ほんとはピンクやオレンジじゃなくて、青や黒がよかった
私には兄が二人いる。
私は待望の女の子で、父も母もとても喜んだらしい。
小さい私が着ている服は、兄のときには買わなかったであろうかわいいものばかり。一歳下の妹が生まれると服や靴、髪型、いろんなものが“おそろい”になった。
世界一かわいい妹とおそろいでいられることを、苦痛に感じたことはない。
でも、ほんとは白やピンクやオレンジじゃなくて、青やネイビーや黒がよかった。
好きな色を伝えたことはなかったと思う。
言っていれば好きな色の服を買ってもらえたのかもしれないけど、母の笑顔を曇らせるかもしれないと思うと言い出せなかった。
このころから、私は兄のおさがりをもらうことに必死になった。
「私にちょうだい!捨てないで!」
私の声は聞き届けられた。
色褪せてても、擦り切れていても、全部が輝いて見えた。
なかでもBeBeのブルゾンは大のお気に入りで、それを着ているだけで頬がゆるんだ。
ねぇ、お母さん。
ほんとはピンクやオレンジじゃなくて、青や黒の服が着たい。
スカートじゃなくて、お兄ちゃんたちみたいなズボンが穿きたい。
かわいい靴じゃなくて、泥んこのなかでも速く走れる靴がいい。
ロングヘアじゃなくて、ばっさりショートにしてみたい。
女の子じゃなくて、男の子になりたい。
言えなかったから、自分で髪を切った。
小さなハサミでポニーテールの根本を切ったからひどい出来だったけど、それでよかった。
バランスなんて気にしない、それが私らしいと思ったから。
散切り頭になった私に母は絶叫して、父は苦笑していたように思う。
仕方ないなぁって顔をして、元美容師だった父は私の髪を整えた。
念願のショートカット。
私がほしかったもの。
結局母を悲しませたけど、短いのも似合うねと笑ってくれた(勝手にハサミを使ったことには怒っていたけど)。
普段は私を甘やかすくせに、6歳の本気を笑わない母と父が好きだ。
あとで知ったけど、母はアパレルショップで働いていた大のファッション好きで、私に暗い色やボーイッシュな服を着せることに抵抗はないらしかった。
「かわいい色の服もいいけど、ほんとは黒やグレーみたいに落ち着いた色の服を着せたかったの」
そうおちゃめに笑った母は今、離れて暮らす孫(妹の子どもで私の姪っ子たち)の服選びを全力で楽しんでいる。
「どんな色が好きなの?」と笑顔で声をかける姿に、勝手に救われた気持ちになる。
私はあれからずっとショートカットを楽しんでいる。
大好きな黒い服を着て、
ズボンを穿いて、
格好いい靴を履いて、
自分を受け入れて生きている。
ほかの誰でもない、私を生きている。