“ 年上のお友達 ”が教えてくれたこと
ふた周りほど年上の、私のお友だちの話です。
その人を思い出すと、真っ先に
たんぽぽみたいな笑顔が浮かびます。
丸いショートカットにくっきりな二重、
親しみやすい雰囲気で、
くりぃむ色が似合うその方は
「文代さん」といいます。
*
便箋を探しに
地元の工芸品でもある和紙を求め、
和紙屋さんを訪ねたときのこと。
紙漉き機や大釜のある工房に並んで
古民家を改装した店舗がありました。
中には葉書や便箋だけでなく、
名刺に冊子、掛け絵や
のれんほどの大きさをした和紙まで
揃えてあります。
紙そのものに厚みの緩急を持たせ
模様を作り出しているため
窓辺に掛けられた大きな和紙は
外の光に、濃淡の絵を美しく
浮かび上がらせていました。
私は、紅いもみじが漉き込まれた紙を
手に取りました。
「父と母に手紙を書こうと思っているんです。
このもみじ、とても綺麗、、。」
思わず店員さんに話しかけました。
「これも裏にある山で採れたものなんです。
自然の赤みなんですよ。一つ一つ作るので
そっくり同じ柄のものはふたつとありません。
それにしてもご両親へお手紙、素敵ですね。
私の息子にも教えてやりたいくらいです。」
包みを受け取り、
和やかな空気のなか
その日はお店を後にしました。
*
「あの和紙、こういう風にアレンジしたんです。
父も母も、嬉しそうに受け取ってくれました。
素敵な和紙を、ありがとうございました。」
図々しいかなと思ったものの、
またお店に寄って
あの店員さんにそう伝えました。
和紙をあしらって作った
メッセージカードの写真を見せると、
驚いたように喜んでくれて。
来てよかったと、こちらまで嬉しくなりました。
*
それから
何度かお邪魔してお話をするうちに
距離が縮まり、
相談ごとまで聞いてもらうように。
そう打ち明けると、文代さんは
しだいに潤んでいく目を見つめながら、
私は静かに言葉を待ちました。
文代さんはところどころ呼吸を置いて、
溢れそうになる気持ちを整理しながら
話をしてくれます。
「羨ましい」という言葉を
簡単に言ってしまった自分に反省しながら、
文代さんの、
迷い、苦心しながらも
懸命に乗り越えた月日のことを
想いました。
文代さんはそう言って微笑んでくれました。
今度は私の方がうるうるして
急いでバッグからハンカチを取り出して、、
言葉は
胸に染み、
じんわりと心が熱くなりました。
*
「いいなあ」と、
輝いている人を見るとつい
思ってしまいがちですが、
その背景にある苦労を
私たちはどれくらい知っているでしょうか。
皆、弱いところ、見られたくない部分を隠して
気丈に振る舞っているだけなのかもしれません。
『いつ、何に出会うかわからないのが
人生だからね。』
文代さんが言うその言葉は
何よりも深く、心に残りました。
*
あの時もらった言葉と笑顔に
背中を押されながら
今、少しずつ明確になってきた夢を胸に
歩いています。
思いきりのない性格も
この際、味方にして
じっくりじっくり自分の道を歩く。
またいつか良い報告ができる日を
待ちわびて。
特別な、私のお友達。
このご縁に、感謝の気持ちでいっぱいです。