今こそ学びたい「令嬢学」
「あーらごきげんよう。本日のオススメはこちらよ。令嬢の嗜みとして、ご一読されてはいかがかしら」
小説に出てくる令嬢のイメージはこんな感じでしょうか。
令嬢は小説・漫画・ゲーム問わず根強く登場していますが、本物の令嬢を見ることってあまりありませんよね。
この「令嬢学」は正真正銘の令嬢が令嬢に向けて書いた珍しい本です。本物の令嬢の世界を垣間見れることでしょう。
作者:三宅やす子
三宅やす子は、1890(明治23年)に京都師範学校校長・加藤正矩の娘として生まれ、お茶の水高等女学校を卒業しました。
家柄、育ち、まさに当時の社会では令嬢と呼ばれるにふさわしい女性でした。
若い女性のおともだちへ
読者に向けてこう書き出しています。
若い女性のおともだち。
私にもあなたのやうな若い日があった。
あたしたちにもあなたがたのやうに、晴れ晴れと踊りあがるやうな心をもっていました。
あたしたちの希望は、虹のやうに空いっぱいに広がっていた。
素晴らしいことが、きっと、いまにありさうに考えて、未来を楽しく描いていました。
けれども。
あたしたちの、すぐ眼のまへに、それからもっと遥かなさきにーー待ち受けていたのは何だったらうか。
未来。未来。希望。
その目的のために我慢させられて来たこと。
どれも、そのすぐそばまで来て見ると、フワリと消えてしまふ石鹸(シャボン)の泡だった。
あたしたちに、何かしら、間違ったものあったのだらうか。
も一度、やりなほしたい。
ほんたうに、もう一度、しっかりと、若い日から出なほしたい……(後は本文をお楽しみください)
華やかに見える令嬢も、華やかな幸せに囲まれた日々を過ごしてた訳ではなさそうですね。
令嬢の苦しみ
紹介した書き出しからわかる通り、令嬢三宅やす子は苦しく後悔の多い青春を過ごしました。
女性への縛りが厳しい時代において、大きな家の重圧を受け続ける令嬢は、ことさら多くの不自由を抱えて苦しんでいたようです。
このような記述もあります
私たちは生れることの自由を許されていない代わりに、死ぬことの自由だけはある。死ぬ気になれば今すぐでも死ぬことができる……
人さまざまの境遇により、或は生を選び、死を選ぶ、寺内夫人*は寺内夫人のゆく道をゆけばよし、これを讃むることも、けなすこともない。只お気の毒な、若いのに、と一片の悼辞を與へればすむことである。
*寺内夫人: 拳銃自殺した寺内あや子 / 元総理大臣・寺内正毅の子
この意見を持つまでに、一体どれだけ悩んだことでしょう、死よりも辛い日々を過ごしたことでしょう。
この本を通して、令嬢の苦しみを垣間見ることができます。
性道徳
その女性性が家の財産に近しい扱いを受けていた令嬢は、日々その性道徳について考えざるをえない状況でした。自分自身がどのように扱われているのか、考えなければ納得できない状況でした。
偏った処女尊重は、いよいよ男子の勝手な理屈を強めて、女性を弱い立場におくものだと思ひます。処女の礼賛は、軽々しく男子の思ふ通りに女性はひざまづかないぞ、不誠実な男子は、永久に女性の愛の手には抱かれないものだぞ、といふことを、現在よりも、もっともっと痛切に知らせるためでありたいものです。
こういった彼女の主張は現代においても読むに値するかもしれません。
目次紹介
標題
目次
序にかへて
第一章 令孃篇/3
1 令孃
2 新時代の女性とは何か
3 學習に就いて
A 書籍の選擇
B 讀書のしかた
4 社交
A 社交をたしなむこと
B 無作法をつつしむこと
C 社交と服裝
5 男女の交際について
6 家事の手傳ひ
第二章 戀愛・結婚篇/27
1 わが戀愛觀
2 戀愛に似たもの
3 女性と處女性
4 日本の女性と友愛結婚
5 機械的貞操觀時代
A 女性は男性の附屬物か
B 自殺を語る
C 男性中心の道徳
D 男女の最純潔な約束
6 性の問題
7 産兒制限公認可否
A 産兒制限反對論への疑ひ
B 子供に對する親の罪惡
D 現代の理想的な結婚
8 結婚の祝詞
第三章 現代思潮篇/77
1 現代の流行について
2 贅澤とは何か
3 女性の惱み
4 女のしごと
5 婦人と年齡
6 若い婦人の長所と短所
7 母ごごろ
8 誰がために粧ふか
9 不良少女と文學少女の關係
10 女性の藝術
11 婦人參政權問題の過去及將來
12 公娼廢止といふこと
13 婦人職業についての考案
14 男女交際に對する提唱
15 依頼心
第四章 相談に答へて/161
1 小説家になりたい女性に
2 自活を望む若き婦人に
3 血族結婚について
4 醜く生れた處女
5 理解なき結婚よりも信仰へ
6 飛行家志望
7 尼になりたい人に
8 氣弱い少女に
9 詩歌を志す少女に
10 奉公よりも職業婦人になりたい
11 貞操を破られた女の訴へに
第五章 隨想篇/207
1 ある場合
2 丸帶
3 戀愛は試練か
4 愛し得ぬ悲しみ
5 常識といふこと
6 初めての美容術
7 新時代
8 料理と女性
9 書齋
10 私と日記
令嬢としての視点・生活者としての視点・それらを夏目漱石に師事した文章力で組み立てている、時代を超えてもなお通用する、素晴らしい良書です。
ぜひご一読ください。
いやー、古書って本当に良いものですね。
それでわー!!
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