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「変わる組織」はどこが違うのか? 60

野中郁次郎先生の遺産

 ちょうど1週間前です。先月25日に知識経営論で知られる野中郁次郎先生が亡くなられました。以前、アメリカ人の幹部が来日した際に2人でお目にかかってお話を伺い、そのとき上梓されたばかりの新著「アメリカ海兵隊」(中公新書)を頂戴した記憶がよみがえってきました。あれから30年の歳月が流れたのだと改めて感慨を深めています。ご冥福をお祈りします。

 先生は、暗黙知の重要性を指摘され、形式知の代表格であるマニュアル全盛の時代に一石を投じられました。しかし、その貴重な概念は必ずしも正しく理解されなかったのではないかと残念に思っています。
 言語化・数値化できたことが知識と考える欧米ではほとんど無視され、日本では、言語化・数値化しない知的怠慢を正当化する道具として扱われたように感じています。
 ところが最近、欧米企業では、ワークショップやファシリテーションを活用して、暗黙知ともいえる声の小さな人たちの意見を共有するプロセスが多用されるようになってきました。皮肉なことに欧米企業の方が、暗黙知の共有にシステマチックな方法論を確立してきたのです。

 若い読者の方々は、野中先生考案のSECI(セキ)モデルをご存じないかもしれませんね。これは共同化(Socialization)→表出化(Externalization)→連結化(Combination)→内面化(Internalization)という4つの過程の頭文字から名付けられたものです。絵にすると下図のようになります。

SECIモデル(https://www.dentsusoken.com/case_report/glossary/seci_model.html)

 この1つ目の共同化は、経験の共有を通じて暗黙知を伝達するプロセスです。徒弟制度やOJT、飲み会などのインフォーマルな会話を通じて、マニュアル化できていない知をチームで共有するプロセスです。日本企業では、これらのプロセスが弱体化し、コロナ禍でそれに拍車がかかりました。
 このコラムの第57回 ワークショップの作法で、気楽にマジメな話をするワークショップから始めよう、と書きましたが、これは、この共同化プロセスを現代にあった形で再活性化しようというものです。

2つ目の表出化は、共有された暗黙知を形式知化するプロセスです。経験を共有しない人にも明確にわかるコンセプトを創るプロセスと言ってもいいでしょう。ブレストなどの創造的な対話、新製品のモックアップ造りなどを指します。

3つ目の連結化は、こうして形式知化されたものを組み合わせて新たな形式知を創るプロセスです。ホワイトカラーの人たちが忙殺されている会議や文書作りはここです。

4つめの内面化は、こうして作られた新たな形式知から新たな暗黙知を得るプロセスです。このプロセスでは、実践を通じた学習が重要です。たとえば、マニュアルに従って実践する。その行動の中で「アレ? 違うな」っと感じたことからの学習です。この個人の暗黙知がまた共有され、とぐるぐる回って組織が進化するというのがSECIモデル。

 いま多くの日本企業では、この3番目の連結化に多くの時間を割いて、1、2、4が疎かになっているのではないでしょうか。このままでは、イノベーションの津波がやってきているこの時代にまずいです。 
 デザイン思考は、この1~4のプロセスを、ユーザーとデザイナー(生産者)が一緒になって高速で回そうというものです。その高速回転をどうやって実現するのか、それを形式知化したところは実にアメリカ的ですよね。


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