正義とは果たして何なのか
「正義の申し子」(染井為人 著)をAudibleにて聴きました。先週の「芸能界」と続けて作品を聞いて楽しみつつ、Audibleというサービスの良さを実感してます。
この作品では、正義とはいったい何なのかについて考えさせられました。
社会一般的に見て正しいと定義されることをしたとしても、そこにいきつくまでの過程がなりふり構わないものであれば、正義なのかどうかと考えてしまう。
一方、完全に悪でありつつも、その人物のバックグラウンドや行動心理、悪人らしからぬ普段の思考や行動の真っすぐさを知ると、ただ悪だと断じてしまうのはどうなのだろうという気持ちになる。
客観的に見れば完全に犯罪なので普通にダメですが(笑)。小説なので登場人物の気持ちや事の真相がはっきりわかっていると、様々な思考に及ぶのが小説のいいところでもありますね。
〇ざっくりストーリー
引きこもりで内気な性格の純はタイガーマスクを被り、過激な配信で人気のYouTuberジョンとして活動している。そんなある日、架空請求業者とのやり取りをライブ配信し多数の反響を呼ぶ。
ジョンとのやり取りに激しく苛立った架空請求業者の鉄平は、ジョンの居場所をつきとめようと奔走する。少しずつジョンの居場所に近づいていく鉄平に、視聴回数の増加を狙うジョンは直接対決を提案する。
カメラがまわると別人のように振る舞う純、一泡ふかせようと息巻く鉄平。
半グレや女子高生を巻き込み、物語は大きくなっていく。何が正義で、何が悪なのか、自分の倫理観に問いかけてくるストーリー。
〇自己顕示欲を全開に正義を訴える男
ジョンは架空請求などの悪徳業者に対して、制裁の意味で動画を回しながら、突撃やひっかかった被害者を装って近づいていくやり方。
悪に立ち向かうというところは正義なのだが、懲らしめるよりも動画を伸ばしたり、自分の存在を誇示する自己顕示欲のほうが主目的のように感じました。
自身の家族、他の人に迷惑をかけたり不快な想いをさせることは素直に正義とは言えないな……
と思ったり。
〇犯罪に手を染めつつも、自分に正直でまっすぐな男
元々暴走族としてならしていたところ、先輩から誘われて架空請求をしている鉄平。
複雑な家庭環境で育った過去を持つ。
拾ってもらった先輩への感謝、どんなことをされても後輩を見捨てない人柄、自分の思ったことをストレートに実行する性格、知り合いが窮地に立たされたときはどんな手を使っても助けにいく向こう見ずなところも。
ある意味、正義の主人公のような性格。
小説という前提ではあるけれど、背景を知っているとスパッと断罪するのも躊躇してしまう。
絶妙なキャラクター設定です。
〇それぞれの持つ正義感を軸として持つ大切さ
物語のなかで純も鉄平も自分の想いをまっすぐ実行していく魅力的なキャラクターの二人です。
そして、さまざま経験を経ながら二人の性格も成長していく。
自分の心の声を実際に出したり、行動に移したりできる強さ、自分の倫理観・正義感という軸をしっかり持つ大切さを感じました。
正義とはなんなのかと考えると一つの答えを出すのは難しいし、その人その人によって価値観も違う。自分のなかで、これは曲げられないという考え方・軸を持つことでまっすぐ生きていけるのだと思いました。
様々な視点から進んでいくストーリー。あらためて、ものごとを多角的にとらえられる小説の良さを感じました。
最後までお読みいただきありがとうございました。
おしまい。