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衝動買いができる幸福

今回のテーマ:日本にあってアメリカにないもの

by  らうす・こんぶ

アメリカはあまりに広く、私が知っているのはニューヨークだけなので、アメリカを語ることは到底できない。よって、「日本にあってニューヨークにないもの」とピンポイントで話したい。

ざっとあげてみるとこんな感じ。
1)菓子折
2)おいしい和菓子
3)おいしい漬物
4)デパ地下
5)衝動買い
6)遅れない地下鉄
7)紙幣が使えるバス
8)冬暑すぎず夏寒すぎない空調

以下は、私の独断と偏見に満ちた解説。

1)菓子折
日本にいたらどこに行っても菓子折を調達できる。これから訪問する先に何か手土産を、と思えばどこにでも菓子折が売られている。デパートでも駅ビルでも、商店街のお菓子屋でも、観光地の売店でも。これでもか、というほど品揃えも豊富だ。

でも、ニューヨークにそんなものはない。人の家を訪ねる時、何か手土産でも、と思っても、ワインとかチョコレートくらいしかないのだ。しかも、ワインはワインストアに行かなきゃなんないし、チョコレートはチョコレートの専門店にでも行かないと、手土産にできるようなそれなりのクオリティのチョコレートは売ってない。菓子折のようなものは世界中どこにでもあるもののような気がしていたが、ニューヨークに行ってから、菓子折とはなんと便利な発明品だったのかと気がついた。

2)おいしい和菓子
3)おいしい漬物
和菓子も漬物も日本から運ばれてくるので、ニューヨークでフレッシュなものが売られているわけがなく、私はいつもおいしい和菓子とおいしい糠漬けに飢えていた。日本食レストランで自家製の和菓子や漬物を販売したら日本人には絶対に売れるだろうに、どうしてやらないのだろうと思っていたものだ。

4)デパ地下
ニューヨークにも高級惣菜店はある。でも、味も品揃えもディスプレイも日本のデパ地下の足元にも及ばない。東京のデパ地下は私にとってはディズニーランドだ。和食、洋食、中華、洋菓子、和菓子、おいしい菓子パンまでなんでも揃う。見るだけでも楽しく、何を買おうかと迷うのさえ楽しい。

5)衝動買い
私が好きな阿佐ヶ谷や高円寺、新宿には覗いてみたくなる店がある。東京ではちょっと電車で出かけると必ず駅ビルを通ることになって、そこにも小ぎれいな店がたくさん並んでいる。時間があってちょっと覗いてみると、たいてい何か買いたいものが見つかり、一大決心をしなくてもすむような手頃な価格のものなら(そうでなくても💦)、つい衝動買いをしてしまうこともある。

でも、ニューヨークでは衝動買いなんてしたことがなかった。いつも目的買いで、買い物を楽しむということはほぼなかったと言っていいい。服を買いに行くのはユニクロかMUJIか古着屋で、服が必要になったから買いに行って、買い物がすんだらさっさと帰るのが常だった。

お金がなかったから無駄なものは買えなかったということもあるが、ニューヨークの小売店というところは、私にとっては、時間があったらちょっと覗いてみたいと思うような楽しい場所ではなかったのだ。いても楽しくないから、買い物がすんだらさっさと帰る。日本の小売店がいるだけで楽しいと思えるのは、お店が日本人好みの品揃えやサービス、店の雰囲気などを備えているからだろうか。

とにかく、ニューヨークでは買い物がちっとも楽しくなかったので衝動買いをせずにすんだし、店には欲しいと思うようなものがなかったから、モノに対してひもじい思いをしなくてすんだのはさいわいだったと言えるかもしれない。

6)遅れない地下鉄
これはそれ以上でもそれ以下でもない。説明の必要もないだろう。

7)紙幣が使えるバス
ニューヨークでは郊外でバスに乗る時、びっくりすることがある。バス料金を払う時、紙幣が使えないのだ。ニューヨーク市内だったらメトロカード(スイカみたいなもの)で乗れるが、郊外に出るとメトロカードは使えず、バスの料金箱は硬貨しか受け付けないことがままある。するとどうなるかというと、バス料金が3ドルだったら、25セント硬貨を12枚用意しなければならないのだ。1ドル硬貨というのもあるにはあるが、ほとんど流通していないし、どうせバスでは使えないだろう。びっくりするよ〜。戦前の田舎町じゃないよ。21世紀のニューヨークだよ。

郊外ではマイカー移動が当たり前なので、バスを使うのは少数派。少数派の都合や利便性なんて考えてくれないんだろう。ある時、郊外の病院に行く用があり、駅でバスの切符を買って乗った。問題は帰り。バスで帰ろうと思い、受付の人にバスの時間を尋ねると「バス代はあるか」と尋ねられた。3ドルならあるから大丈夫だと答えると、「硬貨じゃないとバス代は払えない」というではないか。その人はとても親切で、「私はこういう時のためにコインランドリーで両替しておくの」と言って、私の3ドル分の紙幣と3ドル分のコインを交換してくれた。

現金を使う機会が激減している現代。ニューヨーク郊外では、バスに乗るのにコインランドリーで両替しなければならないのである。もし、あの時両替してもらえないかったら、私はコインランドリーを探し回るか、ヒッチハイクでもして最寄りの駅まで行くしかなかっただろう。

日本のバスは優秀で、現金でもスイカでもパスモでも乗れるし、現金で支払う際にコインで払えとも言われないし、お札で払えばお釣りも間違いなく出てくる。これは本当にすごいことなのだ。

8)夏寒すぎず冬暑すぎない空調
これについては、拙文「冬暑く、夏寒いニューヨークっ!」を読まれたい。

つらつらとニューヨークの欠点をあげつらうようなことになってしまったが、後日「アメリカにあって日本にないもの」をテーマにNYときどきのライターがエッセイを投稿するので、これでおあいこになる予定です。



らうす・こんぶ/仕事は日本語を教えたり、日本語で書いたりすること。21年間のニューヨーク生活に終止符を打ち、東京在住。やっぱり日本語で話したり、書いたり、読んだり、考えたりするのがいちばん気持ちいいので、これからはもっと日本語と深く関わっていきたい。

らうす・こんぶのnote:

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