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「変わる組織」はどこが違うのか? 61
「ホンダ・日産協議打ち切り」は賢明
ホンダと日産は、今月13日に、経営統合の協議打ち切りと正式に発表しました。私は、神戸製鋼所時代とGE時代の20年以上にわたって自動車各社の方々とお付き合いがありました。その経験からすると、ホンダと日産の経営統合はかなりの難事業になると、昨年12月の発表以来思っていました。
理由は、乗り越えるべき「適応課題」があまりに大きいことにあります。適応課題は、このブログで何度も書いてきているので、あらためて説明する必要はないと思いますが、簡単に言えば、プライドを捨てて実利につけるかということです。これは、組織変革で最も解決が難しい問題なのです。
簡単に両社を比較しておきましょう。
日産の創業は1934年ですが、その前身は1910年に鮎川義介が設立した戸畑鋳物です。鋳物は当時のハイテク。先端事業でしたが、それには飽き足らず、1931年にダット自動車製造という小さな自動車メーカーを買収します。日産自動車に社名変更する前から4輪自動車メーカーだったということで、まさにトヨタと並んで日本の自動車産業の歴史を体現してきた誇り高き会社です。
一方ホンダの創業は1948年。つまり戦後の焼け跡にできた数多くの町工場の一つです。自転車に後付けで使う排気量50ccの小さなエンジン(ホンダA型)を開発して販売し始めたベンチャーでした。それが当たってスーパーカブへと発展し、オートバイメーカーとして大成します。そして四輪車に展開したのが1963年。日産より30年遅くれた新参者ということです。
ところが、両社の業績はどうでしょう。日産の時価総額は1.6兆円、ホンダは、その5倍近い7.7兆円です。売上は、昨年4~12月の累計で日産の9兆円に対してホンダは16円兆。ホンダの営業利益は日産の18倍。純利益に至っては160倍の差があります。
これだけ大きな差がありながら、創業90年の日産自動車には、遥かに後発のホンダの川下には立ちたくないという強いプライドがあります。それが内田誠社長の「どちらが上、どちらが下ではない」という言葉ににじみ出ていました。
SDV(ソフトウエア・ディファインド・ビークル)に早々に舵を切ったホンダは、社運を掛けて実利を求めています。先を行くテスラの時価総額US$1.14兆(170兆円)は、ホンダの 20 倍。香港証券取引所に上場している中国の電気自動車メーカーBYD(比亜迪)の時価総額もUS$1,381臆(21兆円)と3倍近い大きさです。しかも彼らはほぼ専業です。
この圧倒的な資源とスピードの差を埋めないといけないホンダには、対等かどうかを考慮している暇はありません。とにかくスピードを上げないと負けが確定します。両社合わせて世界 3 位の販売台数になるといったことは何の意味もない。そういうホンダの危機感が、マスコミ報道を見ているだけでも伝わってきました。
今回の経営統合破談のニュースは残念でしたが、ホンダにとって正しい判断だったと思います。もちろん、競争力のあるSDV開発に必要なリソースをどうやって手に入れるのかという大問題は未解決のまま残りましたが、それは「技術的問題」です。より難しい「適応課題」を回避し、「技術的問題」は別の方策を考えるという判断は正しいと思うのです。
それにしても、適応課題を抱えたままでは日産自動車は迷走すること必定です。行くところまでいかないといけないのかもしれないのかと思うと、暗澹たる気分になります。