僕が旅に出た理由【飯綱町の夜喫茶・消灯珈琲「問い会」第4回イベントレポート】
旅に出たい。あなたがそう思うのはどんな時ですか?
「いつもの日常」は、どこか心地よく感じる一方で、時には物足りなさや息苦しさを感じることもありますよね。先の見えない不安に心を乱され、逃げ出したくなってしまう時もあると思います。
でも、そんな風に不安に振り回されるだけの人生にはしたくない。そう思った時、私たちは旅に出るのかもしれません。
長野県・飯綱町の夜喫茶「消灯珈琲」で、月に一度開かれる「問い会」。「問い会」では、毎月一つのテーマにそって、参加者たちが問いと言葉を交わします。
▼前回の様子はこちら。
第四回のテーマは「僕が旅に出た理由」。
約三年間海外を旅して周った後、今年四月に帰国し、飯綱高原で新たな一歩を踏み出したたけとさんをゲストに迎え、「旅と旅行の違い」や「旅が教えてくれたこと」について参加者たちが言葉を交わしました。それでは、当日の様子をレポートします。
みんなはどんな時に旅に出たくなる?
まずは、消灯珈琲の店主であり、「問い会」主催の彩花さんから、問い会の趣旨と今回のテーマについて説明されます。
彩花さん「『問い会』は、”生きにくさ”を軸に、毎月ひとつの“問い”をテーマに話をする会です。『こうじゃなきゃいけない』を言い合う場ではないし、“問い”に対する結論を出すことが目的ではありません。みんなが自分自身が“問い”の答えを見つけていく場になればと思っています。」
今回のテーマは「旅」。ゲストのたけとさんは海外で三年間旅をしたのち、今年の四月に日本に帰国し、小学校の先生として飯綱高原で働いています。
たけとさん「僕は大学卒業後、留学したりワーキングホリデーをしたりしながら約三年間世界を旅をして来ました。そして4月からは長野で小学校の先生をしています。今回は、みなさんとお互いにリアルな思いを重ね合えたらうれしいです。」
お二人の挨拶のあとは、まずは自己紹介。それぞれが、普段何をしているか、今日はどうして「問い会」に参加しようと思ったかを話していきます。
「普段は小学校の先生をしています。昨年転職したばかりで、同世代の友達がほしいなと思って参加しました。」
「飯綱のまちづくりの会社で農業に関する仕事をしています。今回は、ゲストのたけとさんのお話が聞きたくて参加しました。」
参加者の中には、普段から旅をしているという人も、そんなにという人も。彩花さんの進行により、まずはたけとさんが旅を始めるようになったきっかけから聞いていきます。
たけとさん「きっかけは大学三年生のときに感じていた、『このまま学校の先生になっても自分は何も教えることはできないのではないか』という不安ともどかしさでした。そこで、まずは自分が世界を知ろうと思い、東南アジアをバックパックで旅をし始め、次にインド、最終的に世界一周して、そろそろ先生をやってみたいなと思えるようになり今に至ります。」
彩花さん「みなさんはどんな時に旅に出たくなりますか?」
「私は仕事柄的にルーティン作業が多いので、現実逃避というよりかは『新しい事に挑戦してみたい』という欲で旅に出ることが多いです。」
「僕はすごく読書が好きで、『万葉集とか小説に出てきた場所に行ってみたい』と思い、旅に出かけることが多いです。あとは私は絵や小説の中にも世界は広がっている気がしていて、読書をしているとその世界を旅した気分になるので、本や絵を見ることも旅だなと感じています。」
「私は外で遊ぶのは好きなんですけど、ただ旅行となると楽しいだけじゃなくて疲れてしまう部分もあって。個人的にはそこがネックであまり外に出られていないです。ただ、私は信濃町出身で高校、大学、就職とずっと長野なので『外の世界を見てみたい』という思いはあるんです。けどその『いつか』はわたしにもくるのかな?という不安もあります。」
旅と旅行の違いってなんだろう?
彩花さん「今みなさんの話を聞いていて、海外に行った話をしてくれた方もいれば読書を旅と捉えている方もいたりして、旅の捉え方にバリエーションがあるところが面白いなと感じました。」
たけとさん「みなさんが旅と旅行の違いをどういうふうにとらえているのかを聞いてみたいなと思いましたね。」
その場で生まれた「問い」から、それぞれにとっての「旅」と「旅行」の違いについて聞いていきます。
「旅行は、場所を目的にして観光名所を巡るイメージがあります。逆に、行き当たりばったりで、プランをその場で決めていく移動の仕方が旅なんじゃないかなと。たとえば、会いたい人がいるからそこに行く予定をまず立てて、それ以外は『現地の人に聞いてその日泊まる宿決めちゃう』とか、『道中いい感じの店があればよっちゃう』とか。実際、先月自分もそれをやってみたんですけど、絶対普通に予定を組んでいたら行けなかったようなお店に行けてすごく楽しかったです。」
「私は、旅と旅行を混ぜている気がします。だいたい、旅行の目的は夜の時間にあって、それまでは割と行き当たりばったりで道中を楽しんでます。たとえば、旅行の最中に地元の人しか行かないような銭湯に行って、周りはみんな韓国人の人しかいないみたいな。そこでちょっと面白がったり不安になったりしている自分を客観的に見てみてみたりしています。」
「私はあまり旅行と旅を分けて考えた事はなかったのですが、聞いていて思ったのは、旅は自分を試すために、楽しい事だけじゃなくて苦しいことも覚悟した上での挑戦なのかなと。それに比べると旅行は楽しい事だけ、おいしいとこだけを目的としているイメージがあります。
たけとさん「そうなんですよね。旅って予測不可能なことが多いから、楽しい反面、辛いこともたくさんあります。でも、そこがまた旅の良さでもあるんです。さっき話に出た『旅行』というのは、『昼はここを観光して、次はこの場所へ、夜はこの宿に泊まる』みたいに道筋があらかじめ決まっているものかなと思っていて、もちろんそれも楽しいし、気楽です。ただ、予定以上のことが起こることはほとんどありませんよね。」
予期せぬ展開や偶然の出会いが旅のおもしろさ
たけとさん「それに比べて旅は、例えば『なんとなく入ったゲストハウスで出会った人に誘われて、気づいたらカフェやバーで一緒に飲んで、そのまま誰かのパーティーに参加しちゃった』みたいな、予期せぬ展開が待っているんです。僕はそういう即興性や偶然の出会いがすごく好きなんですよ。旅は決して楽しいことばかりじゃなく、むしろ辛いことのほうが多かったりしますけど、僕にとっては“旅は経験、旅行は娯楽”なんです。経験だと思えば、どんなに大変なことも楽しめてしまうんですよね。」
彩花さん「『旅は経験、旅行は娯楽』ってわかりやすいですね。たけとさんは即興性を楽しんでいるといったけれど、そういう即興性は楽しめないけれど、経験値とスキルを求めて旅をしている人もいるんだろうなと。」
たけとさん「僕も、最初の頃は旅の目的を決めてました。例えばインドを旅した時は、『インドを旅したら世界中どこでも旅できる』と聞いたので、自分の英語力の確認も兼ねて、バックパッカー力の向上を目的に。ただ、それをやっていると、目標を達成するための旅みたいになっちゃうんですよ。その場の偶然性とか、即興性を楽しむんじゃなくて、やりきったみたいな達成感で終わっちゃうのがなんかすごい悲しくて、次の旅は何も決めないでいこうと、特に目的を決めずにやり始めてから、旅が長く続くようになりました。」
彩花さん「たしかに目標設定しちゃうと達成しちゃうから、そこで旅が終わってしまうし、目標がないと行けなくなりますよね。逆に即興性を楽しもうとすると、新しい出会いや新しい発見があるから『また行こう』となりやすいですよね。」
さらに、たけとさんの旅の話を深く聞いていきます。
彩花さん「多くの人が新卒で就職していく間も、たけとさんは旅をしていたと思うのですが、それによって得られた特別なものはありますか?」
たけとさん「よく言う『広い視野を持てるようになりました』とか、そういうのはもちろんあるけど……。それよりも、ずっと不規則な日々の中にいたから、予定調和じゃないことが起きても対応できるようになった事のほうが僕の中では大きいですね。だから、僕はまだ26歳なんですけど、旅から帰ってきてからはよく『30代だと思った』と言われるんですよ(笑)。」
旅は私たちに何を教えてくれる?
旅が自分を成長させてくれたと語るたけとさん。旅の最中、どんな「予定調和じゃないこと」が起きたのでしょう。中でも印象的だった出来事を聞いていきます。
たけとさん「僕が最初に世界一周の旅を始めたとき、予算は限られていたので『お金が尽きたら帰ろう』と決めていました。残金が十万円を切った頃には帰りの航空券も確保して、そろそろ帰国しようと思っていたんです。そんなとき、一緒にいた韓国人の友達が「オーストラリアの国境が開いたらしいよ」って教えてくれました。」
たけとさんは、「これはチャンスかも」と思ったそうです。
たけとさん「ビザを申請して通ったので、日本に一旦戻って少しお金を借りてから、オーストラリアに向かうことにしました。『この時期に戻る』なんて決めていたら、こんな展開にはならなかったでしょうね。自由に旅を続けたことで、さまざまな出会いや経験が積み重なり、今の僕に繋がっています。もちろん、不安もありました。周りが社会人としての準備をしている中、僕はインドに三週間いたりして(笑)。でも、どう生きたいかを考えながら選んできた結果が、今の僕に繋がっているんだと思っています。」
たけとさんの旅の話を聞いたところで、今度は参加者たちの印象的だった旅について聞いていきます。
「私の祖父母は兵庫県に住んでおり、子供の頃からよく遊びに行っていました。ある時、一人で祖父母の家に帰ることになりました。小学六年生の私にとっては大冒険です。母が切符と『この時間にこの電車に乗って』と書いたリストを渡してくれましたが、途中で駅を間違え、知らない場所で降りてしまいました。次の電車がなかなか来ず、焦った末に、祖母にもらったお小遣いで特急に乗ることを決断しました。この小さな体験が、自分の成長に繋がったと思います。振り返ると、あのとき自分で決断できたことが嬉しく、ちょっとした“学び”だったと感じます。」
「私の母はフィリピン人で、小学六年生のときに初めてフィリピンに行きました。ある日、外でご飯を食べていたら、同い年くらいの子がいきなり私の食べていたご飯を取ったんです。母は私がまだ小さかったこともあり、変な影響を受けさせたくないと、その子に怒っていました。でも、一緒にいたおばさんは『仕方ないよ、当たり前のことだから』という表情で見ていたんです。日本で育った私は、食べ物が取られないのが“当たり前”だと思っていましたが、フィリピンではそれが通用しない。『普通』や『当たり前』は場所によって全然違うし、そもそも存在しないんだな、と学んだ出来事でした。」
「僕は朝鮮学校に通っていた時、修学旅行で北朝鮮に行った経験が衝撃的でした。僕らは観光で行っているので最高のおもてなしを受けている一方、現地の人たちは貧しい生活をしていて。そんな中でも、現地の小学生は笑顔で登校していて、それを見たとき『いろんな場所に世界があって、いろんな人間が生きてるんだ』と実感しました。」
人生という旅を振り返って、今何を思う?
夜が更けるにつれ話も深まり、話題は旅の話から人生の話へと移っていきます。
「僕は中学三3年生まで学校の先生に怒られたことが一度もなくて。高校では野球部で甲子園を目指していました。監督や先輩が絶対的な存在で、ただ言われたことをやる。それが当たり前の生活だったんです。ところが、大学に入ったとき、初めて『君は何がしたいの?』とボールを渡され、自分の人生を自分で考えなきゃいけない場面に直面しました。急に自分で決めろと言われても、何をどうすればいいのかわからず、戸惑いと不安でいっぱいでした。でも、このまま何もしないわけにはいかないと感じて、町に出ていろいろなイベントに参加し、人と会ってみることにしました。
そうして少しずつ行動を積み重ねていく中で、自分の道が少しずつ見えてきたんです。そして今では、900人規模のフェスを自ら主催するまでになりました。振り返ってみると、大学に入った瞬間からが僕にとっての“旅”の始まりだったんだと思います。自分の未来を自分で選び、意思決定を重ねる旅。考え悩むのもすべて自分自身の責任です。あのとき、人生のボールを渡されて戸惑いましたが、その瞬間こそが今の僕を形作ってくれたのだと感じています。」
「大学に入った瞬間が“旅”の始まりだった」という一言から、別の参加者も言葉を紡いでいきます。
「私は46歳で、勉強を頑張って皆さんが知っているような大学に入り、大学院にも進みました。でも、そこからいろいろな仕事を転々としたり、大人になってからいじめられたり、いろんな経験をしてきました。今こうして振り返ると、私なりにいろんなことを考えてきたんだなと思います。」
「ここに集まる人たちは、きっと『考えること』が好きなんだろうなと思うんですが、私は考えすぎて身動きが取れなくなることが多かったんです。考えて、考えて、ようやく答えが出ても、その先に何があるのか、結局わからないまま行動できないこともありました。頭では分かっていても、実際に前に進むのは難しい。
だからこそ今感じているのは、少し肩の力を抜いて、楽観的に考えることも大切なんじゃないかということです。特に20代は色々悩みがちで、たくさん考えると思いますが、あまり思い詰めすぎず、気楽に構えてもいいんじゃないかなと。私自身、今は『これをやりたい』と思うことがあるので、それに向かって少しずつ前に進んでいこうと思っています。」
話が盛り上がり、一時間の予定だった会は気づけば一時間半が経っていました。最後に、彩花さんの挨拶で今回の「問い会」が締めくくられました。
彩花さん「みなさん今日はお集りいただきありがとうございました。私は仕事柄あまり旅に行けないのですが、みなさんのお話をお聞きして、すこし旅をした気分になれてとてもうれしかったです。」
撮影:中嶋真也
執筆・構成:内田大晴
編集:風音
「問い会」主催・企画:一般社団法人わけしょ
<次回の「問い会」>
問い会 第5回《 (未定) 》…消灯珈琲のInstagramにて随時更新
問い会とは…
“生きにくさ”を軸に、毎月ひとつの“問い”をテーマに話しをする。結論を出すのではなく、同世代が今をどう選択して生きているのか、モノゴトをどう捉えているのか、話したり聞いたりして自身が“問い”の答えを見つけていく。
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日にち 2024//()
時間 19:00-21:00(1hトークセッション、1h茶話会)
場所 消灯珈琲
参加費 1000円(ワンドリンク付)
※席数が少ない為、定員に達し次第募集は締め切ります
※当日、通常の喫茶営業はしておりません
※分からないことや質問等気軽にDMでご連絡ください
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