《旅する薬膳ごはん vol.3》春はやっぱり、青い。お花見弁当から青春妄想トリップへ。
二十四節気で立春を迎え、寒さのなかにも春の兆しが感じられるようになりました。ここからまた、新しい四季がはじまりますね。今回の《旅する薬膳ごはん》は、春のムード。心がはずむような彩りの献立にしました。ぜひともお花見のお伴にどうぞと、ご提案したいところですが、はたしてお花見ができるようになるのか、世間は微妙な雰囲気ですね。
自然界のエネルギーは、陰から陽に。
まだまだ寒い日がつづきますが、少しずつ日照時間が伸びてきました。耳をすませば、自然界の陽気の高まり、春の兆しを感じます。みなさんはどうですか? 春が来ると、うきうきしますか? 一般的には「春はうきうきする」といわれますが。でも、中医学・薬膳の理論では、イライラしたり憂うつになりやすい季節ともいいます。その原因は、陽気の高まりと、肝(肝臓)の高ぶりにありました。
中医学において春は、肝の働きが活発になる季節ですが、環境の変化やストレスなど、何らかの理由で肝が疲弊し、自律神経調整機能が働きがうまくいかないと、睡眠や情緒に不安定な症状が現れやすくなります。
または、もともと陽気が旺盛なタイプの人(暑がり、多汗、多食傾向)だと、自然界の陽気の高まりに沿って体内のエネルギーも高まるので、のぼせたり、そわそわ落ち着かない感じがしたり、イライラしたりも。特に今は、何かと制限を強いられるコロナの影響もあるし。ストレスが溜まりますよね。おだやかそうに見えても、案外いろいろあります。
春の養生コツは、ずばり、ストレスを溜めないこと! 心と体をゆるめてのびのびと過ごすべしと、中医学の古典書にも書かれています。食養生の面では、香りのよい食材を使って気を巡らせたり、山菜などの苦味の食材を使って、気の高ぶりを鎮めることも◎。また、春に成長する青色の野菜は、疲弊した肝をいたわるので積極的に取り入れたいですね。
今回のメニューでは大葉、バジル、すだちなど、香りのよい食材を中心に、苦味、青色野菜も効果的に使いました。ちなみに、中医学の伝統的には「青」と呼びますが、実際は「青みがかった緑」を指しています。青信号の呼び方と同じですね。
▼紫キャベツと卵のピクルスのレシピはNadiaに掲載しています。
「春はうきうきする」という定説があります(わたしもよく、そうやって表現します)。でも実は、持っている体質・体調によっては、うきうきしてこない人もたくさんいます、繰り返しになりますが。この感じ、なんだか青春時代を表現するときにも似ていませんか? 「青春=かがやかしい」というレッテル。
思春期って過ぎてみるとまぶしい思い出ですが、そのまっただなかにいるとイライラしていたり、フラストレーションを抱えたり。ありあまるエネルギーをどうやって鎮火したらいいかわからなくて、バカみたいな行動をして後で後悔したり。隣の芝生は青く見えるじゃないけれど、くすぶっている自分に気づいて、余計に凹んだりも。けして、かがやかしいなんて実感はなかった。
少々強引ですが、わたしが思う春の不調って、こんなイメージです。(思春期はホルモンの影響が大きくあるので、もちろん別物なのですが)、本来、楽しいはずの時期に理由もなくイライラする。または、憂うつになる。何をどうしたらよくなるのかわからないし、いやな気分を抱えて毎日が曇っていく。季節による陽気の高ぶりとか、ストレスによる肝の疲弊は、西洋医学の視点では病名がつかないもの。でも中医学は、こういう日常のなかにある不調に寄り添い、よくなる手立てを、食事や生活養生を通じてあみだしてきました。先人の知恵って本当にすごいなって思います。
そうそう、春という限られた時にしか味わえない菜の花。菜の花の青いほろ苦さって、青春の味だなって思う。若いころにはこの味のよさがわからなかったけど、大人になるとしみじみと感じ入るようで。
いざ! 明るい未来を描くために。
春、特に立春は、新たな春夏秋冬のはじまりです。この一年をどんな風にすごしたいか。そのための計画は、やっぱりうきうきした気持ちで考えた方がよいアイディアが浮かびそうじゃいないですか? だからもし、うきうきしない自分に気づいたら、それは否定せずに受け止めてあげて。来年は春を待ちわびている自分がいることに期待をしながら、それまで心と体を養生していきましょう。体が調子よければ、幸せの感度はあがりますから、絶対に!
わたしの今年の計画のひとつは、薬膳やヨガというツールを使って、自分や家族、記事を読んでくださるみなさんの健康づくりに役に立つヒントが提供できる場所を増やすこと。うきうきしながら妄想していきたいと思います。
~「青い春」こぼれ話~
いわずと知れた原作、松本大洋氏のコミック『青い春』。映画ではひとつのストーリとして紡がれているけれど、原作は短編のオムニバス形式なんです。若さゆえのヒリヒリした青さが、筆圧強めの力強い画風と互いに作用しあっています。登場人物の表情とかセリフとか、壁に書かれている落書きの意味深な言葉とか、ひとつひとつを咀嚼していくと、ページを進める手が、超スローになるほどの濃度(とはいえ、暴力シーンが多いので、苦手な人もいらっしゃると思います)。
母になってから映画やドラマを観ていると、あれですね、感情移入するのは主人公の気持ちではなく、彼らの母親の目線になってしまうんですね。「うちの子もこんな青春時代をすごすのかな~」とか。そうそう、息子も今年の冬にはティーンエージャーになるのだった。このところの春の気配も、若さの青いほとばしりも。なんだか色々まぶしいです。エモいです。
**Thank You**
Photo & Styling:みやはらさなえ
https://www.instagram.com/koyomi_table/
私の思いを素敵に表現してくれる、さなえちゃんの旅写真も気持ちがいいから、ぜひ見てくださいね。