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きみの友だちを読んで

僕にはたった1人、こいつは「一生の友だち」だ。と思っている人がいる。
そいつとの出会いは中学1年生の頃だった。
きっかけはたぶん、同じ部活に入っていたから。同じクラスだったから。それだけしか思い出せない。本当にただそれだけの理由だったのだろうと思う。
だから、かちっとした「きっかけ」なんてものは恐らくなくて、どちらからともなく話しかけて、気づいたら仲良くなっていった。
二人で放課後にふざけあって、遅れて出る部活はちょっぴり怖かったけど、そいつといれば平気だった。
部活の厳しさに耐えられなくなって一緒にサボり逃げ周る土日の罪悪感は、そいつといればスリルに変わった。
一緒に仮病をつかって抜け出した練習試合の帰りに食べたカレーライスは、バーモントカレーだったかもしれない。ボンカレーだったかもしれない。味の良し悪しなんてそっちのけで、今まで食べたカレーライスの中で一番おいしかった。今でも変わらないよ。
結局二人一緒に部活をやめた。それからは一層仲が深まったと思う。
そいつに教えてもらったマキシマムザホルモン。曲がかかればお互い黙ったままサビまでじっと待って、サビに入った瞬間に馬鹿みたいに頭を振っては、ゲラゲラ笑いあった。
そいつに教えてもらったDIR EN GREY。曲がかかれば一緒に下手くそなデスボイスで歌ったりもした。
家には毎日のようにお邪魔して、グランドセフト、モンスターハンター、今じゃよく覚えていないゲームをした。オレンジ色のウォークマンから流れるロックを、これいいよなーー!なんて言いながらノリノリで聴いた。全部そいつが教えてくれた曲だった。
何度かお泊りもした。当時中学生の僕たちは、普段はできない夜ふかしに物凄くワクワクしていた。お菓子とジュースと二人さえいれば他に何もいらないくらいに楽しかったのを覚えている。

中学を卒業してからはほとんど疎遠になっていた。
高校に入って二人であったのは、片手で数えられる程だろう。それでも、二人で海をみたり、畑の芝刈りをした時の、皮膚を刺すような太陽の照りは今でも思い出せる。

そんな友達から連絡がきたのは数年前だ。
約8年ぶりだった。
「今度帰ってくるから一緒飲もうぜ、泊まりで。」
東京に居るなんて知らなかった。
「いいねー、いつ?」
自分でも驚くほど自然にのった。
それはきっと君が。

久しぶりに会った君は背が少し伸びていた。それだけだった。それだけだったことが嬉しかった。
それからぶらっと居酒屋に寄った。君も煙草を吸っていたなんて知らなかった。とりあえずナマで。それから適当に肴をつついて、君がお土産に持ってきてくれたガラムを吸った。僕がガラム好きなことを君は知っていたのかい。

程よくしてお店を出た後はコンビニでこれでもかというくらい大量のお酒を買って、中学生の頃よく泊まった君のいとこの家の空き部屋に向かった。あの外階段も、扉を開けたら目の前にあるさびれたシンクも、全部あの時のままだった。
お酒を空けてからは、本当に他愛もない話をした。
「最近アニメ観るようになってさー」
「どんなの?」
「俺ガイルよかったわ」
「雪ノ下雪乃かわいいよな」
「わかる。めちゃくちゃわかる。」
まさか君もアニメを観るひとだとは。
「欅坂とかお前聴く?」
「あの辺は聴かんな」
「黒い羊めちゃくちゃいいぜ」
「聴かせてや」
まさか君がアイドルにはまっていたとは。
時間はあっという間に過ぎていって、中学生の時と変わらない空気が溢れていて、こいつは気を使わないからいいな、なんて考えが出てこないくらい、本当に自然な時間が、無意識に漂っていた。別れ際には、寂しいだなんて微塵も思わなかった。
それはきっと君が。

僕は、会わなくたって、声を聞かなくたって、全然寂しくない君を「友だち」と呼ぶ。忘れられても悲しくない。ただ、僕は君を忘れない。それだけでいいんだと心から思う。君を「友だち」だと思えることが何よりも誇らしい。

最後に、僕の「友だち」は、この小説に出てくる由香ちゃんのような重い病気を患っている人ではない。(はず。)
僕は主人公の恵美のような暗い過去があるわけでもない。
それなのに君を思い出したのは、この小説にあるたった一文があったから。
それはきっと君が「友だち」だから。

「私は一緒にいなくても寂しくない相手のこと、友達って思うけど」

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