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イギリスで作業療法士 "アシスタント" 、はじめました。 (5) グレード1。


グレード1: 

就業してからのこの2年間を振り返ってみるとよく分かる。

わたし達が人生の中でなにかの困難を乗り越えた時には、不意にふっと軽くなったような感覚があるようだ。あれによくにている、車のギアチェンジ。アクセルを踏んで回転数が上がって、次のギアに切り替えた時のスッとした感じ。あ、イギリスはマニュアル車がほとんどなのです。あのギアチェンジのタイミングがピッタリ合う人というのは何かの相性が良い気がする…という話は置いといて。

まず、私がこの国で仕事を始めるには思ったよりもずっと面倒なことが多かった。派遣会社に登録する時点でまず、10年使っていなかったオンボロの車の車検を通さなければいけなかった。しかもそれが得体のしれない外車ときたら。もう国家資格という免許だけが頼りの綱だった。

リファレンスと呼ばれる推薦者は通常二人で良いのだが、私の場合、日本とイギリス合わせて結局6人も要求された。日本の大学の先生を始め、昔の仕事の上司、イギリスでの自営業のカスタマーや日本語教室の生徒の親、所属している教会の牧師諸々…。みんな快く引き受けてくれてほんっとありがたかった。


その中の一人である私の大恩師が言った。

「3ヶ月我慢すれば何とかなるよ」

その感覚を得るまでに私は6ヶ月かかった。

ほんと毎日乾ききった最初の半年。そのメイン課題はやっぱり「英語」だった。
その頃の日記があったのでここに載せておこう。

*

ある時、私はフト気がついた。

「私は英語が苦手なんじゃないか?」

日本の中高校生英語や簡単な日常会話では気が付きも気が付かれずにもいたこと。
それは、私の英語のリーディングは、日本語のリーディングに比べて明らかに遅すぎると言うことだ。いや、遅いというより質が違うのだ。


そう言えば私は日本語を読むときには、ほぼ漢字を拾ってざくっとイメージを掴みながら読み進めるタイプで、大切なところや覚えておきたいフレーズなどはその一文に戻って読み返す。それを自然に習得していた。


それが英語文では難しい。恐らく絵本時代から英語に触れていたのなら違ったかもしれないが、私の脳には、例えばflowersという文字に花のイメージがくっついていないのである。

イメージがくっついているのはむしろ「音」である。

だから英語読みでは音読が役に立つ。



英語という言語において、ネイティブスピーカーでも失読症は10%いると言われている。それが日本語だと確か5%ほどに低くなる。

それもそのはず、英語のスペリングなんて信じようものなら秒で裏切られる。to とtwoとtooの発音が一緒なのだから。

「1時50分」が "Ten to two" (ten minutes to two o'clock) で、私には "10, 2, 2" に聞こえて頭の中で数字がコロがってしまう。こんな時は音から文字に変換しないといけない。


私の脳には、大袈裟に言うなら英語のアルファベットはもはや数字に近い。例えば 名前のMichelleを "M, I, C, H, E, double L, E" と早口で言われたら、私には "51423w3" くらいに聞こえる。口でNineと言いながら手で8と書いても日本語で同じことをした時ほど違和感がない。これはちょっと面白いので試してほしい。日本語だと口である数字を言いながら違う数字を手で書くことは一瞬難しいと思う。

私の脳はアルファベットも英数字もまだまだ間違えないようにと必死である。

ああ、日本に生まれて幸せだった、私。ラブ、ニッポン。



こんな感じで私は毎日はげしい脳疲労に見舞われ、目はかすれ、肌はボロボロ。同時に当時は食卓テーブルで仕事をしていて、腰痛も再発していた。
そこから少しお金ができて、ケチらずにいいオフィスチェアとデスクを買ったり、コンピュータ用の眼鏡を作ったり。

そして何度も何度も同じフレーズを使ううちに、そして読むにも書くにも音読をすることを心がけているうちに、ある時、一日のターゲット数をこなすことができるようになっていた。

ギアを上げる瞬間が来た。


第1グレード突破。

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