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「変わる組織」はどこが違うのか? 38

ゴルディアスの結び目

 日経新聞の「多様性 私の視点」で、経営学者の入山章栄教授が連載をされていました。テーマは、「多様性は組織パフォーマンスにプラスに働くのに、なぜ日本企業でダイバーシティが進まないのか」というものでした。
 教授の説明は、組織のさまざまな仕組み ― たとえば、「新卒一括採用・終身雇用」「一律の働き方」「アナログな仕組み」といったもの - が合理的に組み合わさってきた経路依存性が障害になっているから、ということでした。だからこれらを全部同時に変えていかないといけないと。ガラガラポンですね。
 まったくその通りですが、では日本企業が同時変革に取り組んでいないかというと、そんなこともないと思います。現場をつぶさに観ると、採用のあり方は多様性を増し、中途採用や出戻り採用などを増やしています。働き方もコロナのおかげで、もはや一律とはいえないレベルになってきました。デジタル化にも鋭意取り組んでいます。でも、アメリカや新興諸国と比べるとスピードが違う。
 なにが問題なのでしょうか。
 いろいろな仕組みやしきたりが、もつれた毛玉のように絡み合っていて、まるで「ゴルディアスの結び目」状態なのです。高度な専門性を持つ人を中途採用し、それなりに処遇しようとすると、既存の従業員との間で軋轢が生じそうで、モタツキます。「一律」でなくしたために、組織の一体感が薄れ、帰属意識やモチベーションの問題が発生し始めました。デジタル化して仕事がなくなったからといって、そう簡単に社員を減らすわけにもいきません。 みんなが知恵を合わせて何とかゴルディアスの結び目を解こうと奮闘しているのですが、そう簡単にはいかないというのが現状ではないでしょうか。

 ご存じのようにゴルディアスの結び目は、「この結び目を解くことができたものこそ、このアジアの王になるであろう」と予言された結び目です。当然多くの野心家たちが解こうと試みたのですが、数百年ものあいだ誰も解けなかった。そこにアレクサンドロス3世が現れ、剣で断ち切ったというお話です。この後、アレクサンドロスは予言通りアジアの王になりました。
 ということで問題の本質は、同時解決が不可能なほどにグチャグチャになった経路依存性の結び目を、アレクサンドロスのように剣で断ち切る勇者がなかなかあらわれないからかもしれません。
 でもね。そんな勇者の登場を待つまでもなく、何とかする方法はあります。それは小さな組織で成功体験をすること、そしてその成功モデルを横展開し、組織全体に拡張していくことです。
 そうそう。そういえば、実はアレクサンドロスは剣で断ち切ってはいないという説もあります。英雄伝で有名なプルタルコスは、アレクサンドロスが結び目を固定していた留め釘を引き抜いてロープの両端を探り当て、普通に結び目を解いたとしています。

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