春の東北湯治㉑【贅沢なもやし生活】
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鶯宿温泉に到着する1週間前。私は青森県黒石市「温湯温泉」にて、ある食材を探していた。幻の食材とも言われる「大鰐温泉もやし」だ。
藁で束ねられた30㎝を超えるほどの長さを誇る豆もやしで、こちらは温泉水と温泉熱のみで栽培されている。独特の歯ごたえが特徴で、希少価値も高くなかなかこの町外に出回ることがない一品だ。
収穫時期は11月~4月頃。私が青森入りを果たしたのは4月24日、ギリギリ出回っている可能性があると踏んでいた。しかし、そう簡単には行かなかった。
大鰐町からほど近い黒石市。いくつか直売所やスーパーを回ったが見当たらない。温湯温泉街近くの「あっぷるはうす」という直売所でそれに近しい物を見つけ物色するも、店員さんから「大鰐温泉もやしじゃないよ」、と。
津軽地方では30㎝級の豆もやしの栽培は盛んに行われているが、大鰐温泉もやしとは似て非なるものだという。観光客がこのあたりにも求めて来るようだ。
旅館に戻り大鰐町のホームページを調べると、何とこのもやしを取り扱っている販売店は2店舗しかないのだという。事前のリサーチが甘かったことを悔やんだ。
この後私は下北半島へ、下風呂~大間崎を見てからまた弘前へと戻るという旅程。私の頭の中からは完全に大鰐温泉もやしの存在は消えていた。
だが事実は小説より奇なり。あれから1週間後、百沢温泉を発ち岩手県鶯宿温泉へと向かう道中。トイレ休憩のために「道の駅ひろさき」へと寄った。すると、何と野菜売り場に大鰐温泉もやしが出ている。出荷量が少ないために一人二束までと。
藁に束ねられたもやしは300円、結構な値段だ。だが俎板では収まらない程の長さ、300円とは言え、その長さは通常のもやしの8倍にもなる。これから待ち受ける毎日のもやし生活を勘案し、一食平均にすれば割高感はさほどない。
そしてこの商品が、時折首都圏の青森県アンテナショップに出回ると、輸送で若干劣化したものが500円になって販売されることも忘れてはならない。流石にその値段では尻込みしてしまい、手を出すことは出来ないだろう。運命的な出会いを感じ、ここは「買い」とジャッジ。
もやしを枢軸に鶯宿温泉では自炊を開始。10/1束もあれば立派な炒め物としてメインのおかずになる。だが、根の長さからか独特の匂いが残ってしまい、少々調理に苦戦を強いられる。
連日もやしとの格闘。ひげ根を丁寧に落とし、八幡平ポーク(この地域のブランド豚、夕方になるとスーパーで100円引になる)と合わせ炒める。味付けは塩だけで、これで何とも上等な逸品に仕上がった。やはり良い食材には余計なものは入れないほうが良い。
続いて手を付けたのが、「道の駅 雫石あねっこ」に売っていた袋めん(名前を失念)。生めんでスープが付いて1食100円ちょっとだった。ここでもあえて余計なことをせず、油で軽く焼きラーメンにそのままオン。
恐山で給水した天然水も贅沢に使う(生水なので早めに消化したい)。
「なっ!なんだこの旨さは!」
普通のもやしと何もかもが違う、シャキシャキというよりもパリパリに近い食感。麵やスープを差し置いて、堂々と食卓の主役を張る存在感だ。
因みに私の中のナンバーワン自炊飯は伊豆の「わさび丼」。
伊豆下田の「千代田屋旅館」で食した逸品、農家を兼業している宿から米を買い、近くの湧水処の天然水「大師の聖水」で炊く。そして鰹節問屋で購入した節にわさびをガリガリ。計算すると一杯の原価は60円ほどで押さえている。
あと一歩及ばずだったが、わさび飯にここまで肉薄して自炊飯は他にない。
「しまった、もうひと袋買っておけばよかった。。。」
今から買いに戻るとすると、、また田沢湖を抜け八幡平を超え、乳頭温泉、玉川温泉、後生掛温泉という名湯群に後ろ髪を引かれ県境を跨がねば。。戻ったところで、売っていない可能性が高い。
幻の食材、食えてよかった。
令和4年5月5日
<大鰐温泉もやしは温泉ライター高橋様の記事でもご紹介されています>
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