人が多いと思います。依存があるのはベンゾだけと考えていて、ベンゾを抗うつ薬や抗精神病薬に置き換えれば減薬がうまくいくと考える方もいます。しかし長年減薬に取り組んでみると、現実はそうではありません。抗精神病薬や抗うつ薬などを減らして体調が悪くなった場合は、症状の再発であると判断されがちですが、私は向精神薬にはどれも依存性も耐性もあるので、再発ではなくそれも離脱症状だと解釈しています。
Q ではそういった判断のもとで何に気をつけて薬を調整していくのが良いのでしょう
増田 
ベンゾジアゼピン系の薬の減薬の際は力価や半減期などの条件に重きをおく傾向があるのに対し、その他の向精神薬 抗精神病薬や抗うつ薬、抗てんかん薬などは力価や半減期などの要素がベンゾほど重要ではないと考えています。

〈向精神薬を減らす時の順番や方法〕


Q 増田さんは、ベンゾジアゼピン系だけでなく、向精神薬全般、特に抗精神病薬や抗うつ薬の減薬など、多剤処方の方の減薬にも実績があるということですが、さまざまな薬を減薬する際に、それら薬剤の減薬の順番を決めていくときの指針となる考え方などについておしえてください。
増田  向精神薬の複数の種類を飲んでいて、全体に減薬(断薬)したい場合ですね。まずどの薬から減薬するか。その選択と理由についてお話ししましょう。
―――――――――――――――――――――――――――抗精神病薬 抗てんかん薬 気分調整薬 抗うつ薬とベンゾジアゼピン(睡眠導入剤、抗不安薬)が入っている場合。
―――――――――――――――――――――――――――

ベンゾジアゼピン系薬剤、特に睡眠導入剤は最後に減薬します。


理由① 減薬中、睡眠の確保が大切であるため。必ずしも睡眠導入剤を用いなくても、睡眠の質が保たれている場合(他の代替療法等を用いて)は、その限りではありません(本来は、睡眠導入剤を用いるより、自然な眠りの方がはるかに良質な睡眠がとれる)。

しかしながら、睡眠導入剤を急いで減らした後に、反跳性不眠が出現することがあり、この反跳性不眠は、普通の人が考える「人間、誰でも、極限になったら眠れる、不眠で死んだ人はいない」というような余裕のある状態ではなく、場合によっては、急激な体重減少、免疫不全などもきたしうるものです。
 
理由② 抗精神病薬、抗てんかん薬、気分調整薬、抗うつ薬を減薬した場合に、その結果(つまり減薬のスピードとそれによって起きる離脱症状)は、かなり遅れて生じるからです。


先にベンゾを減らした場合、その結果は、減薬の経過中から出現し始めることが多いが、それ以外の薬は、断薬を終えてから数か月後に、ドーンと離脱症状が襲ってくることもしばしばあります。

特に、複数の種類の薬を飲んでいた場合は、その人の神経系が複雑な状態になっており、いつどの時点でどのような反応が出るか予測できないです。

したがって、まずはベンゾ以外の薬を、ステイ(減薬を進めない)期間を設けながら、断薬または、必要最小量まで減薬し、そののちにベンゾの減薬計画を立てるべきだと考えます。
(ネット上に、しばしばベンゾ単体の離脱で大変だったと書いている人のなかに、その半年前に抗うつ薬を数カ月で断薬した。それほど離脱は出なかった。と書いている人がいますが、抗うつ薬の離脱が、まだその時点で出ていない段階で最後のベンゾの減薬を始めてしまっただけであり、ベンゾ減薬後に抗うつ薬の離脱がかぶってひどくなっている、というケースがかなりあります)―――――――――――――――――――――――――――  抗精神病薬 抗てんかん薬 気分調整薬 抗うつ薬とベンゾジアゼピン(睡眠導入剤、抗不安薬)が入っていない場合
―――――――――――――――――――――――――――

決まった順番は特にありません。長く飲んでいるものをあとにして、最近飲み始めたものを先に減らすことが多いです

バインディング(レセプターとの結合)の強さが弱いものは減薬しやすい傾向がある。副作用がつらいものを優先する時もあります。

―――――――――――――――――――――――――――

睡眠薬・抗不安薬などベンゾジアゼピンのみの場合。
―――――――――――――――――――――――――――
ベンゾを2種類以上飲んでいる場合は、睡眠導入剤はあとからにします。抗不安薬は、1日3回飲んでいる場合は、まず昼を減らし、朝を減らし、夕方のみにします。


これはベンゾの血中濃度を一定にするという発想ではなく、逆に、ベンゾがからだに残っている時間帯を夕方から明け方に限定し、日中の時間帯は薬の影響を受けない状態にしていくという発想。その方が睡眠導入剤も少なくて済むためです


 ベンゾジアゼピンというのは、1本の木に生えた、似たような実を、「これは短時間型の睡眠導入剤」「こちらは長時間型の抗不安薬」などと分類しているが、いったん依存形成された体にとっては、別の薬剤であるという認識はされにくいと考えています。
このためベンゾ系の睡眠導入剤が効かなくなっている場合、他のベンゾ系薬物に変えても、眠れるのはせいぜい2,3日。それ以上経つと、「なーんだ、また似たようなのが入ってきた」と脳にバレてしまう。
しかも、日中は抗不安薬としてベンゾを使い、夜は睡眠導入剤としてベンゾを使った場合に、日中は、これを飲んで寝ないようにしなければならず、夜は似たような薬が入ってきているが寝なければならないとしたら、脳はそんな器用なことはできないわけです。したがって、日中から、ベンゾが一定濃度で入っている人は、睡眠導入剤の効果が非常に得られにくい。睡眠がうまくとれていない人は、日中はベンゾが抜けているように、朝、昼はベンゾを体に入れないという形にするのが良いと思っています。

「ミニマム7週法」という減薬の方法のこと


Q. ベンゾの入っている多剤処方の場合、ベンゾの入っていない多剤処方の場合、そしてベンゾだけの場合と3つに分類しての説明ありがとうございます。
これらの服薬タイプごとに、順番を決めて薬を1剤ずつ減らしていくということですね。ではその実際の減薬の頻度や量。ペースについてなのですが。現在はどのように行なっていますか?

増田 はい。私の方法は以前から隔日法と呼ばれているやり方です。ここ数年、私はそこに私なりの工夫を加え、これを「ミニマム7週法」と呼んでいます。

Q. 薬を飲まない日を作るのが隔日法だと思いますが、あえて7週というのはどういうことなのでしょう。

 増田 例えばまず1錠の薬を4分の3に減らしたいとします。
その場合、以前はまず
①1剤を8分の7にする。
②次は8分の6(4分の3)にする
といったように刻み方を少なくして、それを継続する減薬する方法でやっていました。

現在は 8分の7を経てもいいし、経なくてもいいんですが
①1剤を4分の3にする日を週1日だけ作る

②次は4分の3にする日を週2日作る

という方法を使っています。
Q この方法はどこにメリットがあるのでしょうか?
増田 
この方法ですと、4分の3にする日を週に1日だけつくるので、それが増えていくと
最短7週間かけて、1剤の薬について毎日の量が4分の3になります。
その後は1週間で次の量に進む人、2週間で次の量に進む人などがいます。
Q. ベンゾだけでなく抗精神病薬についてもと同じ方法をとるのでしょうか?
増田
 はい。特に抗精神病薬の場合には3週〜4週間かけて次の段階に進む人もいます。
Q. 種類にかかわらず、1剤を4分の3にするのに最低7週間かけるのですね。とてもゆっくりで計画的なわけですね。
増田
 そうです。だから次のステップである1剤の2分の1、つまり1剤を半分にするには最低14週間が必要です。この方法でさらにそれをゼロにするには最低28週が必要ということになります。28週はつまり7か月ですね。1剤の薬がゼロになるのに最短で約7か月かける方法です。

計画表の具体的な一例   
レキタン2mg 1錠から2分の1錠までの減薬 ↓


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処方箋例
1.レキソタン(2)1錠/1×眠前 ×11日分(1週目=週6日、2週目=週5日)    2.レキソタン(2)0.75錠/1×眠前 ×3日分(1週目=週1日、2週目=週2日)
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表では先に進むペースは、1週間ごとになっていますが、平均的には2週間で先に進む形です。
抗精神病薬などでは、3週間または4週間で先に進むペースにすることもあります。
 睡眠導入剤や抗不安薬などでは、ステイ(減薬を進めずに、一定の量でキープする)期間を、もうけないほうがうまくいくことが多いです。
それ以外の薬(抗精神病薬、抗うつ薬、気分調整薬など)では、たとえば半分量まで来た時に、2~3か月程度のステイ期間を設けるのが安全です。
 

●   減薬計画表はご本人、治療者、薬剤師が共有しています。●    計画表通りに進むことが大事なのではなく、ご自分とじっくり話し合い、計画をカスタマイズして前に進むようにします。
●    環境的な問題が生じたり、ライフイベント、季節などにより体調・心理的面で不安定な時はステイするようにします。
●   「たとえ週1日でも減らせていることが大切」ということを伝えます。

減薬に関する精神的な安心と減薬作業の簡易さ

 Q. とても規則的に微量ずつ減薬する方法ですね。世界中の当事者の間でも向精神薬の減薬の試みは広がっていてネット上では海外の情報も増えています。日本でも患者さんが薬を水溶液に溶かしたり、ドライカット法薬と呼ばれる薬をカッターで削ったりするなど、独自に行うマイクロテーパリング減薬方法を実践する方も増えています。患者さんたちの情報はインターネットを中心に広がっていますが、医療関係者の間では関心が薄いようです。増田さんはなぜこの方法「ミニマム7週法」という減薬方法に行き着いたのですか?
増田
 はい。昔、減薬という治療をスタートしたころに、サインバルタのようにカプセルの薬や、バルプロ酸や炭酸リチウムなど血中濃度の急な上昇を防ぐため分割不可となっている薬で、この方法を使い始めたのです。その後、この方法を、抗精神病薬、抗うつ薬のほか、ベンゾジアセピンや他の薬でも試してみました。その結果この方法が、途中で脱落してしまう患者さんが一番少ないように私には思えるようになりました。
Q. 「患者さんが脱落する」という意味は、離脱症状がきつくて続けられなくなるという意味ですか?
増田
  はい。確かに離脱症状のきつさという難しさもあります。しかし症状がつらくて減らして飲むことに脱落するというよりは、細かく砕くこととか、正確に計って飲むとか、水溶液にするにしてもその細かな作業を毎日継続する難しさに脱落しちゃう人が少なくないという意味です。
Q. なるほど、それはあるかもしれませんね。患者さんは体調が悪く判断力が弱っていたり、手先がうまく使えなかったりする方も少なくないですね。体が不自由な方もいらっしゃいます。眼科医の若倉雅登医師は、向精神薬による眼瞼痙攣などで目が不自由な方の場合は、水溶液減薬やドライカット法などにしても減薬の作業を本人がするには難しすぎるし、薬剤師への指示も難しいのでなかなか実行しにくいと指摘しています。
増田
 そうですね。そして何よりこの方法でメリットが大きいのは、この方法だと最初に減らし始めた時点で次の日は必ず元の量を飲むという点なのです。
Q. といいますと?
増田 最初に減らす日はたった1日だけという点です。そこがスタートの安心感につながっているみたいです。例えばビジネスマンの方などの場合、計画表のように4分の3にする日を金曜日にすれば、週末の土曜日には元の量が飲めるので安心といった感じになります。最初の1日を何曜日に設定するかは患者さんと話し合って決めまています。
Q. 減薬を始める方は、薬なしの状態に不安がある場合が多いので、最初に安心感を担保するということですね
増田
  はい。患者さんは皆さん敏感です。だから4分の3にした時に、「今日はちょっと眠りが浅かった」とかそういう風に感じるわけです。そこで1日だけ少し減らしてみたけど、翌日はまた元の量を飲むと落ち着くというのを体験できます。
Q. なるほど。減らしてもし影響がでても翌日リカバーできるという体験を体に覚えてもらう感じですね。
増田
 この時にもし「ここでせっかく4分の3にして、一日大丈夫だったから、翌日も4分の3でやってみよう」とか考え、毎日4分の3を続けた結果、しばらくして、具合が悪くなり、「減らすペースが早すぎた。これ以上はもうできない」と後悔しちゃって続けられずに元に戻ってしまうなんてこともあると思うのです。でも「ミニマム7週法」のやり方だと4分の3にした次の日は必ず1剤(元の量)に戻るわけです。
Q. 本当にゆっくり、そーっとの進め方ですが。患者さんの安心感という点で確実そうな感じがしますね。
増田
 そして1週間のうち1日だけ4分の3にするのを、次は週のうち2日間だけと曜日を決めて4分の3にするという状態を延々と続けるわけです。
Q. その際、増田さんは患者さんにはどんな説明をするのでしょうか?
増田
  はい。患者さんには「減薬って、まず体が薬ちょっと少ないぞと感じるだけでいいんだと」とお話するんです。最短で7週間なので、あるドクターが、「ミニマム7週法と呼んだら」と提案してくれて、こう呼んでいます。
Q. 「ミニマム7週法」の強みは、ルールの原則は医師側が作るけれど、患者さんが自分のペースで判断しカスタマイズして利用できるということですね
増田
 そうですね。次のステップに進むかどうかを決めるのは患者さんのぺースです。患者さんが自分の減薬ペースを計算して、これだと私の断薬までには2年○か月かりますと教えてくれたりします。
Q. 時間をかけた減薬方法としては、毎日数パーセントを計算し測ったりして微量ずつ減らすという漸減法も一部の当事者の方に支持されている方法ですが、なかなか計算も難しいと思います。もし医師の指示のもと「ミニマム7週法」で最初から慎重に減薬を行なって、安定的に微量ずつ薬を減らせるなら手間も少なく魅力的な方法ですね。とはいえ、やはり薬の管理は患者さんにゆだねられる感じですね。
増田
 ペースは患者さんの主体性に合わせますが、薬の調整は私が責任をもって処方箋を書きます。その際、私は薬局にオーダーを出して分量の異なる薬AとBの袋を作ってもらうようにします。例えばA袋は1剤の4分の3 B袋は1剤そのままというように。そして「今週は金曜日だけA袋を飲んでね」と患者さんにも説明し、前掲の減薬計画表も患者さんと薬局両方に渡します。



Q. なるほど。段階ごとに処方箋も飲み方の指示も合わせて変化させていくのですね。
増田
 はい。スタート時点では「金曜日だけこの袋を飲んでね」、段階が進んだら「火曜と金曜日はAの袋を飲んでね」といった指示になるので患者さんにとっても、比較的簡単だと思います。
Q. できるだけ患者さんの負担が少ない簡単な方法にするということも、減薬成功の大事な要素ですね。

調剤薬局の薬剤師さんを減薬の見方につける

増田  この方法のもう一ついいところは調剤薬局さんを味方につけられる点です。調剤薬局さんにも処方箋と共にこの減薬計画表を渡しています。薬剤師さんは調剤をするときに患者さんと話ができますし、患者さんが例えば、飲み方がよく分からなくなった時とか、「ちょっと足りなかった」というような時に、薬剤師さんが答えてくれることもあります。私が時どき、処方の計算を間違えたりすることもあるので(笑)薬剤師さんが頑張ってくれたりするんですね。
Q. みんなを味方に付けてチーム医療で減薬するのはこれからの方法としても理想ですね、薬剤師さんに「ミニマム7週法」を説明するとすごく評判が良く、これなら減薬をサポートしやすいという意見も多く聴きました。
増田
 私が完璧でないから、だから患者さんも薬剤さんに聞きやすいのです。薬によって計算が難しいものもあるので、薬剤師さんが一緒にやってくれるのでとても助かります。
Q. これまでにも隔日法という考え方で減薬を支援するということはあったと思います。
例えば2013年に発表された抗精神病薬を減薬するSCAP法ですね。 SCAP法と増田さんの7週法は、タイムスケジュール的にはよく似ていると思いますが、機械的に行うのではなく、常に患者さんの安心感を担保し、患者さんの主体性をベースに行うという点で、医師と患者さんの関係性が異なるという印象を持ちました。多くの患者さんが精神科で薬の調整を医師にお願いすると一気断薬をされたり、かなり早いスピードの減薬をして体調が悪化すると離脱症状ではなく再発と判断されたりすると話します。医師の感覚と患者さんの実感、実態にはかなりギャップがある気がします。
増田
 精神科医の中には、抗うつ薬や抗精神病薬には依存や離脱症状はないと思っている人が多いと思います。依存があるのはベンゾだけと考えていて、ベンゾを抗うつ薬や抗精神病薬に置き換えれば減薬がうまくいくと考える方もいます。しかし長年減薬に取り組んでみると、現実はそうではありません。向精神薬はどれも依存性も耐性もあるのです。

Q 多くの精神科医が減薬をした場合の離脱症状を2週間程度と見ていて、それ以降の症状悪化を症状の再発とし見なしたり、それを理由に増薬する医師も少なくないようですが、離脱症状の出現する期間をどのように考えるのが良いのでしょうか?

 増田 2週間といのは無茶苦茶です。ベンゾも飲んでいる量や期間によりますが、月単位、半年とか1年はかかります。ベンゾの減薬は長いと年単位の場合もあります。特に自律神経症状、アカシジア、むずむず足などの離脱症状が出た時にはびっくりしてしまい、さらに調べて怖くなるのです。その時は離脱症状が8割以上だと思います。しかしそれに続く数ヶ月は予期不安の場合も多いですね。いつ良くなるのだろうと、調べれば調べるほど不安になりますから。それを患者さんは心因性と捉えられたくないでしょう。しかし診察時間は落ち着いている場合も多いので、症状はだんだん治るはずなのにそうならないこれは、不安は長引くほど増えてしまう傾向があるということだと思います。
Q その場合にはどんな方法がありますか?
増田
 ウインターグリーンという湿布のアロマ塗ったり嗅いだり 嗅いだりします。軟膏の蓋を開け香りを吸ったら楽になったというようなこともあります。

 ベンゾのジアゼパム置換はほとんどしていません

Q. ベンゾジアゼピン系の薬の問題については、当事者の間でいわゆるベンゾ減薬のマニュアルとして世界中の言葉に翻訳され読まれている、英国の『アシュトン・マニュアル』があります。『アシュトン・マニュアル』は、ベンゾジアゼピンについてよく研究された情報ですが、具体的な方法として半減期の長い薬に置き換える 「ジアゼパム置換」が推奨されていますが、日本人にはあまり合わないという説もあります。これについてはどういう風に考えていますか?
増田
  私は服薬している薬をそのまま、微量ずつ減薬することが多いですね。ベンゾジアゼピンのジアゼパム置換はそれがその人にとってすごく合うとか、置き換えて楽になるという人にはいいと思いますが、個人的にはそんなに好きではありません。でも昨日来た新しい患者さんで、大量服薬していた抗うつ薬をジアゼパム に置き換えたという方がいました。その方の場合はすごくうまくいっていましたので、そういった例もあるとは思います。
Q. ベンゾジアピンの減薬にはマイクロテーパリング=微量で計画的な減薬方法が良いという見解は最近確立されてきた感がありますが、抗精神病薬や抗うつ薬、抗てんかん薬などについても、この「ミニマム7週法」を使って減薬できると考えてよいのでしょうか?増田さんは向精神薬全般について、ゆっくりゆっくり減らしていけば可能だという風に考えているということですよね
増田
  はい。抗不安薬や睡眠薬などベンゾジアゼピン系の薬は減らす量について、例えば1mgを0.9、0.8と慎重に減らし、0.5あたりからは、0.05ずつにするとか、そういう細かさは必要ですが、例えば0.7のところで3ヶ月もステイするなどは、基本的にはやっていないのです。
これに対して抗精神病薬などについては、この長期的なステイが必須だという気がしています。例えばまず4分の3になったぐらいの時とかに、とても慎重になります。これは薬によって違います。例えばエビリファイのようにに最後の最後でドカッと影響がでるような薬の場合は、もう半分位まで減らしたあと、そこから3カ月ぐらい減薬をしないステイ期間を長々ともうけることが多いです。
Q. 私の周辺でも抗精神病薬の減薬については、最初はとても快適に進むようにみえて、ご本人も慎重にゆっくり減らしていて、体調がよくなったと言っていたはずが、半年後ぐらいに、連絡がないなと思うと再発してしまって強制入院になっているというような方も何人か知っています
増田 私は統合失調症の方のその状態も、実は再発ではなく離脱症状の一つだと思ってるんです。
Q. そうなのですか。減薬をしている時期と症状がでる時期の間が長いため「薬をやめたから、少ししてやはり再発してしまった」という従来の説明で私は納得していたのですが・・・。
増田
  抗精神病薬は特にだと思いますが、減薬を始める最初の1〜2カ月ってものすごくどんどん元気になることが多い。これは、薬が抜けたためというよりは、先に副作用が抜けていくためだと私は考えています。筋肉が重たいとか、思考がすっきりしないといったような薬のもつ嫌な面が先に消えてくれるという特徴があります。
Q. なるほど。それは、少し減らすとすぐ体調が不安定に悪くなりやすいベンゾジアゼピン系の薬とは反対の特徴ですね増田  はい。このため、抗精神病薬を減らすと「これはいい調子だ。やっぱり私はこんな薬は元々いらなかった」とかって感じる。ところが抗精神病薬の減薬の場合は副作用でなく作用のほうの影響が遅れて出てくるのですね。やっぱり脳の中の恒常性―ホメオスタシスみたいなものが働いていて、それがだいぶ変化してきた時にドカンと変化が起きるのかなっていう気がしています。タイムラグみたいなものですね。それが離脱症状であるということが分かれば、例えばいったん前の三段階前に戻そうという方法が使えます。その場合はなんとかご本人に説得するようにします。ご本人は嫌がりますけどね。
「もちろんせっかく減らしたのに今戻すのは悲しいし悔しいのはわかる。だけど、入院はいやだよね」と説得し、それで三段階ぐらい前に戻したりします。
Q. 抗精神病薬について離脱症状という概念を否定して、病気の再発とされてしまい、入院して再びドカーンと再服薬は多剤処方みたいなことの繰り返しをする場合は少なくないですね。医師が、離脱症状であることを認めて、患者さんと率直に話し合い、サポートする体制がないことが問題のように思えます。私自身、躁鬱病の家族の立場です。何回も本人の急な減・断薬を経験していますが、一旦急性期になってしまうと薬のことを忘れてしまい、そして一気に悪化しますので、患者さんを説得するのがなかなか難しいのだとは思います。そして強制入院になれば非常に大量の薬を処方され元の木阿弥という感じも経験しています。
増田
  そうですね。今が薬を戻すタイミングとしたら二段階前、とか三段階前だっていうことに寄り添えるという関係性ができていないと難しいです。手元にある患者さんの記録を見ながら、これくらい戻せばいいかな、このくらいの時に行動が安定していたかなとか、そういう感じで診ます。それでは足りないこともあるし多すぎることもあるわけですが。Q. でもその治療の記録を医師が大切に持っていてくれて、「ここかな?とか、この辺の量に戻してやってみよう」という風に本人と話しながら伴走してくれてるかどうかっていうのは大事ですね。当事者は混乱して分からなくなっている場合も多く難しいとは思いますが。ベンゾジアゼピン系の薬は一人で自分と対峙しながら減薬している方もいるけれど、特に抗うつ薬や抗精神病薬には信頼でできる専門家がより慎重に関わることが重要なのだなと感じました。それから本人が薬と自分の体調の関係を理解し、医師と一緒に自主的に回復を目指す姿勢も大事ですね。
増田
  はい。そうですね。
Q. 最後の質問ですが、向精神薬の影響、あるいは急激な薬の変更や一気断薬の後遺症としてジストニアやジスキネジアや眼瞼痙攣など目の病気を発症したり、横紋筋融解症になったり、ひどい線維筋痛症の痛みで苦しんでいる方が大勢います。想像を絶するひどい状態になって動けなくなっている方々にも出会います。その方達の多くが他科で検査してもわからず、結局身体表現性障害とされ、医療から見放された状態になっています。これについてはどのようにお考えでしょうか。
増田 はい。確かにそのような激しい状態が出現することがあります。一概に言えませんが、その場合でも、離脱症状は2割程度で、不安や恐れがそれをひきおこしている場合もあると思います。しかしもし医師がそれを心因性ですねと言ってしまうと、もうそこで治療関係は保てなくなります。それぞれの場合によって判断は難しいですが、その症状の背後に不安とか心配の気持ちが関わっていて、パニック状態を引き起こしている場合もあると考えています。そういった不安を少しずつ取り除いていくために、患者さんの話を聞き信頼関係を作ることが大切です。またアロマテラピーやその他の代替療法などについても試してみることもやっています。
Q. 安心感が大切ということでしょうか?
増田
 そうですね。もし患者さんが、その状態を薬害だと思っているなら、お薬で解決を求めても難しいでしょう。西洋医学には、必要な答えがないということだから代替療法、何でもいいから色んなものをチャレンジしてみてほしい。
ずっと絶望の淵にいて「もう私は駄目だ」とか「あそこからこんな風になっちゃった」という後悔することだらけだと思うのです。でもなんでも「えいっ」と騙されたと思って試してみてっていう感じです。ちょっと変わった施術をする人とか変わった治し方をするのを信じて、やってみてはどうかと思います。そういうそういったタイプの施術家さんって探せば全国にたくさんいらっしゃると思うんですね。そういった方法の中から良さそうな方法を紹介するというようなことも私はしています。
Q. そうなのですね。先生のクリニックでは色々な可能性を提示することが特徴なのですね。それについては「訳の分からないことをいろいろやってるみたいだよ」っていう言い方をする人もあると思うんですけれども。「さまざまなセラピーも試してみよう」の精神ですね。
増田
  はい。私自身もいろいろなセラピーや施術を自分でも受けて試してみています。私が一番嫌なのは、患者さんに対して、医者や施術する人が「これはね一生治らない病気だよ」とか「一生病気と付き合っていくんだよ」みたいなことを言ってしまうことなんです。そういう場には回復の答えはないと思うのです。                 (インタビュー・文 月崎時央)

 プロフィール:増田さやか (愛知県岡崎市 クリニック花草 院長)奈良医大卒業後、精神科医として約30年間様々な病院で経験を積みなから、精神医療に従事。 薬物治療中心の医療に大きく疑問を持ち、現在は主に減薬断薬を希望する患者さんのサポートを行なっている。

増田さやか医師が向精神薬の減薬を開始した経緯などを紹介する2019年のインタビューはこちらをお読みください。
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https://note.com/tokio_tsukizaki/n/nff01a51e1c16

https://hanasou.jimdosite.com/

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