正しい精神科のかかり方・卒業の仕方
精神科の初診の前に信頼できる同行者を見つけ、ぜひ事前に一緒に読んでおきたい5つの傾向 (2020・10・07)
1 精神科利用には短期的メリットと将来的リスクがある
ストレスフルな出来事によって精神的な不調におちいり、精神科のクリニックや心療内科などの門を自ら叩く人は増えています。
そんな時多くの人は、例えば風邪を引いた時に行く内科のお医者さんや、歯が痛い時の歯医者さんのように、精神科でも「抱えている悩みや不眠、イライラなどをたちどころに治してもらえそう」と考えていると思います。
また精神科の専門家のところに行けば、ストレスの原因となる話を専門家にじっくり話しそれを解決する“心理療法”というので解決してもらえると期待している方も多いかもしれません。
しかし長年の取材を通じて私はよほどの急性状態でない限り、精神科にかかることはかなり慎重であるべきだと考えるようになりました。精神科の治療のほとんどが薬物療法のみだからというのがその理由です。
実際に誰かに悩みを話すことで気持ちが整理されたり落ち着いたりすることはあるので、相談機関としての精神科や心療内科の選択肢は大切だと思うのですが、短期的にはよくても長期的な健康を考えた時にはかなりリスクも有ります。
そこで、ジャーナリスト&家族の立場から受診前に精神科の初診についてぜひ知っておいたほうがいいと私が思うことを書いていきます。
2 医師がゆっくり話を聞くのは初診のみかもしれない
「1回目はよく話を聞いてくれたのに、それ以降は妙にあっさり!薬の処方だけ?」を体験する患者さんは少なくないです。でこれは必ずしも精神科医が不親切という訳でもなく(^^;;、まず保険診療の料金が以下のように定められているってことを知っておいてください。
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初診60分間以上 5400円 (3割負担 1620円)
初診30分〜59分間 4000円 (3割負担 1200円)
再診30分間以上 4000円 (3割負担 1200円)
再診5分〜29分間 3300円 (3割負担 990円)
3 短時間で効率よく診察し収入を得るための仕組み
日本では国民全員が健康保険証を持ち、いつでも誰でもかかりたい医療機関に受信できる皆医療保険という仕組みになっています。このため保険診療で行う医療については「診療報酬」という形で国から治療法と価格が一律に定められています。
医療機関はその診療報酬のルールにしたがって病院を経営しています。病院といえども利潤を上げる必要があるので、「経営」という視点で医療行為を見てみることも大事です。早速初診について見ていきましょう。
初診の場合は医師が患者さんに30分以上60分未満の間話を聞くと病院では4000円の収入になります。そして60分を1分でも超えると1400円がプラスされ、5400円になりますが、それ以上何時間患者さんの話を聞いても収入は増えません。
これを医師の時給に換算してみます。初診で診察が30分で終われば医師の時給は800円、60分なら5400円、120分話せば2700円です。つまり患者さんの話が長くなるにつれどんどん単価が下がっていく仕組みであることがわかります。
これが再診になるともっと極端になり、もし5分の診療で診察を終えた場合単純に医師の時給を1時間分に換算すると39600円、30分以上の診療だと収入は4000円なので、時給換算すると8000円となるわけです。つまり医師は早く患者さんを回転させないとどんどん収入が下がってしまうのです。
もちろんこのような時間単位の課金システムで診察がすすんでいるわけではありませんが、医師が「初診では30分から1時間程度話を聞いてくれるが、再診になると5分で診療が終わる」という現象は治療的な判断というより、
私たちの皆医療保険制度の診療報酬とのルールに沿ったシステムなのです。
この意味で医療はどうしても薄利多売=診察時間を短くという状態になりがちです。
4 治療的対話ではなく処方薬決定のための情報収集
初診で行われる通院精神療法は、いわゆる心理療法というよりは、患者さんの話から医療側が必要と考える情報を収集している時間である場合が多いようです。
精神科医は心理療法を使って治療する臨床心理士(いわゆるカウンセラー)とは職種も、治療に対する考え方も異なります。稀に心理療法的なことが得意な精神科医もいますが、ほとんどは薬物療法をメインの治療法と考えています。
ですから紹介した金額は「カウンセリング料」やセラピーというよりは「診察技術料」でありその目的は患者さんの訴えている問題を抑える「対症療法としての薬物の決定」にあるというのが現実です。
また目の前の患者さんを効率よく診断するためには、時間のかかる対話であれこれ問答するより、薬物を処方する方が簡単で時間もかかりません。
このため初診で患者の話をじっくり聞いてくれる場合も”心理療法”や”カウンセリング”という治療が行わたのではなく、薬物療法をスタートするための情報収集としての会話が行われていると考えた方が良さそうです。
そしてどんなに詳しく話を聞いてもらったとしても、その薬物は、患者さんの個別の現実の悩みを解決するものではなく、患者さんの訴えている不安や不眠などの状態を一時的に緩和するためのものです。
多くの場合、初診以降の次の診察再診からは、処方する薬物が決まりそれを管理するだけなので、おそらく5分程度の診療になります。改めて予約などして医師と話すことをお願いする以外は、初診で話した問題の続きを医師にじっくり聞いてもらえる機会はなかなかありません。それが精神医療の実際です。
5 脳に作用し副作用、耐性、依存性がある向精神薬
また精神科の初診で、自らの不調を訴えて受診した患者さんに対しては、抗不安薬や睡眠薬などベンゾジアゼピン系の薬か抗うつ剤が処方されることが多いようです。これらの向精神薬の効果は個人差が大きくよく効いて症状が早期に緩和されることもありますが、長期的視点で見ると副作用、耐性、依存性が出現する割合の高い薬です。
向精神薬は辛い症状を一瞬で抑え込むことができる場合はありますが、あくまで感覚を麻痺させ辛さを感じにくくするだけで、脳神経に強く作用し、その後も長く服薬するほどに様々な影響のでる薬であることが多くの当事者の取材からわかってきています。
このため服薬のスタートには医師による十分な説明と患者さん本人の理解と決断が必要ですが、この部分で医師の説明が不足したまま、あるいはリスクに関する説明がほとんどないままの処方が多いことが問題と言えそうです。
心や体が弱っている時の精神科受診で支援者と繋がることには一定のメリットがあるかもしれませんが、精神科の治療がかなりの確率で向精神薬の投与であることを考えると初診には慎重さも必要です。
処方された薬について服薬前に自分で調べる必要もあると思います。
受診は必ず冷静な判断のできる人と一緒に、薬物療法を選択するかどうかも含め慎重に検討し判断しましょう。