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無題なんだけど、戦争画をテーマに書いてみた大長編の何かです。

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数年前に書いた話(小説とかいうのはちょっとおこがましい。小説の書き方的なことを勉強したわけじゃないので)を、去年とある賞に投稿してみるか、と整理/加筆したものを細々と更新。という…
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2023年12月の記事一覧

無題/戦争画をテーマにした物語(第4部のつもり⑤)

       32  平澤君と小笠原君が帰って、武村さんも夫人との約束があるとかで店を出てから、私と父、それから飯村君の3人で話し合った。  私は、彼がこれまでのことを語りながら泣き出した時、うっかり怒鳴りつけそうになったことを打ち明けた。彼の、変わっていないようで「変わり果てた」といってもいいのかもしれないほどのたたずまい、醸し出す雰囲気。そういうところから、彼が背負う羽目になってしまったものの大きさ、怖ろしさを感じ取り、「とても受け止めきれない」と思ってしまったのかも

無題/戦争画をテーマにした物語(第4部のつもり④)

      31  ついさっき再会したばかりだという小笠原君と平澤君を椅子に座らせ、さっそく質問責めにしてやろうか、というところではあった。しかし懐かしい顔が一度にふたつも揃ったものだから、どこからどう攻めていけばいいのか、まるで見当がつかない。当然ながらふたりそれぞれの話をじっくり聞きたいし、こちらだって近況報告をしなければいけない、話したいことは山ほどある。おまけに再会の嬉しさもあり、すっかりわけが分からなくなってしまった。  お茶を持ってきた父に「ご無沙汰しています

無題/戦争画をテーマにした物語(第4部のつもり③)

       30  その後、柴田さんと店舗兼住居の賃貸契約を済ませた武村さんと飯村君は、入居準備などのために頻繁に神田を訪れるようになった。柴田さんは早くも身の回り品の整理を始めていたが、それを手伝う中で不要品を引き取る話などもしていたし、柴田さんのほうで近隣の店などに連れて行ってくれることもあるという。 「柴田さん、『気が早いかもしれないけど、今のうちに挨拶を済ませておけば、あとあと楽だから』って。もう5軒ぐらい行ったの」 「『本屋だけじゃなくて、本を作る側の知り合い

無題/戦争画をテーマにした物語(第4部のつもり②)

        29  昭和21年の年が明けた。我が家はまだ本業の書店を再開してはおらず、「まずは人助けを」という父の方針に従って諸々動いているうちに、井戸端会議場あるいはよろず相談所的な機能も持つ場所に変わり始めていた。  尋ね人の貼り紙を受け付けるのは相変わらずだったが、そのうち探す人と探されている人がこの場で再会を果たし喜び合う、といった場面に立ち会うことも増えた。父が「人が集う場所があってもいい」と言い出し、すかすかになった本棚の一部を片づけて小さなテーブルと椅子

無題/戦争画をテーマにした物語(第4部のつもり①)

        28  想像はしていたし、新聞に載った写真であらかた分かってはいた。しかし実際に見ると、やはりそれらの比ではない、と思い知らされた感があった。上野駅前はじめ東京に広がっていた光景のことだ。街並みは「変わり果てた」という言葉など薄っぺらく感じるほどだったし、通りには子どもたちが、「これからどうすれば」などとのんびりしたことなど言っていられないほどに追いつめられた子どもたちが溢れている。  飢える子らにとって私の鞄なども盗みの標的になる、と思い知らされるようなこ