数年放置のシングルスピードバイクを復活させてみた■2023年08月20日更新
広島県広島市にある『動く』自転車屋【サイクルサービストグト】のnoteをご覧いただきありがとうございます。
改めてシングルスピードバイク(特にピストバイク)の魅力も再認識した『快適長持ち系自転車安全整備士』ノーリー(店長)です。
シンプルな構造ゆえの美しさや奥深さってありますよね。
ギアードバイク(よくある多段変速のロードバイク)もメリットが多いし、自転車はカテゴリー毎に違う魅力があるわけですよ。
いつもいつでもいつまでも自転車は楽しい!
■今回の患『車』
こちらの車体、数年放置されていたようですが、再び楽しく乗りたいということでオーバーホール作業を承りました。
★ブランド★
【FUJI】(フジ)
★車種★
STROLL(ストロール)
★年式★
不明
全体的に大きな損傷があるわけではありませんが、気になる箇所はいくつかあります。
まずはお預かり時点での細部を見ていきましょう。
『アルミは錆びない』と言われたりしますが、酸化しないわけではありません。
所謂『白サビ』というもので、ブレーキレバーもよく見ると白い点々が発生しています。
ハンドルバー固定用のボルトは『茶サビ』と呼ばれる状態です。
ステム固定用のボルトの頭もわかりやすく錆びています。
ブレーキ本体には白サビ、シュー固定用ボルトは茶サビです。
数年の放置でサビは進行し、汚れも溜まっています。
ブレーキのリターンスプリングのサビは特に怖い部分です。
作業に取り掛かってみて、再利用可能なレベルか要交換なレベルかを判断します。
ブレーキシューは減っている感じはしませんが、数年放置されているそうなので、分解チェックの結果次第では交換するかもしれません。
タイヤはかなり劣化していました。
今回はユーザーさんとの打ち合わせにより、チューブとセットで交換するようになります。
ホイール固定用のナットやアクスルシャフト(ハブ芯)のサビも気になります。
キックスタンドはスプリングの部分が錆びている可能性もあるので、油断はできません。
リアもホイール固定用のナットやアクスルシャフトのサビが気になります。
それより、フリーギアがちゃんと外せる状態かどうか…。
固着していたら泣きそうになります。
フレーム全体に汚れが蓄積されているので、これも可能な限りキレイにしましょう。
クランクセットは磨けば輝きを取り戻せそうな気がします。
ユーザーさんにとっては『自分に合う』から気に入っているというサドル。
一部破れてしまっていますが、これは再利用します。
【FUJI】(フジ)STOROLL(ストロール)はクロモリフレームのシングルスピードバイクです。
細いフレームに昔ながらの規格を採用し、クラシック・ヨーロピアンテイストを醸し出しています。
ユーザーさんとともに再び快適に走り出せるよう、入念にオーバーホールをやっちゃいましょう!
■完全分解~フレーム&フォークの下処理
ヘッドパーツ(特にベアリング)の状態を確認するためにも、まずは分解しなければなりません。
グリスが劣化していること、そして少ない状態になっていることがわかります。
BB(ボトムブラケット)シェルは汚れが溜まりやすい部分ですね。
シートチューブの内部はサビが進行しています。
フロントフォークについている玉押し付近はこういう状態です。
リアラック用のダボの雌ネジの精度上げをしています。
リアホイール固定用ナット付近も同様です。
タッピングツールを使っています。
フロントフォークのダボも精度上げをしてみると、大量のカスが出てきました。
シートポストへのダメージを軽減するため、シートチューブのフチを面取りします。
BBシェルも再度タッピング。
これで後々、カスタマイズやチューンナップがやりやすくなるでしょう。
ついでにBBシェルのフェイシングもやっちゃいます。
平面度を高めることで、アウターボードタイプのBBの収まりが良くなります。
せっかく精度を上げたダボも、そのまま放置すればサビによってまた精度が落ちます。
少しでも錆びにくくするため、ボルトを使って…
雌ネジにグリスを塗布します。
せっかくフレームだけの状態にまで完全分解したので、ついでにフレームの各パイプ内部に長期防錆剤を行き渡らせます。
クロモリに限らず、鉄製のフレームはどうしてもサビが生じるものです。
それを少しでも食い止められるように、できるだけの下処理はしておきます。
ユーザーさんのご要望でバリアスコートも施工。
輝きを取り戻すだけでなく、小さなキズは目立ちにくくもなります。
ヘッドパーツはカップ(ワン)も叩き出して、全て徹底的に洗浄します。
↑洗浄したものがこちらです。
まだまだ再利用できますね。
ヘッドカップは滅多に抜き取らないので、ヘッドチューブには特殊なグリスを使っています。
ロアーカップ(下ワン)のロゴとヘッドチューブのバッヂの位置関係を良い感じに合わせています。
スペック表では性能に関係ありません。
しかし当店では、乗り手が気分良く乗れるヴィジュアルも性能のひとつだと考えています。
フロントフォークを組み付けるためにも、ヘッドパーツが
必要です。
【SHIMANO】のプレミアムグリスを溢れんばかりに注入しています。
フレームとフォークは繋がりました。
細かい調整は後ほど行います。
■ステム・ハンドルバーの下処理
分解できるだけ分解し、まずはしっかりと洗浄します。
ボルトや斜臼(シャウス)のサビは落としておきたいですね。
ステムの白サビは磨いて落としてみましょう。
一発目のサビ落とし剤。
これで大まかに磨きます。
二発目のサビ落とし剤で、さらに磨きます。
仕上げの乾拭きで白サビにサヨナラ!
完全とは言えませんが、それでも輝きが戻ってきました。
サビを落としてグリスを塗り、ネジ山に行き渡らせます。
ステムを組み直しました。
ひそかにハンドルバーも磨き上げています。
■ブレーキまわりの下処理
白サビと茶サビの共演舞台となっていたブレーキまわり。
何とか輝きを取り戻したいものです。
↑左レバーは磨いた後、右レバーは磨く前です。
写真では伝わりにくいですが、実物では輝きに大きな差が出ていました。
ブレーキワイヤーのアジャストボルトにも下処理を。
磨き続けること数時間…。
ようやく納得いくレベルの輝きを取り戻しました。
懸念していたブレーキ本体のリターンスプリングは無事でした。
決して動きは悪くなく、サビはかなり除去できました。
ブレーキシューもしっかり洗浄して入念にチェック!
その結果、再利用できそうです。
■シートまわりの下処理
シートポストのサビはフレームからの移りサビです。
シートクランプやヤグラの白サビ、ボルトの茶サビもできるだけ落としたいですね。
まずは表面の汚れを落とします。
残っている汚れのようなものがサビです。
ボルトのサビは落ちたので、サビ防止のためにヅケ(当店ならではのオイル漬け)にします。
シートポストにうっすら見えるジグザグ模様は、もともとのシートチューブの下処理が甘いことによってできたキズです。
サビと共に目立ちにくくできるかどうか…。
磨き終わりました!
普段は見えにくいボルトですが、しっかりと輝きを取り戻しています。
■キックスタンドの下処理
ナットやプレートは錆びていました。
サビを落としてヅケにします。
ダイレクトにフレームへ装着されていたので、仕様済みチューブを加工してクッション材にしています。
フレームへの当たりは多少なりともマシになるでしょう。
見落としがちなスタンド用のスプリング(バネ)。
ここにも注油をしておくことで滑らかな動きが持続しやすくなり、サビ防止にも繋がります。
■ドライブトレインの下処理
サビや汚れの定着率が圧倒的に高い職場、駆動系。
少々のサビは気になるものの、チェーンは再利用するので洗浄はしっかり行います。
クランクも磨けばこの通り!
クランクフィキシングボルトやBB、フリーギアもチェーンリングもできるだけ掃除し、少なくとも素手で触っても手が汚れないレベルにはなりました。
■車輪まわりの下処理
少し振れが生じていたので、まずは振れ取り作業から。
リムフラップも見落としがちなパーツのひとつですね。
これは要交換です。
ハブのオーバーホールも進めます。
グリスは少なくなっているだけでなく、当然劣化もしています。
古いグリスを除去し、一旦キレイにしていきます。
↑フロントハブを構成するパーツ類です。
これもキレイにします。
ハブがキレイになりました。
アクスルシャフトや玉押し、ベアリングやナット等もキレイになりました。
続いてリアホイール。
ベアリング(玉)の大きさと数が前後で異なります。
やるべきことは同じです。
ちなみにこれはフリップフロップハブと言い、1本のホイールでフリーギアも固定ギアも使えるものです。
汚れをしっかり落とせました。
ハブも徹底洗浄済み。
ホイール固定用ナットのサビも気になったので…
サビを除去してからヅケにしました。
※新品ではなく再利用品です。
ハブも滅多に分解洗浄しません。
後々のことを考え、【SHIMANO】のプレミアムグリスを惜しみなく注入しています。
はみ出したグリスはそのままネジ類に塗り、サビ防止のために役立てます。
もちろん、最終的にはしっかりと拭き取りますが、油膜は残るでしょう。
リムフラップは再利用せず、リムテープを採用しました。
ただリムテープを貼るだけではなく、末端の面取りもしています。
タイヤとチューブは新品に交換しています。
バルブに対してのタイヤラベルの位置を合わせています。
これは好みの問題ですね。
フリーギアを固定する前にネジの固着防止剤を塗っておきます。
下処理をせずに固定してしまうと数年後に詰む可能性があるので、やっておいて損はありません。
蛇足ですが、タイヤの側面はヒゲ抜きもしています。
■ケミカル類は適材適所で使い分け
せっかく精度を上げたBBシェル。
これを長持ちさせたいですよね。
BB固定には水に対してとても強いグリスを採用しています。
回転部分にはまた別のグリスを採用。
固着防止とサビ防止にはまた違うグリス。
ペダルのネジ山には【WAKO'S】のスレッドコンパウンドを採用しています。
チェーンを繋ぐ前にフレームを養生しています。
きちんと繋がりました。
ユーザーさんの主な使用用途をヒアリングして、チェーンルブを選定します。
ブレーキワイヤー類も状態を判断した結果再利用することにしました。
長持ちするように下処理もしています。
当店オススメのダミーアウター工法を導入し、車体を担ぎやすくしました。
フレームバッグを使う時にも便利ですよ。
■完成ッ!
車体の構造はシンプルですが、今回は磨き作業にかなりの時間を要しました。
サビは完全に除去し切れるものではありませんが、できるだけ愛着のある部品を再利用しつつ、リフレッシュはできたと思います。
というわけで、『アフター』での細部を見ていきましょう。
フロントフォークは徹底洗浄からのバリアスコートによって、ツヤを取り戻しています。
ブレーキ本体もお預かり時点の状態とは比べ物になりません。
しっかりと輝きを取り戻しました。
リアも同様です。
ワイヤーエンドの処理は当店独自技術の『マーブルエンドフィニッシュ』(MEF)で仕上げています。
サドルはそのまま再利用ですが、拭き掃除をしています。
シートクランプ本体もボルトも輝いています。
チェーンの僅かなサビは残っていますが、
チェーンリング(フロントギア)も随分キレイになりました。
フリーギアも可能な範囲で洗浄し、サビ防止のためにうっすらと油膜を張っています。
ユーザーさんとの話し合いでCTA(チェーン・テンション・アジャスたー)を入れることにしました。
整備性がグッと向上します。
フレームもツヤを取り戻しました。
洗車&コーティングの効果は抜群です。
ダミーアウター工法を採用したことで、ブレーキインナーワイヤーによるトップチューブへのダメージを軽減します。
フレームバッグを採用する時や、車体を担ぐ時にとても便利です。
ステムもハンドルバーもしっかり磨き上げたことで輝いています。
ハンドルバー固定用のボルトもできるだけサビを落としました。
グリップは【ERGON】GP1のブラック&ブラック(日本限定カラー)をお買い上げいただきました。
一旦組み付けていますが、納車時に角度を調整します。
ブレーキレバーも納車時に角度を調整します。
ハンドルバーは替えるかもしれないので、ブレーキアウターケーブルは長めに残しておきました。
自転車を運転する際、ポジション(乗車姿勢)はとても大切です。
タイヤとチューブもお買い上げいただきました。
用途をヒアリングし、乗り心地と耐パンク性能、そして価格のバランスを考慮して【MAXXIS】(マキシス)のRE-FUSE(リフューズ)を採用しています。
新品ゆえにタイヤの表面にはワックスが付いていて、慣らし運転をすることで本来の性能を発揮します。
キックスタンドの取り付けにもひと手間加えています。
どうしても傷は入るでしょうが、ダメージは軽減できるハズです。
オーバーホールだけだと地味な作業なので、見た目に大きな変化は感じられないかもしれません。
しかし、乗ってみれば
「あれ?
こんなに軽く進むものだったっけ?」
と感じられるでしょう。
■シメ
思い入れのある愛車も、メンテナンスをすることで快適に長く使うことができます。
特にオーバーホール作業は時間もお金もかかりますが、その分、効果は非常に大きいです。
何をもってオーバーホールとするか。
これもショップによって考え方が異なりますが、当店では分解・洗浄・注油・組付・調整の基本を大切にしています。
もちろん、最初のヒアリングや途中経過のご連絡等も大切です。
ユーザーさんのご予算やご希望の納期に合わせ、部品の磨き作業等も行います。
納得いく仕上がりのためにも手間は惜しみません。
愛車のリフレッシュはお気軽に当店へご相談下さい。
■自転車関連のご注文・ご依頼等はメールか公式LINEでお気軽にどうぞ↓
当店は出張修理等が多いため、決まった店休日や営業時間という概念がありません。
他店様が営業していない時間帯でも予約制にてご依頼等を承ります。
また、当店にて自転車の販売(防犯登録含む)も行っておりますが、他店様にてお買い上げの自転車の組立や点検及び調整、修理やカスタマイズ、オーバーホール等のアフターケアも大歓迎です。
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