【小説】倶記5-4
「今度は狐ですかあ。大変でしたね。」
目の前の彼女は苦笑い。
それもそうだ。
菜々子の依頼を受けてからというもの、自分は敵に遭遇しすぎではなかろうか。
ちなみに今は森の入り口。
あれから特にこれといった収穫はなかったが、何より大きかったのはこの中に「蝶華」がいる可能性が非常に高くなったということ。
話を聞いた菜々子も驚きと嬉しさを露わにしていた。
「頑張っても今日中に全て回るのは厳しいよね。」
「まだまだありそうだねー。」
「よし!それじゃあ私も皆さんの準備整い次第行きます!」
威勢よくビシリと手を挙げて。
元気がいいのに越したことはないのだけれども。
「いいのか菜々子?ごはんも毎食作ってもらってるのに…。」
彼女、働きすぎてる気がするのは自分だけだろうか。
「いいに決まってるじゃないですか!午前中は買い物していたんですから、私だって動きたいんです!」
「わかった、わかったから。」
そんなに鬼気迫る表情で顔を思いっきり近づけなくていいから。
確かに、気持ちはわかるかもしれない。
俺も、自分だけ買い出しに行ってたら同じようなことを言いそうだし…。
「あたしはもういけるよー!」
「私も!護衛の準備はバッチリ♪」
「…護衛って…。」
どうして南津は俺を護る前提なんだ?
むしろ逆な気がするんだけど…。
ま、まあいいか。
「とにかく!『蝶華』を見つけないとだな!行こうか!」
「うん!」
「はい!」
「オッケー!」
全員威勢よく森のさらに奥へ。
足取りこそ軽かったものの、心がざわざわする嫌な予感はまだ見ぬ恐怖からくるものなのか、それとも本能か。
今の俺には知るよしもなかった。