「日歯会長直接選挙は日歯会員にとって制度的な最低限の保障」=国民・会員に開かれた歯科医師会の構築に向けて=
2015年4月30日の東京地検による強制捜査は日歯内部からの告発で行われたことを当局から連盟役員に告げられたそうです。私が知る限り、日歯連盟は2004年の不祥事以来、コンプライアンスに則った運営を行うべく、連盟弁護士およびアドバイザリーボードの指導を受けながら対処し、必要な機関決定の下で執行してきました。特に連盟の最高決定機関である日歯連盟評議員会は全国の都道府県会長および評議員によって構成されていますので、この10年間の懸案事項はすべて審議されてきたはずです。その結果として、地検は組織ぐるみの犯行と断定し拘束されている身でありながら、その長たる日歯連盟の会長ならびに日歯連盟の組織を起訴の対象にしました。
当時、東京地検特捜部に拘束されている高木幹正前会長から日歯代議委員宛の手紙の中で【組織の内部事情に端を発したことだけに、会員である私にとっても忸怩たる思いで非常に残念であります。】と書かれており、拘束されている身でありながら精一杯の心境が述べられています。既にご周知のように今回の事件の発端は日歯会長選に伴う日歯内部抗争によって生じた外部への情報提供によることが特捜部の捜査進展の経緯で明らかになりました。つまり、選挙制度のあり方に起因するものと思われます。
この事件を風化させないために日歯代議員という立場から選挙制度を見直すことが使命だと考えています。そこで、これに関する私見をNoteに投稿することにいたしました。
公益社団法人日本歯科医師会は日本政府と交渉できる47都道府県歯科医師会を代表する唯一の団体です。
社団法人の本質は目的に賛同する専門家による集団で、その財産はそれを構成する人間そのものであります。歯科医師会は定款にある目的に賛同して集まった歯科医師の集団であり、その財産は歯科医学の知識、歯科医療の技術、会員の持つ医療手段すなわち医療機関が財産そのものです。その専門家集団を動員して会の事業を推進するのが本来の姿であります。そのためには、会員の合意の形成が重要なポイントとなるのは言うまでもありません。
公益社団法人日本歯科医歯会の定款第3条の内容は、極めて公益性、社会性の高い団体であり、その長たる日歯会長の選任は、国民からみても民主的で、かつ公正な方法によってなされるべきであることには、会員だれにも異論のないところだと思います。
しかしながら、現行定款では会長は選挙人および代議員会によって選任される為、一般の会員が組織の長の選任に関与することができません。このため、従来の会長選出は、少数の同窓会の有力者間の話し合いや地域ブロックによって実質上左右されているのが実態です。
日歯の長い歴史の中で、それはそれなりの役割を果たしてきたと思いますが、国民の意識向上と民主主義の定着によって、こうした実態は一般会員の不満となり、また日歯に対する無関心ともなり、ひいては、未入会員の増加につながっています。現在日歯が重大な局面にあるにもかかわらず、その総力を結集して諸施策を強力に推進することのできない根本的な原因にもなっていると思います。
日歯、理事の選任の権限を持つ代議員制度は社団法人および財団法人に関する法律には存在しない内閣府公益認定等委員会の許可による特例であります。この特例で代議員を社団法人の社員とし、「選任後の理事会において代表理事となる会長の選定にあったては、会員の意識を調査し、その結果を参考にすることができる」となっており会長予備選挙のための選挙人すなわち中間選挙人の選出に繋がります。中間選挙人が会長を選挙しますが、その場合、中間選挙人が一般会員の意思にそのまま合致するような結果を出すとすれば、中間選挙人は無用の長物と化し、逆に中間選挙人が一般会員に反するような結果を出すとすれば、中間選挙人は有害な存在となります。特に問題なのは、どの様な政策が争点になるのか分からない会長候補者の存在しない時点に選挙人が選出されていることにあり、候補者の選挙公約のない状態で選ばれた選挙人は、場合によっては、一般会員の意志に反した結果を招く恐れがあります。
日歯の定款においては代議員会及び理事会により間接的に会長の選定がなされているため会員の意識の調査は最大限尊重されるべきであります。しかし現行の予備選挙は会長候補が決定する前に選挙人の選出締め切りがなされているため、日歯定款第35条2項の会長選定にあったては会員の意識を調査し、その結果を参考にする旨の規定に違反している疑いがあります。
そもそも、中間選挙人及び代議員による選出は一般会員の無見識や激情を予想し危惧する立場においてのみ意義を持つものであり、日本歯科医歯会の一般会員を愚弄していると言っても過言ではありません。
日歯会長予備選挙を全会員による選出方法にすれば、一部有力者が話し合いによって候補者を絞るということが困難となり、会長選出において今まで蚊帳の外に置かれたという多くの一般会員の不満が取り除かれることになります。
そして、選出された会長は会員と同じ価値観の共有化と、真に全国会員によって選ばれたという自覚と自信によって強い使命感と指導力を持つことができ、より強力な執行体制のもとで諸施策の実現と公約を実行していく制度的な最低限の保障が確保されます。
平成14年9月に実施された関東ブロック会員意識調査によれば、日歯会長直接選挙を肯定するものが54.5%で、否定するもの10.0%、また日歯会長の選出制度の現状を肯定するもの10.4%、否定するもの57.3%であり、更に日歯に会員の声が充分届いていないとするものが91.4%にのぼっている現実を重く受けとめるべきでしょう。
この意識調査の結果を裏付けるように、全歯科医師に対する日本歯科医師会会員の組織率は年々減少し、それに伴って国民・政府・関係団体への歯科医療制度、社会保障制度等に対する主張は弱体化し、また、日歯会財務運営、会員福利厚生への障害ともなっています。会員の組織率の向上、執行部の求心力の強化、会員意識との乖離の減少からも全会員により直接選挙は必須ではないでしょうか。なお、費用と労力の増大を懸念する向きもありますがDX&AIの活用など社会の進展により、効率よくあまり経費をかけずに効果的な手法が可能です。
やる気のない者は常に出来ない理由を探します。やる気のある者は解決法を考えます。要は会員のためにやる気があるかどうかであります。資金がなくとも立候補できるように、
立候補者の経済的負担や公平を期するために、選挙広報活動等の費用は日歯が予算化すべきと考えます。
最後に、次期会長立候補者は派閥のボスではなく、学術団体の代表として学識に裏づけされた、国民に対して恥ずかしくないアカデミックな人物が望まれます。
選挙人、代議委員ではなく、一般会員向けの政策論争を展開して下さい。
優れたチェンジ・エージェントの出現を期待します。
(公)日本歯科医師会代議員