新米サンタはトナカイのビールを飲んでやってくる
「何だか賑やかだし、普通と違うぞ」。いつもと違う晩御飯にデザートのお子様ケーキ、そして父や母のテンション。クリスマスイブという盛り上がりを察していたのか、今日はなかなか寝てくれなかった愛娘ちゃんがやっと夢の中に。
さあ、新米サンタのお仕事開始である。
新米サンタに、トナカイがひいてくれるソリやオフィシャルの制服などが貸与されるわけもない。期間限定、契約期間の制限アリ、更新・正職員登用ナシの聖クラウス様の代行任務である。全世界に広がるWSN(ワールド・サンタクロース・ネットワーク)。末端も末端、小さな島国の新米代行者にまでアレコレ貸与していたら、あっという間に運営が破綻してしまうだろう。
グッと我慢し、愛娘ちゃんへのサンタ業務遂行に備えてビールを飲む。
なるべくサンタっぽい方が業務遂行のテンションがあがるかしらん。そんなことを考えて、お祝いイブとなる本日、(金額的に)めったに飲まないクラフトビールを買ってきたのである。
銀河高原ビール。
紆余曲折があり、現在は東北は岩手県での生産は終了してしまったらしいが、岩手県の大きく広い夜空とあの宮沢賢治先生の「銀河鉄道の夜」を想起させてくれるドイツの白ビール”ヴァイツェン”タイプのビール。
ロゴは雪景色にトナカイ。ホワイトクリスマスのサンタクロース業務にピッタリのビールである。
昨年2022年のクリスマス。君は生後6か月ということもあり、特別な日であろうが通常の日であろうが、どんな日であれ等しく刺激がいっぱい。違いを認識している様子がなかった。
しかし、今年は違う。
外出時にお店の中でクリスマスツリーをみつければ「クマトリー!クマトリー!」とニコニコし、ついには「サンタしゃん」なる言葉まで発した君。
慌てて父は決意したんだ。サンタ業務者代行者の登録を。英語だらけの書類を何枚も何枚も書かないといけないので、登録に躊躇していたんだけれど。
君が物心ついた時にはしっかりと教えてあげようと思っているが、クリスマスにプレゼントを届けるのはサンタクロースではなく、父がサンタさんを代行しているのだ。しかし、これはサンタクロースがいないことを意味するのではない。
聖クラウス様という、1年間頑張った子供達にプレゼントを届ける聖人は確かに存在した。しかし、考えてもみてほしい。医療技術が発展した現代であっても、長生きできて100年程度。そう。残念なことに、聖クラウス様は既にお亡くなりになられている。
そこで登場したのが、WSN(ワールド・サンタクロース・ネットワーク)なのである。
聖クラウス様が体現してくれた子供達への「想い」や「愛」。それは子を持つ親の気持ちと同じである。クラウス様の気持ちを引き継ごう! そんな親たちが結成した秘密結社WSN。今では全世界に広がり、おもちゃ業界やお菓子業界の年末商戦すら左右できるほどの規模となっている。
君がサンタクロースを認識したのであればと、父はその秘密結社に所属した。そして本日が記念すべきその最初の業務日なのである。
トナカイのビールを飲み、ヨドバシカメラのクリスマスプレゼント袋に包まれた「はじめてのシルバニアファミリー」を準備する。
君は喜んでくれるだろうか。
対象年齢が3歳以上の玩具ではあるけれど、近隣の子育て支援室で一生懸命遊んでいることを聞いている。先日先行して、じいじとばあばに買ってもらったシルバニアのお家と連結できることも確認済だ。
ちなみに、このプレゼントが君のおもちゃコレクションに加わったとしても、ショコラウサギの「パパ」が不在となるため、パパも単品で購入しセットにした。サンタ代行者にこれでもかと散財を強いる、恐るべしシルバニアファミリー…
まぁ、それはさておき。
さあ、いざ、新米サンタ代行者のスニーキングミッション、スタートだ!
明日の朝の君の顔を想像しながら、父は君の枕元に…。
※このエッセイはフィクションです