イギリスで作業療法士"アシスタント"、はじめました。 (2) キャロラインとの電話面談。
あれは確か2021年の6月頃だった。
エージェンシーとの最初のコンタクトから既に4ヶ月、それでもまだトレーニングとその他ヘルスケア職に必要な手続きが続いていた頃だ。
ハリー(私のCVを見つけてくれた私のエンジェルエージェント)から電話があり、何やら私の住む都市の市役所作業療法士チームが私を雇ってくれるというのだ。
面接試験もなく、キャロラインという名前の彼女と電話で話せるか、という内容だった。その時ちょうどナーサリーの面接結果を待っている期間だったけれども、ああ、これはもう「イエス」と言うしかない…。少しモゴモゴしたが、私はハリーが指差す目的地に向かって自分の小さな舟を出すことにした。
(メモ: キャロラインは本当はキャロリンだったことが一年後に判明。しかしながらほとんどの人がキャロラインと呼んでいるのでもうここではキャロラインということにしよう)
数日後、私は自宅のダイニングテーブルに携帯を置き、静かに約束の時間に来るはずの呼び出し音を待っていた。
ほぼほぼ緊張しながら取った電話から聞こえてくるキャロラインの英語。
これはまずいヤツだとすぐに分かる。早口に加えて文の構成がやたら複雑なタイプ。一文の後半に前半をやや否定するような説明をわざわざ加えてくれるので脳が混乱して情報を処理しきれず、私には8割方聞き取れないし記憶にも残らない。さらに専門用語羅列のノンストップな業務内容の紹介。
しかしまあそれもそのはず、就業後すぐさま理解できたのだが、とにかく業務内容の幅が半端なかった。市役所勤務の作業療法士には、症状に直接関わるリハビリテーション業務はなく、とにかく環境設備一色。それは手すり一本の注文から障害者用駐車スペースや住宅改造、そしてさらに他部門との連絡、つまり成人社会福祉部門(Adult Social Care)を中心としながらも市役所が市民一人ひとりの暮らしに関わる全ての業務に繋がっている立場だった。
就任後、うちの旦那が言った言葉が印象的だった。"Oh, you've got a GOV email address." Governmentのgovである。このメールアドレスを持っていると市の全職員はもとよりトップ役員、政治家までさらっと内部メールを送ることができる。また市民の皆さんもこれを使えば市役所職員だと信用してくれる。名刺代わりと言ったところだろうか。とにかく私は世に言うパワーを少しばかり手に入れたようだった。
話を戻し、
弾丸業務内容アナウンスが終わったところでようやくキャロラインが一息ついた。私は一言、「ワオ、すごいですね」と最低限の反応を返した。
キャロラインの英語に関しては、後に彼女自身も彼女の会話の複雑さを自覚していることを知るのだが、とにかくその時の私はもう肝心なこと二つだけを確認することを目標としていた。それはできるだけ家の近くの勤務先が希望なことと、「OTじゃなくて『アシスタント』でよろしく」ということだった。
キャロラインは何度か「OT」(HCPCに登録された作業療法士)の方で取りたい、申請料金(当時約580ポンド)も応援すると言ってくれたが、今すぐには出来ないと断わった。
ちなみにHCPC というのは医療技術者が登録する団体の略称。これに登録/認可されることによってイギリスでその専門職として働くことができる。これについてはまた後日紹介したい。
私は、電話面談の最後には「業務内容は多すぎて全部は分からなかったけど、とにかくイギリスでまた作業療法に関われることは私にとって素晴らしいことなので是非一緒に働かせてほしい」とかいう返事をした。
キャロラインはこの面談で採用を検討するとか言うよりも、向こうが経験のある人材を積極的に確保しようとしているといった様子だった。そして私は、アシスタントはOTの評価計画に基づいてOTに付いて仕事をするものだと思っていた…
とにもかくにも、私はとうとう十年間放ったらかしにしてあった埃だらけの小舟を小屋から引きずり出し、はっきり見えもしない目的地に向かっていざ海に漕ぎ出してみるのであった。
つづく…
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