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対症療法である向精神薬を減らすために栄養状態を見直して体質を改善する
最新版マンガで分かるココロの不調回復
食べてうつぬけ (2022年)
精神科医、奥平智之著 主婦の友社刊
https://amzn.asia/d/0p0xc1g
本書の著者・奥平医師は栄養精神医学会を主催している埼玉県の精神科医であり漢方医でもある。
食べ物とメンタルヘルスの関係を考えるこの本は実例をマンガにしているし、チャートや図解なども豊富なので自分の状況を確認するにも便利な一冊と言えそうだ。表紙のイメージからは「鉄分が不足しているうつっぽい状態の女子向けの本」のように思えるが、中身はメンタルヘルス全般についてとても丁寧に解説してある。編集者の立場から見ても丁寧に編集された一冊だと感じる。
「メンタル疾患を栄養療法で回復させる」というコンセプトの本には、タンパク質の補給を中心に、サプリメントを推奨する方法やミネラル摂取を推奨して回復する方法などがある。どの考え方も単純に1つのアイテムだけで回復しますと言っているわけではなく、食品の食べ方や摂取を薦める栄養素などについてそれぞれの観点から解説している。
私たちの体はさまざまな栄養素が関係しあって構成されているので、それぞれの栄養状態を見直すことが、メンタルの回復に効果があると解釈して良いだろう。
本書の前半は栄養学、中盤は漢方医療、中医学(中国)アーユルヴェーダ(インド)などの東洋医学的な視点で、爪、舌、脈、体などを見てメンタルの不調を改善する方法についても紹介している。これは自分で自分の体を確認したり手当てするということにも役立ちそうだ。
実例は漫画でわかりやすく紹介されているが、同時に各エピソードについて巻末に詳しい医学的解説もされているので専門的なことを知りたい人にも便利な構成だ。
対症療法である向精神薬よりもまず栄養を見直して体質を改善すること
本書の冒頭で著者は心の病気の7割は食べ物が影響している。たった1つだけ確信を持って言える事は「食べ物を変えてください」「今の食事を見直しましょう」と薦め、対症療法である向精神薬よりもまず栄養を見直して体質を改善することの大切さを説いている。
カロリー計算だけに着目してもわからない栄養不足の本質
実際、従来の精神科や心療内科で栄養状態に焦点を当てた治療や指導をしてくれる医師はほとんどいなそうなので非常に貴重な存在だと思う。
精神科病院で退院に向けた管理栄養士による使用指導などを取材したことも何度かあるが、管理栄養士の方も、カロリーのことと野菜を食べましょうというようなことだけで、食事の質=栄養の質というものにはあまり関心がないように思える。
ちなみに患者さんへの食事指導には「外食」の他に「中食」という言葉があるという。
「中食」というのは半調理された加工品を買って食べることを意味するようだ。
コンビニのサラダでも、レトルトのカレーでも「とにかく三食何か食べて、薬をちゃんと飲みなさい」というのが地域医療を推進する精神保健福祉関係者のスタンスのようだ。しかしこれでは本当の栄養は取れないだろう。
減薬時だからこそ、向精神薬だけでなく食品添加物に意識を向けよう
確かに食事を作るのは大変だし、良質の食材はお金もかかるので食生活を整えることは容易ではない。しかし外食やファーストフードやコンビニ食も実は決して安いわけではない。しかも添加物が本当に大量に使われている。それはみな向精神薬とルーツを同じくする化学物質だ。
では栄養不足とその対策はどうしたらいいのだろう。
まず栄養についてだが、本書では血糖調節障害、ビタミンB群の不足 タンパク質代謝の低下、腸管の炎症、亜鉛やマグネシウム不足、鉄欠乏、重金属などについて1つずつ解説がされている。読みやすいので本書を読むのがいいと思うが、各栄養不足について以下のような指摘とアドバイスがなされているので簡単にピックアップしてみる。
●鉄欠乏
メンタル不調を訴える人の中には鉄が足りていなくて糖質過多の人が多い。鉄不足には2種類ある。
1パンやパスタなど糖質中心の食生活で鉄分豊富な肉や魚を食べることが不足している。
2腸管や体のどこかに炎症があり鉄がうまく吸収できない状態になっている
対策→改善には 鉄分を含む食事 鉄剤を飲む 漢方薬 サプリ 鉄製のフライパンなどを使うなどがある。
●ビタミンB群
タンパク質から作られる脳の神経伝達物質の生成をサポートするのがビタミンB群。
対策→豚肉 牛肉などをよく食べる
●糖質過多
糖質が多いと血糖調節障害が起こりやすい。血糖値を上げるホルモンは精神を不安定にし、疲れやすくなる。この血糖値の乱高下が脳に悪影響を与えること。
対策→血糖調節障害を治すために、お菓子や菓子パンとジュースなどを止める。砂糖や小麦を控える。
●タンパク質欠乏
タンパク質は脳内ホルモンをスムーズに生成し神経伝達物質を作る働きをしている。タンパク質を上手に使うためには鉄が必要。タンパク質の不足に鉄不足が加わるとエネルギーが作れなくなりイライラしたり抑うつ状態になる。またタンパク質が不足すると、消化酵素が不足して、消化能力が落ち脳に必要な栄養素を取り込めなくなる。
対策→よく噛んで食べる。 肉・魚をよく食べる。 質の良いオイルをとる。
●マグネシウム不足
消化酵素や代謝酵素をサポートするマグネシウム不足になると、学習能力や記憶力の低下、抑うつ気分になる。亜鉛不足によって、貧血、皮膚炎、甲状腺機能や胃腸機能の低下、慢性的な下痢などになりやすい。
対策→天然塩を摂る。玄米を食べる。
●食物繊維不足
腸を健康に保つための第六の栄養素と言われる食物繊維。善玉菌の餌になり、腸内の有害物質を排出したり便秘を解消したりして腸内環境を整える。
対策→わかめ・昆布などの海藻類 椎茸などのキノコ類 納豆などの大豆製品を食べる
●腸の炎症
現代人は糖質過多や食品添加物、抗生物質の影響、ストレスなどの影響で小腸や大腸に炎症が起きやすい環境にある。腸管の炎症がリーキーガット症候群という腸もれを引き起こす。腸の粘膜が広がることで、細菌、ウイルス、カビ、水銀など有害物質を血液内に入れてしまう可能性がある。
対策→よく噛む 小麦と牛乳を避ける 白砂糖 白いパン 小麦を減らす。オリゴ糖、食物、繊維、ボーンブロス、オメガ3ーオイル、魚油などで腸の炎症を改善する。
栄養療法の知識のない医師によって見逃されがちな栄養不足
本書の後半には血液検査を栄養療法的に読む方法が具体的に紹介されている。一般的な血液検査をしても精神科の医師に栄養療法的な知識がない場合も多く、栄養不足を見逃される可能性もあるようなのだが、とりあえずこの本を使って患者が検査の読み方の知識を得ておくことは有効だと思う。
本書もそうだが、栄養療法を扱った本では、向精神薬をどのように減薬するのかという飲み方や減らし方の方法には全く言及していない場合が多い。栄養療法中心本なので、トラウマももちろん扱ってはいない。
従って向精神薬の減薬という意味の具体的なそのノウハウは本書にはない。しかしだからこそ食事の改善とともに向精神薬はゆっくり計画的に減らすという原則は守ったほうが安全だと思う。
同時にこれまでの取材から考えて、栄養療法によって体を整えることで薬が減らしやすくなる可能性は高いと私は思っている。
奥平氏は「現在の早期発見、発見、早期薬物治療」から「早期発見、早期栄養指導へのシフトが望まれる。精神科医が栄養や食事の観点から治療する栄養精神医学を深めていくことが必要」と書いているが私も同感だ。
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