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棘のあるキミへ。

私を刺してなんになろうか。

庭の低い植木を剪定していて、何箇所かトゲに刺された。かゆみと赤み、僅かなミミズ腫れが、子猫を飼っている人の手を思い出させた。

その木は私たちが引っ越してきた時に庭にすでに植わっていたもので、濃い緑の小さな葉を一年中つけている常緑低木だ。そして棘だらけだ。密に棘。
横に縦に不格好に伸ばした枝は花も咲かせず実もつけない。なんともつまらないやつだ。
なぜ前住人がこれを植えたのか分からない。フラワーベッドの空いた場所をただうめただけかと思うと更に愛想が尽きてくる。

去年、私は意を決してそれを根こそぎ切ることにした。直径10センチ弱の幹が二本に分かれて伸びている。それをできるだけ深いところまで切ろうとしたが、隣の家のフェンスの間際に植えられており、なかなか上手く行かず結局土から20センチくらい残ってしまった。
それでもこれで諦めて枯れてくれることを願いながら冬を越した。

その翌春である。

幹は生まれ変わった。それまでの様子と打って変わってものすごい勢いで枝を伸ばし始めた。トゲも絶好調にビンビンだ。なんてこった。私はそれをおさめようと去年以上にトゲに刺された。

ここで冒頭に戻る。私は刺された左手をなでながらようやくこの低木の名前を調べようという気になったのだ。

まさにこの一つ上の行と、この行の間に、私は調べた。

「ピラカンサ」

なんだオマエは。

花も実もつけることができるヤツではないか。
少なくとも私が知るこの10年間、何があったというのだ。
確かにうちの庭の土は痩せていて粘土質だ。
これは三軒隣のおばちゃんと同意したので確かな事実だ。
日当たりも悪く、丈夫な花しか育たない。
しかもナメクジ天国である。
そこで生き抜いてきたオマエは長年の不毛に耐えていたというのか。
そして悲しい身のままただ私を刺したのか。
守るはずの花も実も知らぬままに。
ああ、哀れなピラカンサ。

それなら今年は肥料をたっぷりとくれてやろうではないか。
それでキミの本領を見せてくれ。
私は喜んで刺されよう。

(写真はお口直しのスミレ)


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