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永遠の母国

今回のテーマ:市民権・査証

この世に生まれてきた以上、母国がある。それは選択したくてもできないもの。僕は日本に生まれたから日本の国籍になったが、今は米国国籍だ。つまり、自分の意思で国籍を変えることもできる。国によっては二重、三重国籍を保有している人もいるが、日本は残念ながら外国の国籍を選択したら、日本国籍から離脱しないといけない決まりになっている。
 
一時的に他の国に居住したいなら、永住権、就労、学生査証を取得して住むことができる。それとは別に、性、人種、宗教があり、さらにはアイデンティといったカテゴライズできないものまであり、人間は複雑な分類の中で自己を見出し、他人と共存していく。
 

 
カリフォルニアに住むアルメニア人の友人が「夏に日本へ行く。航空券も取ったし、ホテルも予約した!」とメッセージをくれた。外国人観光客を受け入れていない日本は査証を申請しないと入国できないことを知っている僕は「査証が取れたのか!?」と聞いてみた。昨年急逝した奥さんが日本人なので、彼なら日本人の扶養家族として入国が認められるのだろうと思ったのだが、実は彼は現在日本に入国する為には査証が必要なことを全く知らなかった。その直後、彼は旅行代理店と日本領事館に問い合わせたが、査証が下りないことを知り、落胆しながらも航空券もホテルもキャンセルした。
 
第二次世界大戦中、ナチスから逃れてきた何千人というユダヤ人を救うために、査証を発給した当時リトアニア共和国で外交官だった杉原千畝という人物もいた。難民、亡命者を救う為に与えられる命の査証。我々は母国を選ぶことはできないが、査証で外国に住むこともできれば、条件が揃えば国籍を選ぶこともできるのだ。
 

 
僕の場合、母国は日本だが、居住国は30年もお世話になっている米国だ。生まれ育った日本よりも米国の生活の方が長くなってしまった。そんなこともあり米国への感謝の気持ちが日に日に大きくなり、ついに2年前に市民権を取得した。不思議なもので宣誓式を経て、自分の中に米国への愛国心が芽生えてきた。当然、米国パスポートも所有しているが、それでも自分は限りなく日本人だと痛感する。
 
日系人の強制収容の話を聞いたことがあるだろうか。米国に移民してきた日本人、米国に生まれた日本人の親を持つ二世など、日系アメリカ人は、真珠湾攻撃が引き金になり、米国政府は、人権を無視し、全てを奪い、強制収容所に送り込んだ。米国人として米国に忠誠を誓った日系アメリカ人の、その時の心情を察するといたたまれない。戦争は絶対にあってはならない。人間にとって平和を維持することは我々一人一人に課されたミッションなのだ。
 

 
我々は地球という母国を持ち、共に助け合い、地球という土壌を一緒に耕してく必要がある。山の湧水は、やがて小川となり、大河となり、海へ流れ出す。日本を囲む海の水は世界の数々の大陸を囲む海の水と同じだ。人は繋がっていて、歴史と未来も繋がっている。地球という全人類の永遠の母国の中で。
 
2022年6月19日
文:河野洋

[プロフィール]
河野洋、名古屋市出身、'92年にNYへ移住、'03年「Mar Creation」設立、'12年「New York Japan CineFest」'21年に「Chicago Japan Film Collective」という日本映画祭を設立。米国日系新聞などでエッセー、音楽、映画記事を執筆。現在はアートコラボで詩も手がける。

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