マガジンのカバー画像

御種印帳(短編小説)

6
「ごしゅいんちょう」 短編小説集です。利用規約さえ守っていただければ自由に使っていただこうと思っていますが、その利用規約が作成中です。
運営しているクリエイター

#イラスト

短編小説:クラスターゴースト

短編小説:クラスターゴースト

クラスターゴースト
村先ときの介 

 白南風が家の中を吹き抜ける。
 俺は自宅兼ゲストハウスである家の、開けられる窓とドアの全てを開け放って、夏の涼を確保していた。
 それだけで三十度近い暑さがどうにかなるはずもなく、俺の毛穴という毛穴から水分も塩分も吹き出し、シャツはべったりと肌にへばりついた。
 とはいえ光熱費の節約を考えれば、一人ならまだ耐えられる。
 今日は今のところ新規宿泊客のチェック

もっとみる
短編小説:凶みくじ

短編小説:凶みくじ

元旦の初詣って案外並ぶんだな……。
普段は人混みを避けるために正月三が日での初詣はしてこなかったのだが、なぜか今年に限って来てしまっている。
列も早いからなんとかなるかなって思ったんだけど……かれこれ三十分ほど列に並んでいる。
鳥居は見えてきているしそんなに大きな神社じゃないから、一時間待ちってところかな……?
思った以上に寒い。
やっぱり帰ればよかったと思いつつ、もうなんとなく後にも引けない。

もっとみる
児童文学:カラスと風の子

児童文学:カラスと風の子

冴えた空気に包まれて、山は眠る。
木々は葉をおとし、小枝に雪をのせて、ただひっそりとたたずむ。
地面にはつもりつもった雪が幾重にもなる、冬のある日。

雪の上をカラスが歩いていました。
カラスはふっくらもこもこと、まるっこい姿をしています。
「ああ、さむい、さむい」
さむさから身を守るように、カラスはまた羽毛を逆立てます。
あたまの羽毛まで逆立って、ツンツンしてきました。
「新鮮な食べ物もない、た

もっとみる