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調剤薬局を減薬の味方につけるために知っておこう・考えてみよう

精神保健の世界はいろいろな問題があり、精神医療サービスを安全に使うのもそう簡単ではないなあと思うのだけれど、とりあえず、今手に入るいろいろな制度とコミュニケーション力を使って、向精神薬を減薬して元気になる方法を一緒に探っていけたらと思っています。今回は調剤薬局と薬剤師さんについて考えてみました

ワークショップに参加した20名のアンケート結果です

薬剤師さんの仕事は薬機法や薬剤法に定められた大切な仕事で、ただ「薬局で薬を渡すだけの人」ではない!

確かに昔は病院で薬をもらえたけれど、90年頃から、病院の後もう一回薬局に行って待たなければならなくなった。これはちょっと不便ではあるけれど、分業にすることによって、薬を適正使用するための仕組みなんだね。
そして薬剤師さんが「ただ薬という”物”を渡す人ではなく、薬を飲む”人”を支援する仕事ですよ」ということが国の方針としてはっきり決まったのが2015年のこと。

そして医師・薬剤師・患者さんの関係は、時代の意識の変化と共にプロセスを経て変化してきている。
でも精神保健福祉の体制の中では、まだ「医師の決めた薬を指示通りに飲みなさい」という考え方の人が多い。
特に精神保健福祉士も看護師も薬剤師も「先生の指示通りに患者さんを従わせる」ように教育されているみたいな気がする。これって多分時代遅れなんだろう!

そういえば処方箋には処方薬以外の情報が何も書いていない。私も改めて取材するまであまり考えたことがなかったけれど、これって信じられないことですよね。薬剤師さんは、診断名も知らず、検査結果も知らず、言葉は悪いけど薬を手探り状態で出している。
監査がミッションにしては、すごく変な状態だと思いませんか?。
そして一方の患者さんは、早く薬を受け取って帰りたいから、薬剤師さんとあまり話もしたがらない人も多い!
実は医師、患者、薬剤師を繋いでいるはずの情報は不十分な処方箋の紙一枚だということを知っておく必要がありそうです。

日本薬剤師会は医師会や厚生労働省に対して情報共有を求めている

調べてみると日本薬剤師会は医師会や厚生労働省に対して、薬剤師が薬の安全な調剤や監査を行うために、患者に関するより詳細な情報が得られるよう要望を行っています。以下のような情報共有を求める声があるようです。

1. 診断名や治療方針の共有:薬剤師が薬の適正な調剤を行うため、特に慢性疾患や重複投薬のリスクがある場合に診断名や治療方針を共有することが望ましいと考えている。診断名があると、処方意図をより正確に把握できるため、薬剤師の監査が効果的に行えるとしている

2. 検査結果の情報提供:検査値があると、薬の投与量や副作用リスクの判断がしやすくなる。たとえば、腎機能や肝機能の検査値がわかれば、薬の適切な用量をより細かく監査できるため、これらのデータの共有を求めている

3. 治療全体の情報連携:診療情報の一部を共有することにより、患者の治療全体を薬剤師が把握できるようにすることが期待されている。これにより、処方薬以外の治療方針や注射薬との相互作用も含めた包括的な監査が可能になると考えられている。

これを読んでみると、薬剤師さん側の要求はとても理にかなっている気がするわけです。
「処方箋に情報が不足しているのは、医薬分業時代に、薬剤師が院内でカルテをみて情報を共有することができた時代に使用していた書式のまま使っているからでは?」という声もあります。でもこれは薬を服薬する患者さんにとってはとても重要な情報なので、「以前のままでいいや!」というのも随分安直な考え方だと思うのです。

少し調べてみるとこのような情報共有の要望は、厚生労働省の医療提供体制の見直しや、医療の質を向上させるための制度改革の中で取り上げられているようです。

しかし実際には「医師が処方意図を薬剤師に伝えることが必要と判断した場合や、薬剤師が安全性の懸念から医師に問い合わせることで、情報補完が行われています」という現状維持にとどまっています。

この医療情報の共有を阻んでいるのは、患者のプライバシーや情報保護の観点ということになっているようですが、私は医師会が処方に関する権限を薬剤師さん側に渡したくないというのが本音ではないかと思っています。
あるいは本当は薬剤側も情報をたくさん得て重い責任を背負いたくないのが本音なのかもしれません。
どちらも責任を曖昧にしているとしたら、そのことで困るのは患者さんです。
こういった状態であることを理解した上で、薬の安全性を担保するためは、今のところ患者さんが自ら、薬剤師さんと医師の間を繋いで情報を行き来させるコミュニケーション力が必要なように思えてきます。分かるのではないでしょうか?

「薬局は薬をたくさん売れば儲かるから、減薬に協力するはずないでしょ」ということを言う方がいますが、調剤薬局はいわゆるドラッグストアとは違って薬を小売り販売した分だけ売り上げが上がるという仕組みではなく、「調剤」という技術料によって収益を上げるビジネスモデルです。
このため調剤薬局の収入は、処方箋の枚数によって決まるのです。つまりその薬局を選んで薬を受け取る患者さんが増えることが薬局の利益につながります。そう言う意味でも対人支援のサービス業と言えるのでしょう。
※ちなみに日本における医薬品の割合に占めるOTC薬(一般用医薬品)の割合は約10%(8380億円)で、残りの90%(8兆円)が医師の処方箋が必要な医療用医薬品が占めています。

薬局で医師の書いた処方箋を監査することが薬剤師の仕事ですが、処方箋に上記のような明らかな間違いや、問題がある場合に薬剤師は「疑義照会」という職業上の義務を果たすために医師に問い合わせをすることになります。
しかし実際問題として、薬を受け取るために患者さんAが薬局を訪れている時間というのは、医師は次の患者さんBの診察をしています。
 薬剤師からの問い合わせは、薬剤師さんと患者さんAにとっては大切なことですが、医師にとっても患者さんBにとっても、診察を中断されることになるので、好ましい状況とはいえない。つまり疑義紹介は大事だけれどジレンマが発生する仕組みということになるのでしょう。

実際の調査でも約3割の医師が疑義紹介を鬱陶しいと感じているというとで、疑義照会を不可欠なものに限るというのは職業上の合理的配慮ともいえそうです。このため、どうしても慣例となってしまっている精神科の多剤処方などは、緊急によほどの問題が起きそうな危険な処方でない限り、疑義照会の対象にはならないと考えられます。

かかりつけ薬剤師制度は使える制度なのか?

 厚生労働省は2016年に『かかりつけ薬剤師制度』を創設し、薬剤師の仕事の「対人支援」の部分を制度化しようとしている模様です。
かかりつけ薬剤師制度には以下のような、とても魅力的な特徴があります。「え〜!こんなことまでしてくれるの?」という感じですよね。

かかりつけ薬剤師と契約すると本当にわずかな金額で、随分いろいろなことをしてくれるのですが、実際に契約して制度を使っているという話はあまり耳にしません。制度が全然一般に知らされていなくてとても認知度が低いのが現状のようです。



そんなに良い制度ならもっとみんなが利用すればいいのにとユーザーとしては思うのです。
しかし、すこし客観的に見てみると、これは調剤薬局側の負担や責任があまりに大きくて、おいそれとこんなことを引き受けられないのではないかと感じます。
国が制度だけは作ったものの、現場は「本当はやりたくない!そんなの無理!」というのが本音なのではないかと思えてなりません。
24時間体制でサポートするとか、自宅まで訪問して薬を届けるなどは、人手のいる大変な仕事です。ワークライフバランスや働き方改革が叫ばれる今、本当に調剤薬局を地域医療のチームの一員とするためにはもっと全体のコンセンサスが全然できていないと思うのです。
「処方箋に診断名や検査情報を掲載して薬剤師さんと共有することすらできていない状態で、薬剤師さんに、医療チームの一員として地域で患者さんをサポートしなさいということに無理があるんじゃない?」って私は思うのですね。
ということでとりあえず、残念ながら「かかりつけ薬剤師制度」は今のところ絵に描いた餅らしいと考えておく方が良さそうな気がします。

向精神薬の減薬をサポートする薬局の実際

実際に私が減薬の取材をしている医師は向精神薬の微量減薬を薬剤師さんの協力で行っています。

医師が信頼できる調剤薬局に協力をお願いして、粉砕や飲みやすい形での一包化、飲み方支援の説明などに協力しているケースは少なくありません。
下記の医師のインタビューでは、精神科医が薬局との連携について説明しています。

https://note.com/tokio_tsukizaki/n/ne97d207282b2

実際に薬局の現場で、薬の微調整を行う際の、薬剤師さんがどのような考え方を持っているのかについて、知り合いの薬剤師Mさんに取材してみました。

何人かの薬剤師さんとお話をしていますが、薬剤師さんには薬剤のプロとしての誇りがあり、薬剤を適正に患者さんに届けるという職業倫理を持っていることがわかります。
このため薬を適正使用するための減薬には基本的に協力的だが、実際に減薬のために連携するには、医師との信頼に基づく協力関係があることが前提になっていることがわかる。
つまり先生次第!ってことなのだろう。

裏事情(^^;;を知った上で調剤薬局を味方につける方法


ただ薬を手渡すだけではなくて、医療従事者として、患者さんの適正処方を支援してくれる気持ちがある誠実な薬剤師さんを探すことは、向精神薬減薬のためにとても大事なことのように思えます。
制度上のいろいろなことを把握した上で、今ある制度をどう使えば、1つでも多く適切なサポートを得られるかをこれからも考えていきたいと思います。


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月崎時央 編集
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