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無題なんだけど、戦争画をテーマに書いてみた大長編の何かです。

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数年前に書いた話(小説とかいうのはちょっとおこがましい。小説の書き方的なことを勉強したわけじゃないので)を、去年とある賞に投稿してみるか、と整理/加筆したものを細々と更新。という…
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2024年1月の記事一覧

無題/戦争画をテーマにした物語(第4部のつもり⑥)

          33     神田でしか買えぬ素晴らしい本     未来にはばたく少女を磨く雑誌          「ぶらいと」愈々創刊!!    私は大判の紙にこの文言を大書し、墨も乾かぬうちに店頭の一番目立つところに貼り出した。その手前には、我々が刊行を待ちわびた本が、作り手が朝一番で納品してくれた本が平積みになっている。  昭和22年、春。ようやく、武村さんと飯村君の雑誌「ぶらいと」が創刊にこぎつけた。  ふたりは「ぶらいと社」という小さな出版社を前年のうちに立ち上

無題/戦争画をテーマにした物語(第4部のつもり⑦)

      34    梅雨入りの少し前。「ぶらいと」は父の言葉どおりに、神田界隈の女の子の間であっという間に評判になった。  例えば、学友からその噂を聞かされた女学生が本を求めて神田を訪れたものの、とっくに売り切れで…… といったことが、我が店をはじめ「ぶらいと」を取り扱った店のほとんどで起きていた。また、創刊号を買い逃した層からの問い合わせ、級友から借りて読んだと思しき少女からの「次号が楽しみ」という便りなどが、編集部に続々と寄せられた。  読者の存在、彼女らからの反響は

無題/戦争画をテーマにした物語(第4部のつもり⑧)

      35    梅雨明けの数日後。「ぶらいと」夏号と、小笠原君が挿絵を手がける新連載「水底巨岩城」を巻頭に据えた「ぼうけんブック」が我が店の店頭に並んだ。その奥で、私と父、平澤君の妻の富枝、そして陽子は3人の激励会の準備を始めていた。富枝と一粒種の喜久雄君を連れてきた平澤君は、机を出したりなどの手伝いを終えてから子どもを連れて散歩に出た。  平澤君は「とんでもないご馳走が出てくる」などと言っていたが、このご時世で卓上をにぎわすような食材が用意できるわけもない。かといっ