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ガーナミルクチョコレートとサム・アルトマン

ガーナミルクチョコレートを久しぶりに食べたくなり、コンビニへ足を運んだ。棚から手に取ってみると、価格は180円。驚いた。記憶の中では98円だった。それも1998年の話ではなく、2015年頃の記憶である。

カカオの価格が上がったのか、製造コストの影響か、野菜の値上がりと同じ流れなのか。あるいは、トランプがカナダやメキシコに課した関税の影響がすでに世界市場に出ているのか。エネルギー高騰が原因か、それともロッテが単にもっと稼ごうとしているのか。もしくは、それらすべてなのか。

そんなことを考えながら、結局、ガーナミルクチョコレートを手に取り、レジへ向かった。価格の変化とは対照的に、キャッシュレス決済のスピードは驚くほど速く、端末にスマホを近づけるより遥か先の位置で、チャリンと支払いが完了した。

ガーナミルクチョコレートが好きだった。そう過去形で語るほどの時間が流れた。10代の頃はよく食べていた。その香りと口溶けは、パッケージに書かれている通り素晴らしく、実際にそう感じていた。久々に食べても、それは変わらない。

ただ、20歳を超えた頃から、甘ったるく感じるようになり、次第に食べなくなった。今ではほとんどミルクチョコレートを口にしない。その代わり、カカオ70%以上の濃くて苦いチョコがスタンダードになり、ほぼ毎日のようにネスカフェと一緒に食べている。

チョコレートを好きだと自覚したのは、中学生の頃だったと思う。バレンタインデーに好きな女の子からガーナミルクチョコレートをもらったから。と言いたいところだが、そんなことはまるでない。

何の科目だったか忘れてしまったが、「チョコマニア」を自称する先生がいた。その先生は女性で、チョコレートへの愛を公言し、授業のたびにチョコの話をしていた。「この学校で一番チョコを愛しているのは私よ」「チョコがあれば、どんなことも乗り切れるわ」とか、そんな調子の熱のこもった言葉が、今も記憶に残っている。

学校近くのコンビニで新作が出るたびに購入し、職員室のデスクの引き出しにストックして、休憩時に楽しんでいたらしい。その影響で、生徒たちの間ではチョコ界隈の確かな情報源としての地位を築いており「最近のおすすめは?」と挨拶がてら先生に聞くようになっていた。まるで競馬好きの勝負師たちが「どう?」とお互いの調子を確認し合うような雰囲気だった。

当時の僕は、いい大人がチョコに夢中だなんて、と少し冷めた目で見ていた。けれど、彼女の話を聞くうちに、その熱量が伝わり、「この人は本気なんだ」と尊敬の念すら抱くようになった。職員室のデスクの引き出しから絶対にチョコを切らさない姿勢は、どこかお茶目で頑固な少女のようでもあった。何かに夢中になっている大人の姿が、魅力的だった。

ガーナミルクチョコレートを食べながら、そんなことを思い出していた。

先日、ソフトバンクの孫正義とOpenAIのサム・アルトマンが新会社を設立するというニュースを読んだ。アルトマンはこう語っていた。「AIにより、今後1年で数十年分の科学的発見をもたらし、その翌年には数世紀分の発見が可能になる。それが生活の質や経済を大きく向上させる」と。

その進化によって、ガーナミルクチョコレートの味も変わるのだろうか。

これ以上、値段だけは上がらないでくれと、心の中で小さく、願った。同時に、ガーナミルクが、口の中で素早く、溶けた。

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Tokimaru Tanaka
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