「変わる組織」はどこが違うのか? 40
三枝匡さんの8つの問いに答えてみよう
先週古い雑誌を整理していたら、2020年の日経ビジネス(2020.10.19)の「賢人の警鐘」というコラムの切り抜きが出てきました。「賢人」は三枝匡さん。専門商社だったミスミをメーカー商社に業容変革し、従業員を340人から1万人規模の国際企業に変身させた名経営者。「V字回復の経営」などのベストセラーでもおなじみの人です。
その記事に、若いころ「従業員数3万人の米国企業のシカゴ本社で社長のアシスタントをしていたころ、日本なら1年以上かかりそうなことを、米国人社長が簡単に決める場面に度肝を抜かれた」と吐露され、その上で、読者に以下の8つの問いを突き付けられました。
三枝匡の8つの問い
① 日本企業の改革スピードはなぜ遅いのか?
② 社内で会議が多いのはなぜか?
③ なぜトップや上司は迅速に決断しないのか?
④ 問題を他部署のせいにし逃げる人が多いのはなぜか?
⑤ 何のために頑張るのか目標や役割がわからないことが多いのはなぜか?
⑥ なぜ「指示待ち」の人が多いのか?
⑦ 気骨のある人の抜擢が遅いのはなぜか?
⑧ ウチの会社はこんなものと諦めている人が多いのはなぜか?
米国企業に20年以上勤めてきたこともあり、私はそれほど驚きませんが、まずこの3つの問いに答えてみたいと思います。
① スピードが遅い理由:アメリカの方が、株主が厳しく、競争も激しいから、スピードが遅いと1~2年で自分の首が飛ぶ、あるいは競争に負けるリスクが高い。日本では、ゆっくりしていても競争相手も遅い。首になるリスクはない。むしろ社内から優しい上司と思われる。
② 会議が多い理由:「聞いていない」「知らなかった」と言わせないため。つまり社内的なリスクマネジメント。
③ トップや上司が迅速に決断しない理由:①同様、決断しない方がリスクが低いから。
④ 逃げる人が多い理由:もともと責任と権限があいまいだし、逃げてもそれほど咎められない。
⑤ 目標や役割がわからないことが多い理由:目標や役割は一応決まっているが、相応の権限が与えられているわけではなく、結果によって厳しく(クビや降格のような)責任が問われないから。
⑥ 「指示待ち」の人が多い理由:自ら考え行動するように育てられていないから。
⑦ 気骨のある人の抜擢が遅い理由:組織の和が乱れるから。「伝統」を壊すから。
⑧ 諦めている人が多い理由:他に選択肢がないと思わされているから。
この理由のすべてが内向き志向で、本コラム(15)で書いたでんでん太鼓モデルに当てはめてみると、「危機感」がないことに由来すると思います。社外からの厳しい評価より、社内の論理を優先しているからです。社内の論理を優先しても数年は持ちますが、30年は持たない。ということが今日の状況を生んでいるのではないでしょうか。
さてその上で、三枝さんはもう一つの問いを発します。「あなたが経営改革者なら症状①~⑧をどう直すか?」と。
これに対する私の答えは、前々回のこのコラム(38)に書いた通りです。小さな組織で成功事例をつくること、そしてその成功モデルを縦・横に展開し、拡張していくこと。
三枝さんは、「スモール・イズ・ビューティフル」という言い方をされていましたが、それと同じ考え方です。
組織は理屈では動きません。まず自分のできる範囲でインパクトのある実績を作り、それを示して横・縦に展開していく。それしかありません。