的を射た人生哲学
今回のテーマ:慣用句、ことわざ
by 阿部良光
「行く川の流れは絶えずして、しかも元の水にあらず。、、」誰もが知っている鴨長明の『方丈記』の冒頭部。諺ではないが、後半の「、、よどみに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。」までくると、人生哲学そのもの。 多分、中学生の頃に初めて古文を習って以来、詩のような言葉の美しさとある種の無常感にかられて、青春期の多感な心にのしかかってきた。以来この一節が気になって、これまで折りに触れて思い出してはいた。
しかし、大人になって東洋医学を学んで思い入れがさらに強くなり、こちらで流行りのゼンイズムも加味されてインパクトが増してきた。 陰陽五行説の五行(金→水→木→火→土)の水に当たる特質を一節で言い表している。水は止まることを知らず流れ続け、障害物があってもそこを周りまたは超えて、そして滲みながら消えては現れ、あくまで前進を続けるという特徴が言われている。 形がない分、どんな場所にも入り込むことができることから、人や社会への対応がうまく、ひいては人当たりの良さがあるとも解釈できる。いわば八方美人的な性格にもなる。
しかし一度抑えが効かなくなると、暴徒と化す。つまり、後には戻れない訳だから、何でもやり通す実行力もあるの意味にもつながる。ここから考えるに我々にはてはめれば、少し強引ではあるが、後悔のない人生を生きなさいという訳だ。 自分とは全く違うキャラの友人がこれに当たり、時には羨ましくもあったが、金属系に属すると分析する自身は、形のないものを簡単にコントロールできるということに気づき、それぞれのキャラが人間を生かしているのだと落ち着いた。ま、そんなにさらさらと流れるように生きなくてもよかったと、後期高齢を目の前にして気がついたのではあります。
あくまで参考程度であるが、これまで接した人間を分析すると、なかなか的を射ていて面白い思想だと思う。しかし人間は全て五つの要素を持っていなければ生きていけず、日により、時間により、位置や場所によってその特徴的な部分だけが多く引き出されてくるのではある。 ▼ 「大風が吹けば桶屋が喜ぶ」。これは立派な諺だが、矢張り人生を面白く言い当てている。今の世の中、こんなにシンプルではないが、ざっくりと社会の有り様とも見ることができよう。つまり輪廻ではないが、どんな訳があるにしても、必ず自分のところに良きにつけ悪しきにつけ、戻ってくると解釈もできる。
落語では風が吹くと砂埃が目に入り、目を病んで目の不自由な人が増える。目の不自由な人の多くは三味線を弾くので、三味線に使う猫の皮がたくさん必要になり、多くの猫が捕らえられる。猫が少なくなるとネズミがふえ、ネズミは桶を齧るので、桶屋が繁盛して喜ぶという話から、落語でも「風が吹けば桶屋がもうかる」として人気になった。 あることが原因となり、意外なところに影響を及ぼし、思いがけない結果をもたらすという訳だが、自分の行動に気をつけなければならないと、解釈してもいいかも知れない。原因結果、因果応報!?
[プロフィール] 1980年10月自主留学で渡米。しょうがなくNYに住み着いた、”汲々自適”のほぼリタイアライフ。